楽天市場二重価格問題と楽天の不正リスク管理の件
もうすでにいろいろなところで語られている楽天市場二重価格問題ですが、東京新聞ニュースや日刊スポーツニュースなどによりますと、楽天市場に出店している店舗に対して、楽天社員が不適切な二重価格表示を指示していたことが報じられています。昨年のプロ野球楽天の日本一セールの際は、出店店舗側が勝手に不当な表示を行っていたとされていましたが、それ以前から楽天さんの社員によって二重価格が店舗側に推奨されていたそうです。ちなみに楽天側は、いまだこの事実は確認されておらず、「調査中」とのこと。上記記事からの推察ですが、今回の件が発覚した原因は、おそらく出店者側からの内部告発(マスコミに対する情報提供)によるものと思われます。
楽天さんは出店者に場所を貸している立場ですから、景表法違反という法令違反にはあたりませんので、この二重価格表示が景表法上の有利誤認に該当するかどうかは、あくまでも店舗側の問題です。詐欺罪という刑事法に該当するのであれば犯罪を教唆したことになりますが、ミートホープ事件における同社代表者が詐欺罪に問われたケース(有罪が確定)と比較しても、ちょっと詐欺罪の要件である「欺罔行為」が本件に認められる可能性は低いように思います。なので、楽天さんの広報が述べておられるように重大な内規違反があったかどうか、という点で社内調査が行われているものと思われます。
ただ、店舗側の売り上げが伸びれば楽天さんの手数料も増える関係にあるわけですから、日刊スポーツの記事にあるように「みんなやっているから」という理由で店舗側に違法行為を推奨するというのは(とうてい消費者の立場で事業を遂行しているとは言えず)重大なコンプライアンス問題です。このような記事が出た以上、楽天側としては、出店者側の言い分は間違っている(社員が不適切な表示を勧めた事実はない)、もしくは仮に社員側でそのような推奨事実があったとしても、これは社員独自の判断であって組織ぐるみの行動ではない、といった説明が求められます。この説明が十分な確証をもってできるかどうかが楽天さんの信用維持を目的とした有事の危機対応の核心部分になるはずです。
ところで、私は今回初めて知ったのですが、楽天さんの場合、楽天市場の出店者への指導を行うコンサルタント制度というのがある、ということです(「ECコンサルタント」というのですね。ちなみに元ECコンサルタントさんのブログというのも参考になります)。私はここにとても関心を抱きます。そもそもネットショッピングの二重価格表示というのは、出店者側としてはかなり誘惑的な販売方法です。楽天側に、このようにコンサルタントがいらっしゃるのであれば、常に「二重価格表示は違法なのかどうか」と店舗側から問い合わせを受けることが想定されます。不適切な二重価格表示など、昔から行っていた業者さんは結構多いと思いますし、誰でも「やれるものならやりたい」と考えるはずです。また、楽天側としても、二重価格表示によって出店者側の売り上げが伸びれば自社の収益向上にもつながります。したがって、楽天さんの店舗コンサルタント社員としては、違法行為の誘惑に負けないために、常にこのような質問に対する回答を用意しておくこと、誘惑的な回答に走らなかったことを示す証拠を残しておくことが普通に考えられるリスク管理です。
楽天さんとしては、こういった「言った」「言わない」の問題をはたして想定していたのでしょうか。想定していたとすれば、楽天さんの信用毀損を防ぐために、店舗側にどのような回答をされていたのでしょうか、また、(仮に適切な回答をしていたということであれば)それを書面やネット上のチェックシステムでどのように残していたのでしょうか。もしきちんと残していたとすれば、社員がどのように店舗側に対応していたのか、社内調査でも明らかになりますし、社員と店舗のどちらの言い分が正しいのか証拠をもって説明できるだけでなく、社内ぐるみの不正ではないことも明らかになります。楽天市場への出店店舗数が4万件ということで、ひとつずつ対応できるものではありませんが、せめて店舗側から相談を受けた場合だけでも、対応の記録を残していれば、十分なリスク管理が可能だったのではないでしょうか。
内部通報者の氏名を上司に公表したことについて、通報者の事前の承諾があったのか、なかったのか、その事実認定で敗訴が決定したのがオリンパス配転命令等無効確認事件の東京高裁判決(最高裁で確定)でした。会社側として、通常想定しうる通報者とのトラブルへの対応がなされていなかったことが致命的でした。今回の楽天さんの問題も、社内調査の際、単に社員が否定しているから「二重価格推奨についての社員の関与は確認できなかった」では誰も楽天さんの言い分を信用しないと考えます。やはり店舗コンサルタントという職種が楽天さんに存在する以上、当該社員には二重価格表示に関する質問がされることは十分に想定されるのですから、後日の出店者とのトラブルを回避するために、どの程度のリスク回避の手段がとられていたのか、そこが今後の報告の中で語られてほしいところです。
3月 24, 2014 コンプライアンス実務研修プログラム | Permalink
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