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“テキサス親父”トニー・マラーノ、慰安婦像を叱る - トニー・マラーノ(評論家)

「反日ロビー」と戦う米国人評論家が、いま日本に伝えたいこと

※聞き手:大野和基(国際ジャーナリスト)

動画サイトで「文化の衝突」を目の当たりに


大野:トニー・マラーノさんはYoutubeやニコニコ動画といった動画投稿サイトを通じて、アメリカや東アジアの歴史・政治問題について意見を発信する活動をされています。そのフランクで軽快な語り口から、日本では「テキサス親父」というニックネームで親しまれていますね。最初に、マラーノさんのご経歴についてお聞かせください。

マラーノ:私は30年間、電話会社・AT&Tの子会社に勤務し、2006年に退職しました。大学では歴史学を専攻し、そのときに日本の歴史に関心をもちました。父は第二次世界大戦の際、海兵隊の兵士として従軍しましたが、南太平洋で飛行機の修理をしていたので、おそらく誰も殺していません。ですから、あなたは日本人ですが私を責めないでください。(笑)

父が戦争から帰還したとき、日本人や日本の軍隊についていっさい悪いことを口にしないどころか、尊敬の念を抱いていたくらいです。父からそうした話を直接聞いていたので、私も日本人に対してまったく憎悪の感情はありません。むしろ、自分たちの国を廃墟から経済大国にまで立て直したことに対して、畏敬の念を抱いています。日本にはアメリカのような広大な土地がないし、天然資源もない。ですから、日本が立ち直ったことは、国民の力にほかなりません。それは本当に誇るべきことです。

大野:歴史を専攻したことが日本の歴史に関心をもったきっかけということですが、もっと明確に日本のことを気にかけるようになったタイミングはありますか。

マラーノ:06年にAT&Tを退職した際、地元紙『ダラス・モーニング・ニュース』で、反捕鯨団体のシー・シェパードが日本の捕鯨船に嫌がらせをしている記事を目にしました。いままで私は、日本の捕鯨についてあまり深く考えたことがありませんでしたが、その記事を読んだとき「ちょっと待てよ。日本は多くの島から成り、その島に住む人たちは食料を海から獲っている。アジアに乗り込んで『これを食べてはいけない』と口出しするこの西洋人たちは、いったい何なんだ」と疑問に思いました。西洋人が日本に干渉をしていることに対し、激しい怒りの感情が湧いてきたのです。歴史上、西洋諸国は恐ろしい帝国主義的な支配をアジアで行なってきた。そしていま、この愚か者たちが、形を変えた帝国主義を掲げてアジアに戻ってきたのです。私はこれを〝culinary imperialism(食の帝国主義)〟と呼んでいます。

そこで私はシー・シェパードを批判する動画をネットにアップロードしました。そのビデオは日本で話題になったようですが、当初はその反響を知らず、私はさらにリサーチして次から次へと動画をアップし続けました。私の動画には反捕鯨団体からのコメントが数多く寄せられましたが、非常に卑劣な内容で、罵倒ともいえるものでした。

一方そうした罵倒に対して、英語が書ける日本人視聴者が、丁寧ながら毅然とした態度で再反論をしてくれたのです。私はまさにそのとき、二つの文化の衝突を目の当たりにしました。西洋文化はがさつで品がありませんが、日本文化は丁寧で礼儀正しい。それでいて自分の立場をしっかりと弁護していたのです。

そうこうしているうちに、早稲田大学の学生から日本史についての長い資料が送られてきました。その資料から、日本の歴史について多くのことを学ぶようになったのです。同時に自分の動画が日本で注目されていることを知りました。

やがて日本の出版社(飛鳥新社)から、DVD付きの本を執筆するよう依頼がありました。いままで本を書いたことがなかったので、完成までに1年かかりましたが、担当編集者は忍耐強く待ってくれた。日本のビジネスのやり方が立派なものであると実感しました。こうして2010年春、初の著書『テキサス親父演説集』が発売されました。

同年の終わりにはワシントンDC在住の日本人男性から連絡があり、日本の保守派の団体が私を日本に招く意向があると伝えられました。その男性とスカイプ(インターネット電話)で話をするなかで、慰安婦問題について日本でも意見が分かれていることを知りました。いわば内輪もめのようなものです。私は「そうしたいざこざがあるのなら、私が日本に行かないほうがいいのではないか」と伝えたのですが、最終的には説得されました。そこで2011年5月に初めて訪日したのです。

慰安婦像の横で写真を撮った理由


大野:昨年12月にはカリフォルニア州グレンデール市に建立された慰安婦の像を撤去するために、ホワイトハウスへの署名活動に取り組まれましたね。そもそもなぜ、アメリカに慰安婦像が建てられるという事態になったのでしょうか。

マラーノ:われわれはグレンデールに行ったときに、韓国系アメリカ人の大きなコミュニティがあることに気付きました。明らかにそのコミュニティは、市議会に影響力をもっていました。

彼らの資金の一部は中国から来ていると思われます。慰安婦像は日米間に亀裂を生じさせ、日韓間の亀裂を生じたままにするために建てられたものです。日米韓の3カ国がお互いに激しく対立しているのを見ることほど、中国が喜ぶことはありません。

ただ、この問題に関わっているすべての中国人が、共産党政府を支持しているとは考えられません。純粋に感情的な動機から、活動を行なっている人もいるでしょう。彼らは政府に利用されているのです。

