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5.労働相談での頻出事項

5.1.賃金請求の訴状作成のながれ

時給800円で1時間はたらいたら、請求できるのは800円

賃金単価×労働時間数=請求額

もう少し複雑になったら?

○下準備1(所定労働時間の計算または補正)
 日給~月給の計算では契約所定の1日~1年間の労働時間を把握または計算する。
 契約所定の時間数とカレンダーから週40時間・日8時間に抵触する部分は、補正して算出

 下準備2(通常の労働時間に対する賃金のふるい分け)
 通常の労働時間に対する賃金にあたるもの・そうでないものに分ける

①1時間あたりの賃金単価算出
 時給・日給・週給・月給・歩合給別に分けて計算して、合計する(労基則19条)
 補正後の単価が最低賃金を下回れば、最低賃金額に補正する

②はたらいた時間の数(労働時間数の算出)
 1日8時間あるいは週40時間を超えたら『時間外労働』
 ※これの例外が、管理監督者・変形労働時間制などの制度
 上記を超えていなくても契約より多く働いたら、その分の賃金

③はたらいた時間の位置(深夜・休日労働の判定)
歴週7日働いてしまったら、どこか1日の労働時間は時間外労働にならず『休日労働』
契約所定内の労働・時間外・休日労働いずれでも22~5時にかかったら『深夜労働』
把握しなければならないのは
 a.契約通りに働いた部分の時間数
 b.契約を超えて働いたが法定内の部分の時間数(契約により発生)
 c.時間外労働に該当する時間数
 d.休日労働に該当する時間数

-以上の賃金は、いずれか一つの性質を持つ-

 e.上記いずれにも重畳される、深夜労働の時間数

これらが把握され、賃金単価×それぞれの労働時間数×割増率を乗じてようやく、請求額が計算できる。
上記①~③の作業を別表でおこなうため、本文は同じような訴状ができることが多い。

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5.2.労働時間規制

5.2.1.週40時間制に基づく労働契約の分析

 1日8時間の規制(労基法32条2項)は常識として、週40時間の規制(同条1項)が適切に解釈できる労働者が極めて少ない。
 この部分がわかると、相談時に予期せぬ請求額の増加が発生することが多々ある。

 かんたんな検出法(依頼人と一緒に検討するとき)

①.日曜日から土曜日までの曜日を横に並べて
②.その曜日の下に、『その契約での所定就労時間』を書いて
③.①と②について日曜日から土曜日までの分を累計していく

 これで、どこかで40時間を超えたら異常発生。超えている部分はその労働日だけをみれば所定内労働だが、週40時間規制への抵触により時間外労働割増賃金になる。

抵触する契約例(板書してみます)
①1日の所定労働時間 8時間
 所定休日 日曜・祝日および毎月第2・4土曜日)
②1日の所定労働時間 7時間
 所定休日 日曜・祝日

5.2.2.特殊な労働時間制度およびその無効主張

「たまには長時間働かせても、残業代払わないでいいようにしたい」という事業主のための制度と考えればよい。
ずっと長時間労働させることを正当化する制度ではない。

 労働基準法に基づく労働時間規制の原則は労基法32条(1日8時間、週40時間)であるが、これを特定の日・週・業種で緩和する。
 事実関係に照らして検討し、無効であれば原則に戻って計算する。

 特に労使協定の設置が要件とされている制度については、協定締結の瑕疵(過半数代表者を会社が指名したり、選任決議がない)・記載条項の遺漏(必要事項の記載がない)・労働条件不利益変更への該当(新たに制度を導入する場合)を理由に争うことも検討できる。
 下記各制度の有効条件下においても深夜労働割増賃金支払義務は免れない. 各制度を導入しても労働時間を管理する義務をまったく免脱できるわけではない。

5.2.2.1.業種と人数により、当然に適用されるもの(労基則25条の2)

 該当すれば週の労働時間の上限が、自動的に44時間となる。

下記の業種で、常時使用される労働者数が常時10名未満のもの
 労基法別表第1第8号(物品の販売、配給、保管もしくは賃貸又は理容の事業)
 第10号(映写、演劇、その他興業の事業)
 第13号(病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業)
 第14号(旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽上の事業)

