(英エコノミスト誌 2014年3月22日号)
橋下徹の凋落
日本第2の都市である大阪市の住民は3月半ば、テレビ画面にかじりついて大相撲春場所を観戦していた。大阪場所は3月23日に千秋楽を迎える。これに対し、同じ週に行われる政治決戦に対する大阪市民の熱はかなり低かった*1。
大阪市長である橋下徹氏は、大相撲の千秋楽と同じ日に出直し選挙を告示した。しかし選挙では、橋下氏は有権者にとって実質的に唯一の選択肢だ。
他の主要政党は候補者を擁立しなかった。なぜなら、橋下氏がどのみち勝つが、投票率が極めて低い中での当選になるからだ。地元で流布するジョークに従えば、橋下氏は独り相撲をしているのだ。
右寄りの考えが苦戦の原因
右派の若い橋下氏が、新しい政治団体、日本維新の会を発足し、政治の舞台に衝撃を走らせた1年半前と比べると、様変わりだ。地方分権、貿易自由化に対する日本のコミットメント、参議院の廃止といった橋下氏の急進的な考えは同氏のことを、国政の場でもかなり成功する改革派の大物のように見せた。
2012年12月に行われた衆議院選挙では、橋下氏以上に右派で元東京都知事の石原慎太郎氏と共に陣頭指揮を執り、日本維新の会は54議席を獲得、民主党のすぐ後に付けた。
ところが、橋下氏の右翼的な考えが破滅の原因となった。橋下氏は2013年5月、第2次世界大戦下で日本軍兵士の性的な相手をするために韓国その他の国出身の「従軍慰安婦」を利用した日本の戦時下のシステムは、当時は必要だったと述べた。発言の狙いは、それより前に友人である安倍晋三首相が国会で行った答弁(大戦中、日本が侵略国であったかどうかを疑問視した発言)を支持することだった。
激しい糾弾が国内外から寄せられた。大衆の判断もはっきりと示された。その2カ月後に行われた参議院選挙では、日本維新の会はたった8議席しか獲得できなかったのだ。
現在、橋下氏の本拠地でも状況は悪化しつつある。橋下氏が最も大切にしている改革は、大阪市と大阪府の行政府を一体化する「大阪都構想」だ。その目的の1つは経費節減だ。橋下氏は、府市の二重行政で既に約1兆6000億円が無駄になったと主張している。また、この改革は、東京の中央政府から権力をもぎ取るという、より大きな目標も満たすことになる。
しかし今、全国的な橋下人気が下降していることに余勢を駆り、地元の人間が大阪都構想に背を向けている。激高した橋下氏が出直し選挙を決めたきっかけは、以前は忠実だった、仏教団体を支援母体とする公明党の政治家たちの反発だった。
*1=この記事は選挙当日前に書かれたもの