人工放射線と自然放射線の違い

自然界に元来存在する自然放射性物質による被ばくと、福島第一原子力発電所事故に伴い放出された人工放射性物質による被ばくとでは、人体に対する影響が異なるのかどうか、社会の関心が高いようです。

以下に、代表的なご質問と回答の例を紹介させていただきます。

(http://radi-info.com/q-860/)

 

【ご質問】

ホットスポットの柏市(北柏)在住です。 こちらの質問に対する回答でよく他国の自然放射線が参考に出されて比較されておりますが、今回の福島原発から飛散した放射線は人工放射線であり、比較されている自然放射線とは異なるとおもうのですがどうなのでしょうか。他国の自然放射線は遠い昔から存在する放射線でありDNAもこれに適応しているからたとえ高い値でも問題ないのであり、福島原発の人工放射線は我々の細胞にとっては新規の物質であるから悪い影響を受けてしまうのではないかと心配です。

 

【回答】

確かに、人工放射性物質(人工放射能)と自然放射性物質(自然放射能)の違いは気になりますよね。

先ず、人工放射性物質から出る放射線も自然放射性物質から出る放射線もアルファ線、ベータ線、ガンマ線という種類は同じです。
この疑問を考える鍵は放射線が人体にどのような影響を与えているかです。放射線が人体に当たりますと、主に二つの作用を起こします。
一つ目は水から活性酸素を発生させること。二つ目はDNAを直接傷つけることです。一つ目の活性酸素がさらにDNAを傷つけることもあります。

次に、傷つけられたDNAは修復酵素によって修復されます。修復が失敗しても、細胞の自滅作用(アポトーシス)で細胞ごと消し去ります。アポトーシスを免れた細胞はがん細胞になる可能性があります。しかし、がん細胞も免疫細胞により駆逐されてゆきます。このように、人体が元々持つ防護機能によって、細胞の癌化を防いでいます。年齢を重ね、または不健康な生活を続けますと人体の防護機能が弱まり、癌の発生確率は増加します。人それぞれ防護機能の強さは異なりますし、放射線以外の発ガン物質の取り入れる量も異なりますので、個人の癌の発生率は現在の所は分かりません。

長くなりましたが、問題は人類のDNAが自然放射能に適応しているとか、人工放射能には適応していないという話ではなく、DNA損傷の修復作用を持っているかどうかという話です。もちろん、人工放射能から発する放射線のエネルギーが自然放射能から発生するものとのエネルギーが異なることにより、体内に与えられるエネルギーが異なります。しかし、それはDNAを何本切るか、どれだけ活性酸素を作るか、という違いでしかありません。人工放射能の体内での臓器間の挙動の違いもありますが、それも動物実験や過去の人工放射能を治療に使用した医療現場のデータなどから評価され、摂取した量からシーベルトという統一した影響の指標に換算する手法を持っています。つまり、シーベルトという単位で比べれば、自然放射能も人工放射能も同じ土俵で評価する事が出来ます。もちろん、数シーベルト(数千ミリシーベルト)を一度に浴びますと、生命の危険があり、そこまでの被曝には人類は適応していません。しかし、量が少なければ人体の防護機能による放射線による影響は修復されています。

人工放射能だからと不安になられますと、免疫などの防護機能が弱まる危険性もありますので、結果として身体に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。気をつけて頂きたいと思います。

 

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