忽然と行方知れずになることを「神隠し」という。人智を超えた“大きな力”によって連れ去られたに違いない。そう想像力を掻き立てることで、説明のつかない理不尽な事態を無理矢理に納得しようとする。

 マレーシア航空370便が姿を消したのは3月8日。世界中が乗員乗客の安否に大きな関心を寄せ、25か国以上が捜索に参加。20日、オーストラリアの首相が「残骸と思われる物体」をインド洋南部の海域で発見したと発表したが、不明機に何が起きたのか、本誌締切時点では全くわかっていない。

 これまで真偽不明な様々な説が飛び交った。当初囁かれたのが、中国・北京政府に不満を持つ勢力によるハイジャック説。新疆やチベットで反政府活動が頻繁に行なわれていることや、不明機が「北京行き」だったことがその根拠。全国人民代表大会(全人代。国会に相当)開催中の北京に突っ込むことが犯人たちの目的だとされた。

 各国情報機関が疑ったのは、宗教原理主義グループのテロ活動だ。マレーシアには、アルカイダと連携する有力テロ組織もいる。

「発生から数日してその可能性は消えた。そうした組織なら犯行声明を出すはずだが、それが出なかったからだ」(米国諜報機関関係者)

 その後、各国の必死の捜索にかかわらず1週間以上も消息不明。そこで「そもそも墜落していないのでは」という可能性が急浮上する。マレーシア当局は不明機とコンタクトを取り続けており、どこかに不時着したハイジャック犯と、極秘で人質解放などの交渉を続けているという説が語られ始めた。

 インド洋の一定ルートを低高度で飛行すれば、各国の軍事レーダーにも捕捉されないし、旅客機が不時着できる飛行場や平地は無数にある。

 中には荒唐無稽とも思えるような説もある。たとえば、飛行システムのセキュリティの穴を突き、ハッカーが旅客機をコントロールした説。“証拠写真”付きで、月面に不時着したと報じた英タブロイド紙もあった。米国土安全保障省関係者は、意味深な物言いをする。

「アメリカで機体不明の一報は、運輸省の航空当局よりも先に、『ホワイトハウス』の作戦センターが掴んでいた。つまり、発生直後、マレーシア首相からオバマ大統領に直接連絡があったということだ。マレーシア当局は機体と連絡を取り続け、何らかの交渉をハイジャック犯と行なっていた可能性が高い。

 その上で、“犯人の要求は受け入れられないこと”をアメリカ側に伝えたのではないか。そして、マレーシア軍が“何らかの方法”で事件を終わらせることの許可を、オバマ氏に求めたのだろう。いずれにせよ、“残骸と思われる物体”が発見され、事態はミステリーの形で収束するはずだ」

 さて、真相は?

※週刊ポスト2014年4月4・11日号