天下分け目の大合戦をアテに酒を飲むという狂気にも似た大胆さを描く
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大友克洋、谷口ジロー…そうそうたる作家が早世を惜しんだ才を電子書籍で読める幸い
安部愼一、泉晴紀、大友克洋、さべあのま、鈴木翁二、高寺彰彦、高野文子、谷弘兒、谷口ジロー、平田弘史、ほんまりう、山本おさむ…。そうそうたる作家が「逝くのが早すぎた」と死を惜しみ、メッセージを寄稿。6本の短編コミックとともにこれらが添えられた白山宣之の遺稿集的単行本が、ついに電子化されました。
「ニューウェーブ世代の旗手」ともてはやされ、素晴らしい才能を発揮して、万華鏡のようにキラキラ光る佳作群を生み出した氏。しかし、多産型の作家ではなく、単行本化にも積極的でなかったといわれています。そのため、ディープなコミックファンの間でも知る人ぞ知る存在。ところが、2012年、じつに59歳で病没した氏の才を惜しむ前述の作家たちの発案と苦労により、珠玉の6本が『地上の記憶』という1冊にまとめられました。カバーデザインもまた、長い友人である大友克洋が手掛けています。
収録作品は、「陽子のいる風景」「ちひろ」「Picnic」「大力伝」「Tropico(前編)」「Tropico(後編)」。いずれの作品も、派手さこそないものの、毎日が映画・創作談義で彩られていた氏らしく、まるで日本の映像名作のような情緒豊かで機微とゆとりがあり、かつ描写の繊細さと構図の大胆さが読む者を引き込む不思議な力を持っています。
個人的には、「Picnic」の異質さが強く印象に残っています。扉絵は、ひと昔前の欧米で男女がドライブをしているかのようす。しかし、ページをめくり本編に入ると、そこは昔話のような牧歌的雰囲気。豊満なおっかさんたちが胸をむき出しで大きな荷を持ち上げつつ、どこかへ向かって歩いている。後ろには、子どもからおじいさんまでの男衆。突如、バババババと大音響。じつはこれ、合戦が開始された合図。この作品は、戦国時代が舞台であり、タイトルの「Picnic」とは、村人たちが向かう先の峠から関ヶ原の合戦を見下ろしつつ、賑やかに酒盛りをする、というもの。村人たちの陽気と崖下の死闘が同じコマで描かれ、なんでも飲み込んでしまう日本人の性質のたくましさと微笑ましさのようなものに、ウロコが落ちる思いをしたのでした。
「作品は一期一会。その時、そこに咲き、散れば良い」という氏、独自の価値観が十二分に堪能できる短編6本。質的にも量的にも大満足のこの1冊の存在を知ってしまったら、買いの一手でしょう。
カバーデザインも手掛けた大友克洋のメッセージ
南の海で起きた、ちょっとした冒険譚を圧倒的な画力で描ききる
(C)白山宣之/双葉社
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