 常時使用される労働者にはパート・アルバイトも含む。
 物品販売店、小規模な医院・介護施設、食堂などで就労した労働者の相談で該当例が出ることが多いため、相談時には業種のほか従業員数にも注意を要する。

5.2.2.2.フレックスタイム制(労基法32条の3)

 一ヶ月に、ある時間数働くこと(例:160時間)と出退勤の自由を定めた結果、労働者がある週・労働日で週40時間・1日8時間をこえて働いてもその月の労働時間合計が160時間以下なら時間外労働割増賃金を払わなくていいことにする制度。

 制度の導入が古いため、言葉としても市中に広まっている。
 契約書にフレックスタイム制と記して労働時間管理を怠る不良使用者もいる。

要件(これらが満たされない場合は制度が無効→原則通りの時間規制に戻る)
 ①就業規則そのほかこれに準ずるものでの規定の設置
 ②書面による労使協定・労働協約で、対象労働者・清算期間・清算期間内の総労働時間等の規定の設置

 要件①は小規模事業所(就業規則設置義務がない、常時雇用10名未満の事業所)では労働契約で代替可能だが、要件②も必須なので労使協定がなければ自動的に無効。

5.2.2.3.変形労働時間制

 1年~1ヶ月の期間を定めて、平均で週40時間に収まるようにあらかじめ設定すれば、ある週・労働日で週40時間・1日8時間をこえて所定労働時間を設定してもいいことにする制度。
 多くの企業で導入が進むが、社労士から見れば『労働基準法に違反する運用がなされているケースが圧倒的に多いのです』(給与明細で騙されるな 85ページ)

一ヶ月単位の変形労働時間制(法32条の2)  季節での繁閑がない、運輸業・飲食業、昼夜連続勤務を要する警備業・看護婦等でみられる。

要件
 書面による労使協定または労働協約
または
 就業規則そのほかこれに準ずるものの設置

 労使協定を必須としないことに注意。労使協定又は就業規則を完備していても、あらかじめ一ヶ月の勤務日と時間が事前に決定していることを要する(昭和63年基発1号、同年150号)。使用者側が勝手に変更指示を出せる場合には無効になる。

一年単位の変形労働時間制(法32条の4)
 季節での繁閑が激しい業種全般、夏季や年末年始に大型連休を導入したい大企業、取引先がたまたま導入しているために導入せざるを得なくなった下請け工場などにみられ、業種を問わない。

要件
 書面による労使協定または労働協約の設置

 事実上毎年労使協定を結び直さねばならず、これを怠ると無効になる。
※理論的には複数年にわたって有効になるよう設計しうるが、それだけの期間の勤務日と勤務時間をあらかじめ決めてそれを守ることが非現実的
 決定した労働日および労働時間については、書面で特定したうえで30日前までに周知する必要があり(労規則12条の4第2項・平成6年基発1号)使用者が勝手に変更できない。
 これらに該当する実情がある場合には変形労働時間制を無効と主張する。ただし簡裁でおこなう場合、地裁へ裁量移送される可能性がある。

-いずれの変形労働時間制も、労基署への『届出』は効力要件とされない-

 このほか飲食業等で一週間単位でシフトを組む場合に適する、一週間単位の非定型的変形労働時間制(法32条の5)が制度として存在するが、相談事例なし。
 要件は書面による労使協定の設置。対象業種は小売業・旅館・料理店および飲食店で、常時使用される労働者が30人未満であること。

5.2.2.4.事業場外のみなし労働(法38条の2)

 労働者が事業場外で就労する際に、あらかじめ定めた労働時間を就労したとみなすことができる制度。

 外勤営業担当者への適用を視野に入れ、残業代請求対策の一環として導入が推奨される制度の一つではあるが、携帯電話の普及でかえって無効主張しやすい制度になっている。

要件(条文)
 労働者が労働時間の全部または一部において事業場外で業務に従事した場合において、『労働時間を算定し難いとき』は、所定労働時間労働したものとみなす。

適用されない場合(昭和63年基発1号通達)
 ①何人かのグループで外に出るが、時間を管理する者がいる場合
 ②無線やポケベル(携帯電話は無線電話)で随時使用者の指示を受けながら労働している場合
 ③事業場において、訪問先、帰社時刻などの具体的指示を受けたのち、指示通りに業務にあたって帰社する場合

