ポイント情報:買い物「のぞかれた」 履歴を捜査に利用

毎日新聞 2014年03月23日 09時01分(最終更新 03月23日 11時29分)

「コープさっぽろ」のレシート。会員証カードを提示してポイントが加算された客は、氏名と共にレジでの支払時刻や購入商品などがコンピューターに記録される=日下部聡撮影
「コープさっぽろ」のレシート。会員証カードを提示してポイントが加算された客は、氏名と共にレジでの支払時刻や購入商品などがコンピューターに記録される=日下部聡撮影

 私たちは買い物をするたびに電子的な「足跡」を残す。その情報の第三者への提供は原則禁止だが、捜査当局へは例外だ。北海道で起きた殺人事件では、警察がスーパーマーケットのポイント情報を目撃者捜しに利用していた。自分の購買状況を知られた住民は「警察に生活をのぞかれた」と批判している。

 北海道小樽市の元飲食店経営、末岡睦さん(88)の自宅に道警の捜査員から電話がかかってきたのは2012年春ごろだったという。捜査員はこう尋ねた。

 「去年の7月1日、生協に買い物に行っていますね」

 近所のスーパーマーケット「コープさっぽろ」のことだ。不審に思い、問い返した。

 「なぜ分かったんですか」

 「レジでポイントカードを出したでしょう」

 「どうしてそんな記録を持っているの」

 「警察ですから」

 捜査員は末岡さんに「スーパーで赤い帽子をかぶった女性を見なかったか」と尋ね、「カードを持っている全員に問い合わせている」と話したという。

 市内の別の女性にも同様の電話があった。女性は「駐車場で紺色の車を見なかったか」と尋ねられたほか、「トマトジュースを買ったのでは」などと聞かれ、釈然としない思いが残ったという。

 「ポイントカード」は生協の組合員証のことで、レジで渡せばポイントが付く。コープさっぽろによると、その際、日時や購入商品などがコンピューターに記録される。捜査への利用について、末岡さんは「買い物を調べられているようで不愉快だ」と憤る。以降、ポイントサービスを受けるのはやめた。

 事件は11年7月、資産家女性(当時81歳)が殺害されて自宅で見つかり、9月に知人の会社役員の女性が殺人容疑で逮捕された。女性は容疑を否認し、札幌地検は女性を釈放。今年1月31日に容疑不十分で不起訴とした。スーパーは被害者宅のすぐ近くで、この聞き込みは釈放から数カ月後のことだった。

 道警広報課は取材に「個別の案件については答えられない」とし、コープさっぽろ総務部は「捜査関係事項照会を受け、法に基づく手続きの範囲で情報を提供した」と説明。

 捜査機関が企業などに情報提供を求める際は通常、刑事訴訟法の定める「捜査関係事項照会書」を渡す。裁判所の令状は不要だ。殺人事件の捜査経験が多い他県警の幹部は「地域の人間関係が薄くなり、機械的な記録の重要性は増した。どうしても頼らざるを得ない部分はある」と話す。【日下部聡】

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