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ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける 作者:横塚司

第53話 忠犬たまき

 白い部屋にきたとたん。
 たまきが、ぼくに抱きついてくる。
 両手をぼくの首後ろにまわして、ぎゅっと身体を密着させてくる。

「やった、勝った! わたし、勝てたわ! カズさん、ありがとう! わたし、できたよね。カズさんの信頼、裏切らなかったよね」
「う、うん。がんばった、たまきはがんばったから……」

 こんなところ、アリスに見られたら。
 そう思ってぼくは白い部屋を見渡すが……。

 アリスはいなかった。
 ミアの姿もない。

 そうか。
 ぼくは気づく。

 パーティはあまり離れすぎると経験値が入らなくなる。
 今回はそれが適用されたのだろう。
 ぼくとたまきは、ジェネラルと戦いながら、それだけみんなと離れてしまったということだ。

「あ、あれ? みんながいないわ」

 いまさら気づいて左右を見渡すたまきに、ぼくは事情を説明する。
 たまきは、目を丸くして驚いたあと……。
 ニタリと笑った。

「じゃあ、いまはカズさんと好きなだけデートできるのね!」
「おいこら」

 たまきは無邪気に、ぼくをぎゅっと抱きしめてくる。
 胸が当たってる、当たってる。
 いや、アリスほどのふくらみはないんだけど。

「ねー、カズさん。いちゃついていいわよね」

 頬をすりすりしてくる。
 恋人に対して、というより、なんか猫がじゃれついているみたいだ。

 実際、そうなのかもしれない。
 たまきにとっては、頼りになる柱のようなものが欲しくて、それがただ、ぼくなのだろう。

 午前中のアリスの言葉や、たまきの狂乱とそのあとの出来事を思い出す。
 アリスは、こんな風にぼくたちがふたりきりになる事態まで想定していたのだろうか。

 万一にでも、たまきが不安定な精神状態になったとしたら。
 いざとなったら、自分のことに構わずたまきを抱いてくれ。
 なんとしても、ふたり一緒に生き延びてくれ。

 あのときの言葉には、そういう意味も込められていたのだろうか。
 それとも、さすがにこれは考え過ぎだろうか。

 まあ、いい。
 ぼくたちふたりは、白い部屋の壁に背をもたれ、並んで座る。

 しばらく、たわいない会話をした。
 だいぶ長いこと、話をした。

 話題は尽きない。
 アリスのこと。たまきのこと。クラスメイトたちのこと。

 すみれという先刻助けた少女のこと。
 本名は、杉之宮すぎのみやすみれ。
 おとなしい子で、本が好きなのだという。

「本が好きってことは、アリスと仲がよかったのか」
「うん、よく図書室で話してたよ。ほかに、イサちゃんとツキミちゃんが……」

 たまきは暗い表情になって、言葉を切った。

「その子たちは……」
「イサちゃんは女子寮にいた。ツキミちゃんは、さっき、一階の教室で」

 ぼくは、そうか、とうなずいた。
 生存者としていた、という意味ではない。
 もし生存者に友人がいたなら、アリスもたまきも、もっと喜んでいただろう。

 女子寮では、アリスはひたすらに生きているひとたちを助けた。
 死んでいるひとたちには、見向きもしなかった。
 あのなかに、イサちゃんと呼ばれる子がいたのだ。

 アリスには治療魔法がある。
 そのちからで、ひとを救うことができる。
 友人の死体を見て泣いている暇があったら、生きているひとのためにちからを尽くそうと、彼女はそう決意していたのだろう。