 実際には上記②に該当してしまう危険性が大きい。

5.2.2.5.裁量労働制(法38条の3・同条の4)

 主に専門職従事者(対象業務は労基法施行規則24条の2の2参照)について、業務のすすめかた・労働時間の配分を労働者の裁量にゆだねる(それと引き替えに、残業代支払いを免れる)ことを目的として普及しつつある制度。  特に『システムエンジニア・プログラマーなど、コンピュータを扱う労働者』について名目上、『情報処理システムの分析または設計の業務』で裁量労働制適用との扱いを受けるが、就労実態に照らして無効な事例が発生しやすい。

要件
 書面による労使協定または労働協約の設置(法38条の3)
 または、労使委員会の設置および決議(法38条の4 ただし相談例としては皆無)

 上記の要件を満たしても、業務の実情として単純なプログラミングに過ぎないなど、専門業務に該当しない場合には無効主張可能。
 業務の遂行の手段・時間配分について使用者が労働者に具体的な指示をしないこと(法38条の3第1項3号)がこの規定でもっとも肝心な要件であるが、実情としてこれを満たすこと自体相当難しい。

 対象業務・関連通達と労働者の日々の業務の実情をよく比較して制度の有効性を検討する必要がある。相談時に即答の必要はない。

フレックスタイム制とのちがい 
 フレックスタイム制は、契約で定めた時間数(例:毎月160時間)を働かせることにして、各労働日の出退勤時刻の設定のみ労働者の自由にさせる制度。
 例では労働者は毎月160時間働かねばならず、158時間しか働かなかったら2時間ぶんの賃金減額をうける。
 裁量労働制では毎月何時間働くように、という指示ができない。一ヶ月で160時間かかりそうな仕事を指示し、その結果120時間で終わっても賃金カットはできず(次の仕事をさせることは可)、200時間かかっても残業代を払う必要がない。

5.2.3.労働契約書・タイムカード・給与明細

 一般に上記のものから、相談者の労働契約に基づく時間外労働時間が算出できる。
 このほか労働時間が読み取れるものとして、コンピュータ(グループウェア)へのアクセスログ、IDカードを用いて電子的に管理された出退勤記録をプリントアウトしたもの、表計算ソフトに手入力したもの、まったく手書きの日報類がある。プリントアウトしたものに上司の承認印がある場合には証拠としての評価が高く、一般先取特権の行使にも利用可。そうでなくても通常訴訟・労働審判では利用できる。
 キャッシュレジスター発行のレシートに記載されているレジ扱い者名、ETC利用照会サービスによる通過記録、納品先で発行された伝票、タコグラフの記録、携帯電話での会社との通話記録等で断片的に労働時間を明らかにすることもある。退社時にかならず会社から自宅へファクスしたり、メールを送信するという事実上の記録方法もある。
 労働者のメモだけで訴訟を維持できた例は、当事務所でもない。

 各日の労働時間を直接明らかにするものが全くない場合でも、次のことを検討する。

 労働契約書について、所定労働時間が週40時間を超えていないか。
 この場合、会社側としては所定内と誤信して週40時間超の法定時間外労働をおこなわせているため、契約所定の労働時間を想定したうえで、そのうち法定時間外にあたる部分を請求することができる。

 給与明細について、出勤日数が1ヶ月23日程度を超えていないか。
 別に1日の所定労働時間を立証する必要があるが、仮に1日8時間、一ヶ月30日で給与明細記載の労働日数が24日の場合、週6日勤務した週が最低2回ある。
 その週の、週40時間を超える労働については法定時間外労働に該当する。

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5.3.解雇または『不当』解雇

【重要】戦略として、解雇予告手当を請求するか解雇無効を争うか?

