対侵略者用兵器 重装歩兵ファントム
一日で消されるとは思わなかった
「私達はこの世界に囚われている」
そう言ったのは、歴史の先生だっただろうか? その時の朝凪浩司は、先生が言った言葉の真意が分からなかった。
先生は授業を続けた。
地球が終末を迎えた時の話だった。
人間は生き残る為に3つの道を選んだ。
一つはこの地球から300光年離れた星であるホープ星に移住する道。
一つは薬品によって身体を強化し地球の荒廃した環境に耐えられるようにする道。
最後の一つは巨大なドームを形成し、狭い空間の中で地球最後の日まで生きる道。
私達はドームという鳥籠に飼われているのだ。悲しそうな顔をして先生は言った。
対侵略者用兵器
重装歩兵ファントム
&the last knaights
『みなさま。おはようございます。本日は西暦2225年8月20日。ただいまの時間は7時00分です。天気は晴れ。気温は23度前後........』
機械音声が殺風景な部屋にながれると、この部屋の主人である朝凪浩司は目を覚ました。彼は布団から身を起こし、暫く呆然とする。朝に弱いのだ。
ふと窓から外を見る。エアバイクが特殊な浮遊音を立てながら、スレスレを走り抜けていった。
今日は勤務日だ。準備をしないと。朝凪は重い腰を上げた。
洗面器で顔を洗い、棚に掛けてある時計を手にとる。父の形見であるこの時計はいつも通り、秒針を刻んでいた。
『浩司。父さんはお前を置いて行かなきゃならない。寂しくて辛い思いをさせる事になる。そんな時、その時計はお前の力になるから』
父親がホープ星に行くロケットに乗る前に言い残した最期の言葉を朝凪はシミジミと思い出した。
左手に時計を付けるとカバンを掴んで部屋を出る。
「行ってきます」
朝凪は遺影となった父の写真に呟いた。
50階立てのアパートを出ると、擬似太陽の暖かい光を全身に浴びた。気持ちの良い朝だ。
アパート出口付近にある駐輪場からマイ自転車を取り出す。この第八ドームは余り大きく無いので、自転車なんてものは必要とされにくい。
朝凪は自転車に乗るのが好きなので通勤に使用するのだ。
自転車を漕いでいる内に警察用のエアバイクを何台も見た。もしかしたら、リリスがドームに侵入して来たのかも知れない。
最近多いなと朝凪は思う。今月に入ってもう3回目だった。このドームも終わりかもしれない。事実、リリスによって滅ぼされたドームはいくつもある。
オフィスがあるビルに着くと、受付の女の子が「おはようございます」と無愛想に迎えてくれた。
高い鼻に切れ長の目。その涼しげな印象は美人に入る方なのだろう。それは良いのだが、如何せん仕事にやる気が無いらしく携帯をいじくりまわしていた。
朝凪は挨拶を返してからエレベーターに乗り、自分のオフィスへ向かった。
朝凪がオフィスに到着すると目立ったのは人の少なさだった。
元々鮎川(株)は総社員数5人という小さな会社だが、今日は社長を入れても3人しかいない。
「なんでこんなに人が少ないんだ?」
朝凪は後輩の芳賀武に聞いた。
「あー。主任達は休みですよ」
「なんで?」
「朝の放送聞かなかったんですか? リリスが現れた影響で環状線が停止してるらしいですよ」
「ふーん」
「と、いう訳で。俺も帰りまーす」
「え? 何で?」
「今回リリスの現れた地点が母親の入院してる病院の近くらしいんですよ。早く迎えに行ってあげないと」
「そうか、生きている内に親孝行してやれよ」
「朝凪先輩が言うと重いです」
「はは。言ってろ」
「それじゃあ、お疲れ様でした」
「おうじゃあな」
「帰ったか」
毛玉が声を出した。鮎川(株)社長の髭田吉蔵だった。名は体を表すというが、あそこまで毛深いのは反則だと思う。
「お前は仕事するのか?」