 凄惨な覚悟だ。
 ぼくは、その覚悟を後押しした。
 そのことはこれっぽっちも後悔していない。

 アリスがぼくを支えてくれるなら、ぼくはアリスを支えよう。
 ううん、アリスだけじゃない。
 それは相手がたまきであっても、ミアであっても同じだ。

 ぼくたちは、ひとつなのだ。
 心をひとつにして支え合ってきたからこそ、ジェネラルに勝利できた。
 本当は、みんなの勝利だ。

 でもそれは、ぼくだけが知っていればいい。
 いまは、たまきにいい気分でいて欲しい。
 彼女にとってなにより必要なのは、自信なのだから。

 ぼくはたまきのブロンドの髪を撫でた。
 たまきは、照れくさそうに笑う。

「いまだけ」

 たまきはぼくの肩に頭を乗せる。

「いまだけ、こうさせて。アリスがいるときは、アリスが一番でいい。でも、わたしにも、ちょっとだけ」

 ぼくは黙って、たまきの頭を撫で続ける。


 和久:レベル12 付与魔法5/召喚魔法3 スキルポイント3


        ※


 ぼくたちは、もとの場所に戻る。
 ぼくはこれから三十分間、リパルション・スフィアのバリアに包まれたまま動けない。
 白い部屋での打ち合わせにより、たまきには先に戻ってもらうことになっていた。

 たまきは急斜面を転がり落ちそうになっていた四つの青い宝石を、慌てて拾う。
 そのあと、斜面を這い登る。
 崖の上まで辿り着いて、ぼくの方を向き……。

 あれれ、と首をかしげていた。
 ああ、そうか。
 それだけ離れると、もう見えないか。

 このバリアのカメレオン効果、かなり強力だな。
 まあ、たまきもそのことを思い出したようだ。
 すぐに適当に手を振り、背を向けて駆け出す。

 金髪の少女の姿が、視界の外に消える。
 やれやれ。

 ぼくはバリアの壁面に背をもたれさせ、ほっとおおきく息を吐き出す。
 三十分したら、たまきは一度、戻ってきてくれることになっているけど……。

 戻ってこられるかなあ。
 なにせ、おっちょこちょいなたまきだ。
 道に迷うんじゃないかなあ。

 まあその場合でも、使い魔を何体か召喚しておけば、自分の身くらいは守れるだろう。
 歩いて帰ればいい。
 肩の力を抜いて、待つ。

 夕暮れ時のいまになって、やっとリラックスできる時間ができた。
 今日は朝から晩まで、ずっと戦っていたように思う。
 実際は仮眠をとったりいろいろやっていた時間もあるけれど、感覚的には、ずっと戦場に立っていたようなものだった。