考慮すべき事項
・勤務期間が相当短い非正規労働者でも、解雇無効を争えば解雇予告手当相当額を上回る解決金が取れてしまう。
・解雇予告手当(労働基準法第20条)を請求する場合は、①解雇の事実 ②言い渡しの日 ③最終の勤務日を労働側で立証する必要がある。実は②が難しい。
・地位確認請求ならば(労働者側が退職届をだしていなければ、期間満了か使用者側からの有効な解雇でしか労働契約の終了を想定できないため)解雇にかかわる事実の立証がほとんど不要になってしまう。

 解雇予告手当を労働側が請求していても、使用者側がこれを支払っていない場合には解雇の効力は生じない(札幌地裁昭50.10.11 昭和50年(ヨ)415号・昭和27年基収1906号通達)
 したがって、被解雇事案で解雇予告手当未払いの場合に、対抗する手続きの選択は労働者側が自由に可能。

 ①.少額訴訟で解雇予告手当の請求
 ②.労働審判で地位確認請求
 ③.一般先取特権を行使して解雇予告手当を請求債権とする債権差押命令申立
 ④.通常訴訟で地位確認請求+賃金仮払い仮処分
 ⑤.解雇無効を前提として、通常訴訟・少額訴訟で経過期間ごとの休業手当の請求
 (解雇が無効である以上、労働契約は存続しているため。2.が優れるので非推奨)

 簡裁代理権にこだわらなければ、上記いずれも提案可。現実的には上記1~3。
 地位確認請求を採る場合、雇用保険失業給付の申請状況や転職状況と矛盾が発生しないようにすること。解雇後直ちに転職したのに元の会社へ解雇無効の主張をするのは、常識的にみても不適。
 解雇有効を前提とする解雇予告手当と解雇無効に基づく地位確認請求を同時に行うのは矛盾しており不可だが、相談事例がよくある。労働者側で解雇予告手当の請求をする意思を使用者側に示していないなら、相談を経てどちらかに整理すればよい。

整理解雇の4要件を真面目に論じる必要性
 小規模事業場における解雇事案では、ほとんどない。
 むしろ解雇理由に正当性がないことが明白な事案が多いため、労働側で手続きを担当する場合には比較的シンプルに書類作成できる。

解雇事件の金銭解決に『相場』はあるか
 労働審判手続きでは
『(労働審判制度の利用者に対するアンケート調査では)解雇事件における解決金の額であるが、平均値約140万円、中央値100万円(3.7ヶ月)の数字が出た。
しかし日弁連労働法制委員会での意見交換では、労使の弁護士ともに調査結果は実際より低額であり、弁護士代理の場合はもっと高めの数字ではないかとの感想であった』(事例で知る労働審判制度の実際 37ページ 鵜飼良昭 労働新聞社(2012))
 弁護士が関与すると解決金が上がるのか、解決金が取れそうな事案を選んで弁護士が関与するのかは不明であることに注意。
 講師の事務所では勤務開始1ヶ月~1年程度のアルバイト・正社員の解雇事案が多いが、それを含めて解決金としては2~4ヶ月程度という印象を持つ。
正社員で在職期間が長い事案だけ積極的に扱えば、これより解決金は上がるだろう。

5.3.1.辞めさせてもらえない問題(労働者側)

①退職願を受け取らない
②損害賠償請求すると脅す
③退職後に離職票不発行・最終月の給料未払いなどの嫌がらせをおこなう

「辞める」自由は労働紛争において、労働者にとって最後の砦となる。
 就業規則等の記載はどうあれ、労働者側からの一方的な解約の意思表示(退職願ではなく、退職届)または使用者の債務不履行に基づく解除によって労働契約を終了する可能性を常に模索すること。

無期雇用契約で、約定がない場合→2週間前の通告(民法627条)労働者側にのみ不利な約定が定められている場合
 (会社は30日前、労働者は3ヶ月前に通告義務がある、など)
→民法627条により、2週間前の通告で可とするのが多数説

有期雇用契約の場合
→『やむをえない場合』(民法628条)への該当性を探索する。

労働者に法定解除権はないのか
 労働者からの労働契約の一方的終了に関する規定は、労基法・労契法にはない。
 したがって、使用者側に債務不履行があれば民法債権総則の規定にしたがった解除権は発生する(債務不履行がない場合、民法627・628条)と考えざるを得ない。
 就業規則で労働側から退職申し入れの期間を定めた規定は、単に約定解除権を与えただけで、通常は使用者側の債務不履行を想定したものではない。
 ↓
 もともと賃金・残業代未払・パワーハラスメントなどの労働問題があるから、法律相談に来ているはず。使用者側に、なんらかの債務不履行が存在している可能性は高いため、民法628条、就業規則の規定等のみによって労働者側からの退職可否を判断することは適切ではない。