髭田が朝凪に聞いた。朝凪は「ハイ」とだけ答えた。髭田は「そうか」と言うと社長室に引っ込んだ。
その後、朝凪は定時まで仕事をして帰った。帰り際社長が飲みに行こうと誘ってくれたが、とてもそんな気分にはなれなかった。
晩飯を買うためにコンビニに寄った。大好きな蕎麦と奮発してビールを買う。
自転車で走る夜の町はいつもと違い恐ろしい印象を受けた。
「ドワーーー」
うん? 朝凪は恐ろしく間抜けな声がした方向を見た。人の背中が朝凪の方向に飛んできていた。
「うわああ」
朝凪の回避も間に合わず、飛んできた人と激突した。朝凪は自転車ごと宙を舞い、地面に叩き付けられた。
朝凪は震える体を起こして立ち上がる。ざっと自分の体を見て大きな怪我がないことを確認する。
朝凪自身に問題は無かった。むしろ問題なのはそこで倒れている人だろう。
その人は全身を特殊スーツに包み、厳つい仮面をしていた。対リリス用戦闘ツールである重装歩兵だった。
重装歩兵。それはリリスに対抗する為に製作された強化スーツである。ベルトから展開される電子が一瞬にしてスーツを構成するのだ。
『デュナミススーツの耐久力が20%以下になりました。変身を自動で解除します』
機械音声が流れると眩い光と共に重装歩兵の姿が変わる。
「嘘だろ」
現れたのは、若い女の子だった。その姿は目に見えて痛々しく、呼吸する度に口から血を吐いていた。
「グルルル」
ハッとしたように朝凪は振り返った。そこにはリリスが居た。バッタの様な外見をしたそいつは今にも朝凪に襲いかかろうとしていた。
朝凪は考えた。今なら逃げれると。だが、チラリと少女を見る。今にも死にそうな少女はリリスに殺されてしまうだろう。
ならば、やることは一つだ。
「誰かー! たすけてくれえええ」
大声で人を呼びながら少女の腰についたベルトを奪い、腰に巻きつける。ギューンギューンと変身待機音が鳴り始めて朝凪は思った。コレどうやって変身するんだろう?
「ガアア」
「うわああ」
バッタリリスが爪で横薙ぎの一閃を描く。朝凪はギリギリの処でバックステップで躱した。
「ここにいたらこの子を巻き込んでしまう。こっちへ来い」
朝凪はバッタリリスに挑発を掛けながら公園の方向へ逃げ出した。
朝凪がバッタリリスと戦っている時、デュナミススーツの所持者である風花美香は目覚めた。
「おい! あそこに女の子が倒れているぞ!」
通行人の叫ぶ声も遠い、息も絶え絶えに、助けてくれた男に対してそっちに行くなと言おうとしたが、その声は届く事無く、風花は気絶した。
公園に入ったのは失敗だったかも知れないと朝凪は思う。雑木林に入ってから上空を飛ぶエアバイクの音が遠い。
朝凪は確実に人気の無い方向へ走っていた。
コレどうやって変身すれば良いんだよ。朝凪は変身待機音が鳴り続けるベルトを叩く。
『強化スーツを展開。on your mark set Queen of Gondur dunamis』
神への祈りが通じたのかベルトが反応し、朝凪の体が眩い光に包まれた。
『強化スーツの展開を完了。正規のスーツ装着者では無い為、スーツ出力を50%まで半減させます』
へ? 朝凪が驚く間も無く、バッタリリスが朝凪に蹴りを入れた。朝凪はそのまま転倒。頭を樹木に打ち付けた。
朝凪は態勢を立て直すと、振り向き様にパンチをかます。
バッタリリスは異常なまでの跳躍で朝凪から離れると、樹木を足蹴に回転。ドロップキックをかました。
「ぐへえ」
思わず、カッコ悪い声が漏れる。今度は後頭部を木に打ち付けた。
『強化スーツの耐久力は残り40%です。早急に撤退してください』
強化スーツももう限界らしい。ここで俺は死ぬのか。朝凪は一抹の淋しさを覚えた。
木に背中を預けて半身を持ち上げ、左手をバッタリリスに向けた。指の間から見えるバッタリリスは、朝凪に向かってきた。
