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インターネット古文講座

KOBUN-Online

楊 暁捷  李 康民

6-2-2 格助詞:の

 

(一)現代日本語における「が」と同じく、体言あるいは用言の連体形に接続して、主格、すなわち叙述の主体であることを表わす。現代日本語においては、「友人の通った大学」といったような表現にいまだこの用法が一部残されている。
例:
唐鏡(からかがみ)のすこしくらき見たる。<舶来の鏡がすこしかげりをもっているのをみた感じだ>(『枕草子』29段)

(二)連体格を示す。二つの体言を繋ぎ、まえのをもって後続するものの内容を限定する。現代日本語の「の」と同じ用法である。限定の内容は、さらにつぎのように分けて考えることができる。

(イ)所有、所属を表わす。「私の家」「大学の教授」など。
例:
行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。<流れる川の水は絶えないで、つねに新しい>(『方丈記』)
人の謗りをも、えはゞからせ給ず、<他人の中傷をものともしないで>(『源氏物語』桐壷)

(ロ)場所、時、位置、対象などを示す。「カナダの友人」「去年の夏」「山の上」「車の運転」などの例文があげられ、「ーにある」「ーにおいての」「ーにおける」「ーに対する」の意。
例:
宇治河の先陣ぞや。<宇治川の先陣だ>(『平家物語』巻九)
あさゆふの宮づかへにつけても、<朝と夜の宮仕えにおいても>(『源氏物語』桐壷)
ひんがしの対の西の廂<東の対の、母屋の西の外側にある廂>(『枕草子』8段)
観音の縁のあるにや、<観音様との縁があうのだろうか>(『枕草子』14段)

(ハ)同格の関係であること、あるいは原材料などを示す。「兄の太郎」「石のアーチ」などの例文があげられ、「ーである」「ーでできた」などと解説できる。
例:
女房の局(つぼね)などによりて、<女房なる局にたち寄って>(『枕草子』3段)
生絹(すずし)のひとへなどきたるも、<練らぬ絹で制作した単を着た姿も>(『枕草子』33段)
三位の位おくり給ふよし、<三位という位を賜るとのこと>(『源氏物語』桐壷)

なお、古文には、「同格」だと考えられるが、後続するのは体言ではなくて、一定の長さをもつ連体修飾文をもつという特殊な用法がある。場合によっては、「の」が文の中止を表わしているとも考えられ、「ーであって」と解説できる。
例:
蜘蛛の巣がきたる松の、露に濡れたるをとりて、<蜘蛛が巣をかけた松、それも露に濡れたのを取って>(『宇津保物語』藤原の君)

(ニ)形式名詞に先立ち、それの内容であることを表わす。「花のようだ。」
例:
またかくの如し。<またそのようだ>(『方丈記』)
契り深き人のためには、<恋い慕う人のためには>(『源氏物語』澪標)

(ホ)一定の文脈において、「の」は体言に接続し、後にくる体言が省略される。「わたしのを見せる。」
例:
前の守も今のももろともにおりて、<前の守も今の守も、連れたって降りて>(『土佐日記』)
 

・ 6-2-2-1 主格の「の」

・ 6-2-2-2 同格の「の」

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