 疲れた。
 心の底から、疲れてしまった。

 思わず、うとうとしてしまう。
 まぶたが落ちかけて……。

 夕焼けに染まる崖の上に人影が見えた。
 はっとする。
 それが男性だったからだ。

 猫のように切れ長の目を持つ、ひょろりと背の高い、猫背の少年。
 高い尖った鼻と、ニヤニヤ笑いを張りつけた独特の表情。
 佐宗芝さそう・しばだった。

 見間違いようもない、それはぼくをいじめていた、あの男だった。
 シバはにやけ顔で周囲を見渡し、ふうと肩をすくめる。

 ぼくには気づいていない。
 それはわかる。
 なのに、全身から脂汗がしたたり落ちる。

 歯がカチカチとうるさい。
 心臓が早鐘のように鳴る。

 ああ、ぼくは。
 ぼくはこんなにも、彼を恐れていたのか。
 殺そうとしていた相手を、こんなにも恐怖していたのか。

 過去の光景がフラッシュバックする。
 柔道の授業。
 シバがぼくをこづいて、床に引き倒す。

 上からのしかかってくる。
 ぼくはカエルが潰れたような声をあげる。
 皆が笑っている。

 体育教師まで笑っている。
 ぼくが反撃しようとすると、シバに忠実な手下がぼくの手を踏む。
 生意気だ、とシバがいっそうぼくを痛めつける。

 教室の掃除当番。
 ぼくは両手両足を後ろで縛られ、芋虫のように床に転がる。
 その状態で掃除をさせられた。

 口で雑巾をくわえ、床や壁を拭く。
 へたくそと蹴られ、殴られ、そのたびにクラスメイトが笑う。
 志木さんが、無表情でぼくを一瞥して外に出ていく。

 濡れた雑巾が投げつけられる。
 しまいには、皆がぼくの身体を蹴りはじめる。

 放課後。
 裸になって、廊下に四つん這い。
 上にシバを乗せて、生徒や教師が見るなか、馬のように歩かされる。

 ぼくが止まると、シバが尻を叩く。
 髪を引っ張り、馬のように鳴けと笑う。
 ぼくは従順に従う。

 若い女の教師が、シバに同調するように笑う。
 四肢の皮がすりむけて、血が出る。

 床を汚したと怒られ、蹴られる。
 全身、あざだらけになる。

 とめどなく、過去の出来事があふれてくる。
 考えるのをやめようと思っても、止まらない。
 ぼくは悲鳴をあげる。

 PTSDの一種なのだろう。
 スフィアのなかでのたうちまわりながら、ぼくは自分の症状を冷静に考察する。

 はは、なんだ。
 たまきのことを笑えないじゃないか。
 ぼくのトラウマだって、たいしたものじゃないか。

 リパルション・スフィアの内側で、幸いだった。
 シバは猟銃を手にしている。
 使い魔すら召喚していないいまのぼくでは、彼に対抗できない。

 そう、勝てない。
 ぼくはひとりじゃ、あいつに勝てない。
 だから、頼む。見つからないでくれ。

 と……。
 ぼくはのたうちまわるのをやめる。

 シバが己の背後に振り向いたのだ。
 なんだ?
 誰かがいるのか。

 もうひとつ、人影が現れる。
 シバの横に並ぶ。
 もうひとつの人影も、どうやらぼくに気づいていないようだった。

 だがその人影を見たとたん、ぼくの呼吸が止まる。
 アリスだった。
 シバの隣に立っているのは、下園亜理栖しもぞの・ありすだった。

 アリスが、なにごとか呟き、シバを見る。
 ふたりの距離は、五歩ほどだった。

 アリスは一瞬、槍を構えかける。
 シバがなにか口にする。

 アリスは槍をおろした。
 シバは銃を地面に置く。
 アリスは困惑したように首を振る。

 シバがゆっくりとアリスに近づく。
 アリスは茫然と立っている。
 シバは。

 ああ、シバは。
 アリスをぎゅっと抱きしめる。

 アリスが身体のちからを抜く。
 ふたりはそのまま、少しの間、じっとしていた。
 なにごとか囁き合っている。

 日が落ちて、もう互いの表情が見えない。
 リパルション・スフィアは音も通さないから、声も聞こえない。
 だけどふたりは、ふたりの間で、通じ合っている。

 やがて。
 シバはアリスの手を取る。
 アリスはおとなしくしている。

 うつむいて、シバに抵抗しない。
 シバは銃を拾って、アリスの手を引いたまま歩きだす。
 ふたりの姿が森の向こうに消える。


        ※


 周囲が完全に暗闇に包まれる。
 ぼくはじっとしていた。

 動かなかった。
 動けなかった。

 リパルション・スフィアが解ける。
 ぼくの身体は、急な斜面を転がり落ちる。
 途中の樹にひっかかることもなく、ごろごろ転がる。

 ちからが入らない。
 頭が働かない。
 やがてぼくの身体は、平坦な地面に到達し、草むらに放り出される。

 ぼくは立ち上がる。
 頭のなかにもやがかかったようで、うまく考えることができない。
 思考がまとまらない。

 左手の指を見る。
 パーティを示す赤いリングが消えている。

 仲間がいない。
 ぼくは、ひとりぼっちだ。

 困った。
 なにを、どうすれば、いいんだ?
 そうだ、身を、守らないと。

 サモン・グレイウルフを四回使って、灰色狼を四体、並べる。
 付与魔法はキーン・ウェポンだけでいいだろう。
 必要に応じてヘイストを使おう。

 で、ええと。
 どこに、いこう?
 転がり落ちてきた崖の上を見る。

 暗くて、よくわからない。
 育芸館がどこにあるか、わからない。
 まあいいか。

 もういい。
 戻りたくない。
 なにも考えたくない。

 ぼくは、ふらつきながら、山を降りる方向に歩きだす。
 道が暗くて、突き出した木の根に足をひっかけ、転倒する。
 ああ、これはいけない。

「ナイトサイト」

 自分に付与魔法ランク5の暗視魔法をかける。
 視界が夕暮れ時くらいの明るさになる。
 これでいい。

 ぼくはふらふらしながら、ゆっくりと茂みを歩く。
 途中で、オークの集団を発見する。
 三体のオークが、なにやら石の柱のようなもののまわりでぼうっとしている。

 なんだ、これ。
 まあ、いいか。
 ぶっ殺そう。

 ぼくはディフレクション・スペルを自分にかけたあと、ヘイストを使う。
 全体化されたヘイストによって、狼全員とぼく自身が赤く輝く。
 四体の狼をオークの集団に突撃させる。