はは。結局父さんがくれた時計は助けてくれなかったな。朝凪はそう思いながら左手首を見た。
そこには、時計では無く、デジタル画面がついていた。画面をよく見ようと手首を顔に近づけると
You can evolution
Yes/No
と、表記されていた。一か八かで朝凪はデジタル画面を押す。
『強化スーツを再展開Metamorphose On your mark set Joker of Hildr phantom』
バッタリリスは走り出した。
重装歩兵デュナミスは再構築される。厳ついだけの仮面が悪魔の様な顔になる。全身が黒く再塗装され、所々に紅いラインが入った。
『強化スーツの展開を完了。ファントムスーツの一部能力を解放しました。左手を前に掲げて下さい』
朝凪は言われるがまま手を前に出す。バッタリリスは飛び上がり蹴りの姿勢をつくる。
『データドレイン』
スーツがそう言うと同時に手から閃光が迸る。
「ウギャアア」
バッタリリスが吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がった。
『ドレイン完了。アーマーダーツを生成します.......。3、2、1生成完了しました』
ガシャンと朝凪の手首から引き出しのように長細い物体が出てきた。
「何なんだよ」朝凪は呟きながら立ち上がる。吹き飛ばしたバッタリリスは悶え苦しんでいた。
『フォームチェンジが可能です。左手首にあるダーツを取り出して下さい』
これダーツなのか? 朝凪は左手首のダーツを取り外した。
『ベルトの前面に装着されたファントムガンを取り外して下さい』
これか? 朝凪はベルトに新しくついた四角い物体を取り外した。ガチャンと鉄と鉄が当たる音がしてファントムガンと呼ばれたものはリボルバーのような形になった。
『ダーツをファントムガンに装填し、ベルトに取り付けて下さい』
朝凪はファントムガンについてるツマミを下ろすと、カートリッジが現れた。朝凪はダーツを装填してカートリッジを戻す。
左手で銃口を掴むと二つ折りにしてから再度ベルトに取り付けた。
『Darts of Grasshopper』
ベルトから両足へ、紅いラインを上書きするように緑色の光が流れる。黒を基調としたファントムの足にバッタの絵が現れた。
「後は何と無く分かるぜ」
朝凪は今更ながらカッコをつけようとした。見るとリリスも復活したようでこちらに向かって走っていた。
「ガアアアア」
「うおおおお」
朝凪はベルトの前面に付けたファントムガンの引き金を引く。
『Grasshopper jump』
その時、空を巡回していた吉宮巡査は見た。雑木林から飛び出す二つの影を。吉宮巡査は無線で聞いた通り、重装歩兵デュナミスとリリスが戦っているのだと思った。
しかし、現実は違った。それは仮面ライダーにしておぞましい姿をした何かだった。
「決めるぜ!」
朝凪は再度引き金を引く。朝凪の右足から夜空に緑の閃光が走る。緑の閃光はリリスに当たると大きなダーツ盤が現れ、回転を始めた。
『phantom burst on line』
そして二つの影が交錯する。朝凪とリリスはお互い背を向けたまま着地した。
リリスは素早く振り返り朝凪を襲おうとする。
だが、その前にバッタリリスの周囲を回るダーツ盤が止まった。
「ギャアアア」
同時にダーツ盤が6つに割れ、リリスは苦しげな断末魔を挙げながら散って行った。
「ふう。疲れた」
朝凪は後ろを振り返ること無く、雑木林の外へ向かった。
第一話完
続きは多分書かないからネタバレ
リリスは薬で進化した人間です。
名前の由来はリリース
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