ヘリウムが世界的な供給不足に陥っている。超電導磁石や半導体製造などに使われるヘリウムは天然ガスから採取される貴重な資源。しかし、最大の供給元の米国でシェールガスの採掘が増加、製造プラントの老朽化と相まって供給悪化が近年続いている。アジアなどの新興国需要も追い打ちをかけ、このままでは枯渇するともいわれている。国内のガス会社、企業、研究機関の取り組みを追った。
液体ヘリウムの充填作業が行われる岩谷産業の大阪ヘリウムセンター。マイナス269度という極低温のため、専用の容器に注ぎ込む時は、周りの空気が液体となって滴り落ちる現象が見られる(大阪市住之江区)
2012年末、世界中でヘリウムの需給が逼迫(ひっぱく)し、国内ガス会社の備蓄庫からヘリウムが消える「ヘリウム・ショック」が日本を襲った。ヘリウムを入手できず工場の稼働が一時止まったり、核磁気共鳴装置(NMR)が停止する研究所が相次いだ。身近なところでは東京ディズニーランドのバルーンが販売中止になるなど各方面で影響が広がった。
水素に次いで軽く、沸点がマイナス約269度と最も低いヘリウムは、電気抵抗がゼロの超電導技術に欠かせない存在だ。2027年に開業を目指すリニア中央新幹線の超電導磁石に使用されたり、磁気共鳴画像装置(MRI)などの医療分野、光ファイバーや半導体製造など工業用途として幅広く使われている。娯楽分野では飛行船や風船などの浮揚用ガスとしても用いられている。
ヘリウムは地球上の大気にわずかしか含まれておらず、天然ガス産出時の副産物として分離、精製される。米国のほかロシア、カタールなど6カ国でしかつくられていない。世界の商用ヘリウムの約8割を生産する米国では備蓄量も最大で、全世界の貯蔵量の約3分の1を蓄えている。冷戦時の宇宙開発競争の中で大量に備蓄された歴史的背景があり、1990年代に入ると2015年までの期限付きで民間への放出が始まった。
米国から輸入された液体ヘリウム。わずかな振動でも気化してしまうため、大陽日酸は運搬専用のコンテナを自社で製造している(東京都品川区の大井埠頭)
ヘリウム、超伝導