「長男の父親の不倫相手」は、男か、女か

「長男の父親の不倫相手」は、男か女か。

常識的に考えて、女と思われるが、実は、そうではない。

少し長くなるが、素材となった新聞記事を引用する。

 「息子の養育費を減らされ、将来を悲観した」-。5歳の長男を道連れに無理心中を図り、長男だけを死なせたとして殺人罪に問われたシングルマザーの女に対し、大津地裁は2月、懲役6年(求刑・同7年)の判決を言い渡した。公判で女が明かした動機が冒頭の言葉だが、それまで長男の父親の不倫相手から受け取っていた養育費は月60万円。
           【養育費40万に減額で「将来を悲観」、5歳長男を心中させた母親の身勝手(産経新聞2014.3.18)

「長男の父親の不倫相手」というのは、実は、「長男の父親である不倫相手」ということだ。

助詞の「の」は、様々な意味があるので、安易に使うと、理解が困難になったり、とんでもない誤解を招くこともある。

例えば、「○○」の「××」、と言った場合、「○○」次第で、「の」の意味は異なってくる。

大学生の家庭教師 大学生である、家庭教師
小学生の家庭教師 小学生を対象とする、家庭教師
高校生の家庭教師 先生が高校生なのか、生徒が高校生なのか、微妙である


次は、「○○」の「××」、と言った場合、「××」次第で、「の」の意味が異なってくる例である。

犬のお巡りさん  犬である、お巡りさん
犬の調教師    犬を対象とする、調教師

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スペースの弊害

 判決文などで、よく見かける例である。

原      告 知 本    修

 まず、最初に目に飛び込んでくるのは、 「告知本」である。次に、左端の「原」に気付き、次に来る「告」と結びつけて、「原告」と理解できる。すると、次に来るのは人の名前だと予測がつき、「知本修」と読むことができる。時間にすれば、僅か1秒の100分の1くらいのものだろうが、それでも、脳にとっては余分なストレスである。

 これに対して、以下のように意味の塊ごとにまとめて書けば何の問題も生じない。

原告  知本 修

 「原告」も「知本修」も、単独で記載するのであれば、その中にスペースが入っていても問題はない。
ところが、両者を続けて記載するときに、それぞれの塊の中にスペースを入れると、その一塊としての一体感が失われ、別の一塊の一部と合体してまうのだ。

 こんな例も時折みかける。

田中 実氏は山田 隆氏の従兄弟です。

 姓と名の間にスペースを入れるというのは、名前だけを書く場合ならそれで何も問題ないのだが、一つの文の中で、姓と名の間にスペースを入れると、そこで文が途切れてしまい、読みにくいこと、この上ないのである。

 こんな文を平気で書ける人は、部分に捕らわれて、全体のことに目が行かないのであろう。

 と、他人事のように述べたが、「分かりやすさ」の追求も、一文ごとの分かりやすさを徹底すれば全体としても分かりやすくなるとは限らないので、部分の分かりやすさを追求すると同時に、かえって、全体として分かりにくくなっていないか、常に自分の書いた文章を批判的に見ることが必要である。

スペースの効用

いくつか、見比べてほしい。どちらが分かりやすいか一目瞭然だろう。

株式会社三菱住友海上火災保険関西支社京都損害調査課
株式会社 三菱住友海上火災保険 関西支社 京都損害調査課 

漢字が25文字も連なっていれば切れ目を探すのは大変である。

TEL075-253-xxxx FAX075-253-xxxx
TEL 075-253-xxxx FAX 075-253-xxxx

LやXの後の「0」ゼロが、アルファベットの「O」に見えてしまう。
アルファベットと数字が混在する場合、文字によっては、アルファベットとも数字ともとれるため、前後の文字と一体化して見えるので注意が必要だ。
 数字  アルファベット
  0    O (オー)
  1    l (小文字のエル)
  2    Z (ゼット) 
  9    q (小文字のキュー)
一体化を避けるには、スペースを入れるほかない。

同様の例は、漢字とカタカナの間にも見られる。
 漢字    カタカナ
  工     エ
  力     カ
  二     ニ
  又     ヌ
  口     ロ

漢字とカタカナが隣り合っているところで、こういう漢字やカタカナを使うと混乱する。
例えば、「山口もえ」なら、「やまぐち」と読めるが、「山口リエ」だと、どうしても、2番目の文字がカタカナの「ロ」に見えてしまうのである。混乱を避けるには、「山口 リエ」と半角スペースを入れるほかはない。

なお、余談だが、「山口リエ」は、川島なお美から「山、ロリエ」と揶揄されたことがあるそうだ【Wikipedia】。

マウスの細胞を弱酸性液に浸し刺激を与えるだけで万能細胞を作る

マウスの細胞を弱酸性液に浸し刺激を与えるだけで、iPS細胞のようにさまざまな細胞になる万能細胞を作ることに、理研のチームが成功した。
                                                  【ITmedia ニュース