退職に伴う使用者への損害賠償について
 使用者側で実際に発生した損害がある場合のみ請求できるに過ぎない。
 損害が発生しても賃金との相殺は許されない
 ↓
とりあえず、踏み倒すことを考える。
使用者側は賃金との相殺ができない以上、損害賠償請求を実現するには使用者側から訴えを提起するしかない。そこまでする物好きは、ごくまれにしかいない。

私見だが、労働者が職場内で精神的に追い詰められている場合や違法行為に関与させられている場合、契約上の正当性はさておいてとにかく逃げろ、という助言も可。 労災・うつ病・犯罪等の発生をみるよりましだから。
退職後の嫌がらせについては労基署・裁判所・職安の利用などで個別に対処する(正確には、対処できるから心配するな、と説明する)
【重要】
相談に来た労働者から退職の選択肢を奪う説明には常に慎重であること。

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5.4.平均賃金の計算

 平均賃金は解雇予告手当(法20条)、休業手当(法26条)の請求でよく用いるほか、有給休暇・労災補償でも規定が出てくるが、有給については通常の労働時間の賃金、労災については労災保険からの給付の請求で代替できるため、あまり用いない。

労働基準法12条1項
 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下ってはならない。
(1)賃金が、労働した日または時間によって算定され、又は出来高払性その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60

 未払いの(未だに顕在化していない)残業代と連携することに注意
 上記で『支払われた賃金』は、弁済期が来たが未払いの賃金を当然に含むと考える。
 該当期間の未払い残業代を含めて平均賃金を計算すれば、手間は増えるが請求額も増える。

 パートタイム労働者など所定労働日数が少ない約定の労働者に、同条1項但し書きの最低保障は適用があるか
 単純に適用あり、とする第一審裁判例あり(大阪地裁平17.8.26クラブ「イシカワ」事件。この控訴審判決では、適用否定)

【私見】適用ありと仮定すると下記のとおり不平等な結論が導き出されるため、適用なしと考えるべき。上記の控訴審判決はこの考え方を採る。

5.4.1.計算例1

賃金計算期間 5月1日~7月31日の92日
約定出勤日 月・水・金曜日で週3日
1日の所定労働時間 8時間
時給 1000円

祝日を無視すれば、出勤日数は39日
賃金支給総額は8千円×39日=312000円
(月に11万円弱の収入を得ることになる)

労基法12条本則によって平均賃金を計算すると
312000円÷92日=3391.304円①

同条但し書き所定の最低保証額は、上記賃金額を実際の出勤日数で除した金額の60%なので
312000円÷39日×60%=4800円②

①と②を比べて多い方の30日分の解雇予告手当が支払われるとすれば
4800円②×30日=14万4000円

仮に①を採る場合 3391.304円①×30日=101739.12円

5.4.2.計算例2

賃金計算期間は例1とおなじ
約定出勤日 毎週月曜~土曜日の6日
1日の所定労働時間 4時間
時給 1000円

週の労働時間が24時間、就労1時間あたり1000円となることは例1と同じ

祝日を無視すれば、出勤日数は79日
賃金支給総額は4千円×79日=316000円

労基法12条1項本則によって平均賃金を計算すると
316000円÷92日=3434.782円①

同条但し書きで計算してみると 316000円÷79日×60%=2400円②

この場合には本則で計算した①のほうが大きくなって、但し書き適用の余地がない。

よってこの30日分は
3434.782円×30日=103043円

計算例1で計算した金額と比べると、同じように週2万4千円を賃金として支払われる労働者でも、所定の就労日数が違うだけで計算例1のほうが最低保障を適用した金額が過大に計算されることになる。

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このコンテンツは平成25年10月に、業界団体で実施した研修の教材です。
司法書士の研修のために講師として作成していますので、一般の方に有用でないこともあります。

個別の問題については、有料の相談をお受けしています。

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Last Updated :2013-12-06  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.