 オークたちがこちらに気づいたときには、ぼくの狼たちはそれぞれオークにのしかかり、首筋を狙っている。
 ほどなくして、喉笛を噛みちぎられたオークは、全員が息絶える。

 で、この石の柱は……なんだ。
 まあ、いいか。
 次いこう、次。

 少し歩くと、また石の柱があった。
 オークが三体いた。
 ぶっ殺した。

 次の石の柱には、オークが四体いた。
 一体、仕留めそこなって、ぼくに向かってきた。
 斧を振りおろしてくる。

「リフレクション」

 ギリギリまで引きつけてから、はじき返した。
 じっと斧の動きを見ていたから、思ったより余裕があった。
 まあ、別に食らってもいいけど。

 そう、死んでも構わないけど。
 他人のことも、自分のことも。
 なにもかも、どうでもいい。

 リフレクションによって弾き返された斧が、オークの顔面をカチ割った。
 オークは死んだ。

 ぼくはレベルアップする。
 白い部屋にいく。


        ※


 ぼくは白い部屋でひとり、立ち尽くす。
 ………。
 ノートPCの前に立つ。

 これからぼくは、どうすればいいのだろう。
 なにをすればいいのだろう。

 スキルポイントは5点。
 付与魔法と召喚魔法。
 ぼくはなにを選び取ればいいのだろう。

 頭がぼうっとする。
 ぼくは何時間も、PCの前でぼうっとしている。
 ああ、もう面倒だな。

 ………。
 ぼくは、選択する。

 和久:レベル13 付与魔法5/召喚魔法3→4 スキルポイント5→1


        ※


 もとの場所に戻る。
 石の柱の前。
 ああ、そういえばさっきから宝石を拾ってない。

 いまからでも、拾おうかな。
 まあ、いいか。
 めんどうくさい。

「サモン・ソルジャー」

 召喚魔法のランク4、サモン・ソルジャーによって黒い甲冑を着た剣士が生まれる。
 いかにも騎士、といった感じの使い魔だ。
 かなり強そうである。

 ぼくは黒騎士にキーン・ウェポンとマイティ・アームをかける。
 歩きだす。

 黒騎士は、重そうな鎧を着ているのに、ほとんど音も立てずぼくと同じ速度で歩く。
 そういえば、フィジカル・アップをかけてないな。

 このままだと、いざ逃げようとしても、逃げきれない。
 まあ、いいか。
 めんどうくさい。

 どうやら石の柱は山を放射状に取り囲んでいるようだ。
 茂みを歩いていくと、次々、石の柱が見つかる。
 どの石の柱の前にも、オークが数体いる。

 片端から殺していく。
 たまに使い魔が反撃を喰らう。
 こちらの狼が消える。

 そのたびに黒騎士を召喚する。
 何体、オークを殺しただろう。
 ぼくは何個の石柱をまわったのだろう。

 頭のなかがぐるぐるする。
 疲れているはずなのに、歩みが止まらない。

 レベル14になるときには、黒騎士二体、狼三体だった。
 レベル15になるときは、黒騎士三体、狼二体になっていた。
 ああ、これで召喚魔法を上げられるな。

 召喚魔法を上げよう。
 それがいい。
 これからずっと、召喚魔法を上げていこう。

 和久:レベル15 付与魔法5/召喚魔法4→5 スキルポイント5→0



        ※


 召喚魔法のランク5には、ディポテーションという魔法がある。
 使い魔を送還して、使い魔召喚に使用したMPのうち90%を回復させるという魔法だ。
 ぼくは狼を二体とも、ディポテーションで送還する。