 一月半前に日本中が沸き立ったニュースだが、さて、万能細胞を作るにはどうすればいいのか。
 (もちろん、現時点では、実際に万能細胞を作ることができるのか真偽不明であるが、上記の文から読み取れる万能細胞の作成方法は、どのようなものか、という問題である)

 ①弱酸性液に浸すだけ
 ②弱酸性液に浸した上で、さらに別の刺激を与える

 「酸の刺激だけで万能細胞」といった記事も見かけるので、①が正しいのだろう。

 しかし、「弱酸性液に浸し刺激を与える」という表現では、①②いずれとも解される。

 こんな例を考えてみよう。

a. 「『手を引かないと命はないぞ』と言って脅迫する」という場合は、「『手を引かないと命はないぞ』と言葉を発する行為そのものが脅迫行為であり、脅迫行為としては、それで完結している。

b. 次に、「ハンカチで汗を拭いて脅迫する」という場合は、汗を拭いた行為は脅迫それ自体とは無関係であり、その後に、何らかの脅迫行為を行ったと言うことである。

c. ところが、「ナイフを取り出し脅迫する」という場合は、①何も言わなくてもナイフを見ただけで相手が十分に畏怖した場合は、ナイフを取り出すことで脅迫行為は完結したということになるし、②ナイフを取り出した上で、さらに「言うこと聞かないと・・」などの言葉を用いた脅迫手段をとったとも考えられる。

 冒頭の「弱酸性液に浸す」という場合は、①それだけで十分な刺激として完結しているとも解されるし、②弱酸性というのは刺激としては不十分であり、さらに別の刺激を加えるのだとも解されるのである。つまり、上記のc.のような場合ということである。

 そこで、いずれの意味であるかを明瞭にするには、以下のような表現にすればよい。

 ①弱酸性液に浸すという刺激を加える
 ②弱酸性液に浸した上で刺激を加える

以上に述べたことを抽象化すると、以下のようになる。

「AをしてBをする」というとき、AとBの意味内容から、場合分けされる。

a. AがBそのものとして十分だという場合     
   ① A以外の行為は行われない

b. AがBとは無関係という場合    
   ② Aとは別にBにあたる行為が行われる

c. AがBの一つの手段と解される場合、以下のいずれかである
   ① A以外の行為は行われない
   ② Aに加えて、Aとは別のBにあたる行為が行われる 
   
そこで、c.の場合、以下の表現で明瞭に区別することが必要となる。
 ①AというBを行う
 ②Aをした上でBを行う

「号」を捨てよ、「番」を使おう

 新件の相談の電話がかかってきた。
 
 電話の主は、先ほど一審の判決文を弁護士から受け取ったとのことだが、判決言い渡しは半月ほど前とのことで、控訴期限ぎりぎりのようだ。とにかく事務所に来てもらう前に裁判所に控訴期限を確認しようと思い、相談者に事件番号を尋ねた。

「にひゃくさんじゅうごです」
「にひゃくさんじゅうごごう、ですね」
「にひゃくさんじゅうごです」


 裁判所に電話をして、事件番号の235号と当事者名を伝えたのだが、該当の番号の当事者は別人だという。ただ、230号なら、その当事者名の事件があるとのことだった。

 要するに、相談者の「ご」は、「号」であり、私は、それを「五」と聞いていたのだった。私が念のため、「にひゃくさんじゅうごごう、ですね」と、数字の「五」の後に「号」をつけて確認したにも関わらず、その意図は伝わらず、「にひゃくさんじゅうごです」と返してきたため、私は、「号」をつけずに、数字だけ読み上げているものと思い込み、235号と判断したのだった。

 取り違えのないように、「号」は「ごう」と強く発音し、「五」は「ごっ」と短く発音するよう気をつけていたのだが、このときは、取り違えを生じた。その程度の工夫では、誤解は避けられないということだ。

 であれば、「号」を止めるしかない。「号」の代わりに「番」を使い、数字の後ろには、必ず、「番」をつけるようにすればよい。以来、相手が数字だけを言っても、また、数字に「号」をつけても、私は、必ず、「番」をつけて確認するようにしている。

 極たまにではあるが、私が「番」を使わなくても、向こうの方から「番」を使ってくれる書記官もいたりして、同志を見つけた喜びに浸ることもある。

「つしんきんにいってきたんです」

「つしんきんにいってきたんです」


 受話器の向こうの依頼者の言葉に思わず「えっ?」と聞き返した。

「だから、つしんきんに行ってきたんです。」
「・・・」
「つしんきんなんです。」
「つしんきん?」
「津にある信用金庫です」
「あ、三重県の津市にある信用金庫ですね」


 ようやく、理解することができたのだ。

 では、「つしんきん」でなくて、これなら、どうだっただろう。

「うつのみやしんきんにいってきたんです」


 「うつのみや」が「宇都宮」ということは、すぐわかる。すると、地名の次に来る「しんきん」というのが「信金」のことだということもすぐ分かる。だから、一度聞くだけで、栃木県にある宇都宮信用金庫と理解できるのだ。

