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社説

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函館の原発訴訟 市民の総意を支持する(3月17日)

 命を脅かしかねない原発の建設が対岸で、断りもなく進められれば、待ったをかけるのは当然だ。

 青森県大間町で建設中の大間原発について、函館市は国と事業主体の電源開発(東京)を相手に建設差し止めなどを求める訴訟を、4月3日に東京地裁に起こす。

 自治体が原発建設の凍結を求める訴訟は全国で初めてだ。

 工藤寿樹市長は訴訟関連2議案をすでに定例市議会に提出しており、26日に可決される見通しだ。訴訟は市民の総意に基づくものといっていい。決断を支持したい。

 市は一審の訴訟期間を5年、訴訟総額を約2千万円と見積もっている。自治体がこれほど多大な負担を背負ってまで訴訟に踏み切る現実を、国と電源開発は深刻に受け止めるべきだ。

 函館の決定に対しては、渡島管内の自治体の多くが支援を表明している。こうした動きを道が傍観しているわけにはいかない。強力に後押しすることを求めたい。

 函館は大間原発から津軽海峡を隔てて最短で23キロしか離れていない。東京電力福島第1原発事故をみれば、有事に甚大な被害が及ぶのは明らかだ。

 福島の事故を踏まえ国は、原発災害の防災指針を見直し、避難計画の策定義務を負う地域を原発から半径30キロ圏内に拡大した。当然函館もその対象に加わった。

 しかし、建設再開時に説明や同意は一切求められなかった。

 大間原発が青森県に立地しており、北海道にある函館市は立地自治体ではない。つまり周辺自治体と位置づけられ、同意などの対象からはずされたからだ。

 こんな理不尽がまかり通る指針は容認できない。30キロ圏内の自治体に義務を課すなら、原発に対する発言権も認める必要がある。

 工藤市長は先の北海道新聞のインタビューで、「訴訟は脱原発や原発の善しあしが目的ではない。立地自治体と周辺自治体の扱いの不公平を是正するためだ」と述べた。妥当な要求だ。

 電力会社は原発への地域の考えを聞くうえで、こうした自治体の不平等を排除し、安全協定などの範囲をさらに拡大すべきだ。

 大間原発は、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を全炉心で使う世界初の商業炉である。制御上の難点が指摘されているうえ、核燃料サイクルの展望も見通せないままだ。

 住民の不安を払拭(ふっしょく)するためにも、函館が決断した原発訴訟の行方をしっかり見守っていきたい。

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