ユニクロの新卒採用者のうち、3年以内に辞める人数が、直近4カ年の平均で46.2%にものぼることが、『週刊東洋経済』(2013年3月9日号)の取材ではじめて明らかになった。昨年5月に掲載し10万アクセス近くを集め話題を呼んだ『
ユニクロ「離職率3年で5割、5年で8割超」の人材“排出”企業』の核心的事実が、改めて正確に裏付けられた。
ユニクロはこれまで「新卒採用者の3年以内離職率」について、『就職四季報』(東洋経済新報社)の取材に対し、2005年を最後に開示を拒んできた。開示するとまともな学生に逃げられるとの後ろめたい思惑から、と考えられる。
ところが今回は、開示しないとネガティブな報道となることは避けられないと考えたのか、2007年入社以降の離職率をはじめて開示した。以下の通りである。
2007年3月入社 37.9%
2008年3月入社 46.3%
2009年3月入社 53.0%
2010年3月入社 47.4%(同期は200人)
2011年3月入社 41.6%(同期は300人)
(※2011年入社は入社後2年内、その他は3年内)
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離職率についての記事部分 |
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2007年入社~2010年入社の単純平均では46.2%となる。同社の離職パターンとしては、精神的な病から
半年程度の休職期間をへて退職に追い込まれるケースが多いため(実際に
そのパターンで辞めることになった社員・元社員を3名取材し
証言を得ている)、この46.2%に、離職同然で休職している人数も加えると、ちょうど50%を超えるくらいだ。
◇「第3の矢」だった
もともと、ユニクロの違法性が高い「疲弊する職場」を報道したパイオニアは、ジャーナリストの横田増生氏だ。『週刊文春』で何度か報じた後、2011年3月に『ユニクロ帝国の光と影』という単行本として発表された。内容は至極まっとうなジャーナリズムの王道とも言えるもので、今回の『週刊東洋経済』記事と同様、長時間のサービス残業などで疲弊する現場実態も指摘されている。
韓国語版も発売されるなど話題となったが、ユニクロ側は日韓で出版差し止め訴訟まで起こし、日本では2億2千万円の損害賠償を求める名誉棄損訴訟を起こした。横田氏は訴訟で莫大な時間を奪われ苦しんでおり、私もユニクロ関係者の紹介などで敗訴とならないよう支援している。
この文春訴訟の効果はてきめんで、同社の『週刊文春』『文藝春秋』はそれまで断続的に浜矩子教授による「ユニクロ型デフレ不況」などのネガティブな記事も掲載していたが、訴訟を期に、完全にユニクロ報道から撤退してしまった。
朝日新聞は『AERA』表紙に柳井社長を登場させ、ユニクロから新聞の全面広告を大量に獲得。朝日新書の『柳井正の希望を持とう』を「6万部刷って4万部はユニクロ買い取り」という、リスクゼロでボロ儲けの好条件で発売させて貰うなど、いいようにユニクロに飼いならされている。出版不況のなか、マスコミはユニクロの広告宣伝費を喉から手が出るほどほしいから、朝日がユニクロの問題を積極的に報道することは、ほぼ無理だ。
労働相談を受けているらしい『POSSE』といったNPOも、ユニクロ社員から現場の実態についての相談を受けているが、公表するリポートや本にはユニクロの「ユ」の字も出さない。客観的に見れば、訴訟に発展するブラックな内容を水際で食い止めて不満をガス抜きしてくれる便利な“ブラック企業支援団体”と言える。社名が出ないならユニクロの評判への影響が皆無なので、労働環境の改善には全くつながらない。
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私が書いた記事に対するユニクロからの脅し文書 |
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こうして、文春の訴訟後に残されたジャーナリズムはうちだけとなり、『
ユニクロ、過重労働社会の闇』という連載企画を展開した。月刊誌でもリポートは発表したが、文春の件で味を占めたユニクロは、訴訟を起こすことをチラつかせ、口封じのための脅し目的とみられる「通告書」を編集部に送ってきた(2012年6月)。
結果、『ZAITEN』誌上で続報を打てなくなった。これは中小出版社としては倒産リスク回避のため致し方ない。ユニクロとは財力が違いすぎるのだ。
つまり、これまで筆者としてユニクロ問題を書いたのは横田さんと渡邉だけだった。よって、今回の記事は「第3の矢」として、貴重なのである。
◇続報&広告に注目
広告宣伝費による支配と高額嫌がらせ訴訟(SLAPP)によって、企業としてのマスコミが手を出しにくい構造なのは分かるが、ときには職業的使命感からやって貰わないと、言論・報道の自由は守れない。実際、1本で約10万アクセスと記事も読まれ、ニーズはある。
言うまでもなく、ユニクロ問題は「企業側と学生側の情報ギャップ」「名ばかり管理職」「サービス残業」「鬱や過労死を生みだす労使関係」「転職市場の未整備」といった日本の労働環境のアジェンダが凝縮されており、ジャーナリズムが積極的に扱うべきテーマであるが、ウェブメディアの孤軍奮闘には影響力に限界がある。
というわけで、「特集でやれば完売、増刷ですよ」と、元から知っていた編集長と記者にプッシュして、蕎麦屋で情報提供者のかたを引き合わせて取材が始まったのが、今回の東洋経済記事だった。特集にはならなかったものの、9ページの中型企画で、思ったよりも踏み込んだ表現になった。僕も文中でコメント協力している。
これまでのユニクロの姿勢から判断すると、おそらく通告書が東洋経済の編集部に来るだろう。ユニクロは、それで続報をストップできると考えている。
したがって、続報を打てるか、がポイントとなる。また、巨額の宣伝広告を東洋経済に投入して懐柔に入る可能性もある。続報と広告。この2点をウォッチしていただきたい。なお、弊社は何のしがらみもないジャーナリズムメディアなので、そこに問題がある限り、引き続き淡々と報道を続ける。関係者からの情報提供をお待ちしている。
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