 ディポテーションにもMPを使うから、実質、一回で回復するMPは3程度だ。
 まあ、それでいい。
 かわりにランク5の召喚生物を一体、呼び出す。

「サモン・エレメンツ:ウィンド」

 半透明の裸の女性が現れる。
 ウィンド・エレメンタル。
 サモン・エレメンツは、四属性それぞれの精霊を指名し呼び出す魔法なのだ。

 この森のなかで火の精霊ファイア・エレメンタルは迷惑だろう。
 陸上で水の精霊ウォーター・エレメンタルはイマイチ使い勝手が悪いだろう。
 地の精霊アース・エレメンタルというのも悪くはないが、硬い壁ならいまは黒騎士がいる。

 というわけで、風の精霊ウィンド・エレメンタルを呼び出したのである。

 ああ、でも。
 裸の女性を見る。
 おおきなふたつの乳房。

 頭痛がする。
 嫌なものを思い出す。
 ぼくはディポテーションでウィンド・エレメンタルを消した。

 かわりに、アース・エレメンタルを呼び出す。
 全身が岩でできた武骨な巨人が生まれる。

 うん、こいつでいい。
 こいつの方がいい。

 ぼくはアース・エレメンタルを押し立てて、次の石柱へ向かう。
 あれ。
 なんでぼくは、石柱なんてまわっているんだっけ?

 まあ、いいか。
 頭が痛い。
 足が、もつれる。

 倒れかけて、なんとか踏みとどまる。
 ふと顔をあげると、四方を敵に取り囲まれていた。

 ああ、そりゃ、そうか。
 オークがいくら馬鹿だって、これだけ襲撃を繰り返していれば、気づくよな。
 別に戦闘の音を隠してもいないし。

 そりゃ、反撃するよな。
 ぼくは使い魔たちに、四方のオークを蹴散らすよう命じる。
 MPがいくらあるかわからないけど、とにかくもう二体ほど、アース・エレメンタルを呼び出す。

 黒騎士は、鮮やかな剣さばきでオークを叩き斬っていく。
 アース・エレメンタルが、武骨な岩塊の腕をふりまわし、オークたちを薙ぎ払っていく。

 と、黒騎士の一体が倒れる。
 見れば、そちらからエリート・オークが迫ってきていた。
 あ、やばいな。

 まあ、いいか。
 ここで死ぬのも、いいか。

 殺してくれ。
 ぼくは猛然と距離を詰めるエリート・オークに、ぼんやりと手をあげる。

「やあ。ありがとう」

 笑う。
 振りおろされる大斧を、笑って見上げる。
 ぼくの頭をかち割ろうとする凶悪な凶器を、おだやかな気持ちで迎え入れようとする。

 だけど……。

「カズさんっ!」

 たまきの声。
 金属が打ち鳴らされる、かん高い音が響く。
 エリート・オークの大斧が、天高く弾き飛ばされる。

 たまきが、ぼくの横を駆け抜ける。
 右手に銀の剣を構え、左手で懐中電灯を手にしていた。

 たまきは懐中電灯でエリート・オークを照らす。
 強い光を顔面に当てられて、青銅色のオークがわずかにひるむ。

 たまきはその隙にエリート・オークとの距離を詰める。
 剣を一閃。

 エリート・オークが、胸もとを深く切り裂かれ、倒れ伏す。
 そして。
 ぼくは白い部屋に転移する。

 なんだ、レベルアップの音はしなかったぞ。
 あ、左手に赤い輪が戻っている。

 そうか、ああ。
 たまきがレベルアップしたってことか。
 ぼくは顔をあげる。

 白い部屋。
 ぼくとたまきのふたりだけがいる、その部屋で。

「カズさん! やっと見つけた!」

 息を切らしたたまきが、ぼくの胸に飛び込んでくる。
 犬のように、ぼくの頬に頬をすりつける。
充分な書き溜めができたので、今日から二日目のラストまで、毎日投稿します。

またしばらくの間、基本的に感想にはレスをしません。
いまわたし、ネタバレのレスをしたくてたまらないので……。

ミスや誤植については、必要ならレスをするかもしれません。
あしからずご了承ください。
+注意+
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