大野:グレンデールの韓国系コミュニティには、日米間に亀裂を生じさせるという動機はあるのでしょうか。

マラーノ:それは主たる目的ではないと思います。日本はアメリカ国内でポジティブなイメージがあるので、日本を叩き、日本のイメージを落としたいと考えているのです。この慰安婦問題の背後にいる人びとは、どういうわけかすべて韓国人というわけではありませんが、あなた方の国に対して解消しようのない嫌悪感を抱いています。私からすれば病的に見えます。まったく理解できません。

大野:ホワイトハウスの署名活動はうまくいきましたか。

マラーノ:最初に始めたときは、まさかこれほどの短期間で10万を超える署名を集められるとは予想していませんでした。私はこの運動を始めただけであって、推進したわけではありません。ソーシャルメディアを使って広めてくれたのは、日本の皆さんです。

私が署名を始めたのは、この国の公共的な場所に、あのような慰安婦像が建てられたことに対して不愉快な気持ちを表すためです。日本と韓国の国際的な亀裂を、アメリカの市立公園で表現すべきではありません。それでもやるとすれば、いかなる形の表現の自由も受け入れる覚悟が必要です。たとえば、私はその慰安婦像の隣に座って写真を撮りましたが、彼らはそのことに腹を立てました。もしその横に座ってほしくないのなら、プライベートな場所か、アメリカ以外に建てるべきです。

大野:彼らの反応をテストするために、像の隣に座って写真を撮ったんですね。

マラーノ:もちろん、こうした像を公共の場につくることに対する不快感を示すためでもありますが、アメリカは慰安婦問題にまったく関係がありません。彼らの言い分は、われわれアメリカ人に歴史を教えたいということですが、それでは、カナダ人には歴史を教えたくないのでしょうか。カナダのどこに慰安婦像があるというのですか。むしろ韓国に留学に行くアメリカ人よりも、アメリカに留学する韓国人のほうが多い。われわれが彼らに歴史を教える側です。

大野:いま、グレンデールの慰安婦像はどのような状況になっているのでしょうか。

マラーノ:依然として撤去されていません。ガードマンが監視しているとも聞きます。興味深いことですね。(笑)

大野:署名運動については、アメリカ人からはどのような反応があったのでしょうか。

マラーノ:署名運動についてというよりも、この問題全体についての反応ですが、まず多くのアメリカ人は慰安婦問題を聞いたことがない、といっています。強制的な性的奴隷があったと信じている人も、「68年前のことだから、もう忘れよう」といっています。日本とアメリカは戦時中お互いに撃滅しようと躍起になっていましたが、いまのわれわれの関係は非常に良好です。むしろ多くのアメリカ人は、なぜ韓国人は日本人と同じように振る舞えないのか、なぜ彼らは嫌悪にとらわれ、しがみついているのか、と戸惑いを感じています。

大野:韓国系や中国系の人から嫌がらせを受けたことはありますか。

マラーノ:慰安婦像の横に座った写真をアップロードした当初は、私を罵倒するフェイスブックのメッセージが韓国在住の韓国人から2000以上も届きました。また、200通以上の殺害予告の脅迫も受けました。

不思議なことに、北朝鮮や日本にいる韓国人からは何のメッセージもありません。かつては北朝鮮からメッセージが届いたことがありますが、今回は何も来ませんでした。友人に脅迫を受けた話をしたところ、「北朝鮮人はひどい」という反応でしたが、「いや、北朝鮮ではなく、韓国の人だ」と私がいうと、彼は非常に驚いていました。

大野:マラーノさんの活動はインターネットを通じて世界中に配信されていますが、欧州など、中立な立場の国々からの反応はいかがでしょうか。

マラーノ:スペインや他の欧州諸国からは、私を支持するメッセージが届きました。アメリカのリベラル派からも来ました。つまりこれは政治の境界線を越えた問題だということです。

(『Voice』2014年4月号より)

※本稿に加え、日本人が反日ロビーと戦う方法、ケネディ駐日大使への評価、アングレーム国際漫画祭の真実といった内容を盛り込んだ、マラーノ氏インタビューの完全版が、3月10日発売の月刊『Voice』4月号に掲載されています。

トニー・マラーノ(Tony Marano)評論家
1949年、米コネティカット州生まれ。生後間もなくニューヨーク・ブルックリンに移る。両親はイタリアからの移民二世。ニューヨーク市立大学卒(専攻は歴史学)。電話会社AT&Tの子会社New York Telephone Companyに30年間勤務し、2006年に退職。現在はテキサス州在住。



■Voice 2014年4月号 <総力特集>反日に決別、親日に感謝 世界のほとんどは親日国家だが、中国と韓国だけは強烈な反日国家。今月号の総力特集は、日本人の気持ちをストレートに表した「反日に決別、親日に感謝」。「テキサス親父」の愛称で親しまれる「反日ロビー」と戦う米国人評論家トニー・マラーノ氏のインタビューも掲載した。第二特集「アベノミクス失速の犯人」では、経済成長率が鈍化しはじめた原因を探る。

また、東日本大震災から3年を経過するにあたり、村井嘉浩宮城県知事や達増拓也岩手県知事に、復興にかける決意を語っていただいた。さらに、作家の阿川佐和子さんと安倍昭恵総理夫人、経営者の秋山咲恵さんの「女性活用」に関しての特別鼎談も興味深い。ぜひご一読いただきたい。

月刊誌『Voice』
新しい日本を創る提言誌

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