 この差は、「つ」が1音節、「うつのみや」が5音節という違いに由来する。

 「つ」という1音節で「津」と理解するのは極めて困難だ。
 これに対して、「うつのみや」と言えば、「宇都宮」以外、他に思い浮かばないくらい、明確だ。

 「津信金」であることを一度で分かってもらうには、「みえけんにあるつしんきんにいってきました」と言うほかない。

 「みえけんにある」と聞けば、「三重県」であることは明瞭である。

 そして、その瞬間、「三重県」に関連する言葉がいくつも浮かんでくる。そう、三重県と言えば、まずは、「赤福」「松阪牛」だ。次に浮かんでくるのが、「伊勢神宮」「伊勢志摩」「鈴鹿サーキット」といった観光地だろう。「四日市」「津」「桑名」「名張」といった都市の名前も浮かんでくる。さらに、三重県出身の知人や有名人の名前も浮かんでくる。

 そういった様々な言葉が一瞬のうちに浮かんできて、その状態で、「つしんきん」と聞けば、「津信金」と的確に理解できるのだ。

 もちろん、「三重県」と聞いただけで多数の言葉が明瞭に意識の上に上ってくるわけではない。次に耳に入ってくる音声の、いわば「候補」として、脳が準備を始めるのである。その準備ができているからこそ、「つ」は、「津」と理解できるのである。

 だから、会話の中で音節の短い単語を使う場合は、本来であれば不必要な情報を付け加えることによって、この「準備」を脳に促すことが重要なのである。

 これまで、書き言葉の「分かりやすさ」を論じてきたが、話し言葉には、こういった、書き言葉とは違った配慮が求められるのである。

駐車場から事務所まで、58メートルです

駐車場から事務所まで、58メートルです。


 「分かりやすさ」と言う点では、何の問題もないような一文である。

 だが、どこか、引っかかる。引っかかるのは、「58メートル」という数字である。かりに、これが、「58.37メートル」なら、誰でも、おかしいと思うだろう。

 要するに、駐車場と事務所の距離を表示するのは、来訪者に、およその目処をつけてもらうためである。その目的からすれば、「60メートル」で十分である。それ以上に細かい数字は、意味がない。意味がない以上、ないほうがよい。

 多重債務の相談を受けるときに、真っ先に聞くのは、借金の額である。これなども、相談者によっては、1円単位まで細かく答える人がいるが、これも無駄な情報である。聞く側からすれば、10万単位くらいの大まかな数字で十分である。最初の相談の段階では、これ以上の細かい数字を聞いたところで、余り意味がない。でも、相談者は、「少しでも正確に」と言う意識が働くため、必要以上に細かな数字を答えるのだ。

 いつ頃からの借金か、ということも、平成何年の何月何日というところまで、答える人もいるが、これも、聞く側からすれば、無用に詳しい情報である。せいぜい、2,3年前、4,5年前、あるいは、10年くらい前、という情報で十分である。

 要するに、最初の段階で弁護士が尋ねるのは、ざっくり、任意整理できそうか、あるいは、破産しか選択の余地がなさそうか、という判断をするためである。もちろん、最終的な判断は、債権者からの取引履歴の開示を受けて利息制限法計算をしてからということになる。だから、相談の段階で相談者からいくら詳しい数字を聞いたところで、それをそのまま前提とするわけにはいかないのであり、いずれにせよ、無断な情報ということになる。

 とはいえ、無駄な情報だからといって、相談者が話そうとしているの遮ってしまうのは禁物である。そんなことをしたら、相談者には、弁護士が話を聞いてくれないという不満が鬱積するだけである。「よく、細かい数字まで整理されていますね」と敬意を払った上で、微妙なバランス取りながら、真に必要な情報を依頼者から聞き出すことが求められるのである。


メールの件名は「一読了解」が不可欠

 私は、メーリングリストを多数、利用しているが、よくあるのが、下記のような件名のメールだ。

    お世話になります
    先日の件
    お尋ねします


 こんな無内容な件名など、全く、意味がない。

 次のような件名のメールも、よく見かける。

    京都ビルの名義変更手続
    弁護士会窓口についての質問
    シュレッダー引き取りの件


 冒頭の例と比べると、ずっと、ましである。でも、これでも不十分だ。

 では、これなら、どうであろうか。

    京都ビルの名義変更手続の日程調整
    弁護士会の年末年始の窓口業務?
    シュレッダー、いりませんか?


 何を主題としているのか、一目瞭然である。とくに、2番目など、本文さえ不要なくらいである。

 毎日、波のように押し寄せるメールの全部に目を通しているほど時間はない。件名で主題が明瞭に示されていれば、自分にとっての必要性が判断でき、優先度の高いものから本文に目を通し、処理をして行くことが可能となる。

 件名が具体的であることによる効用は、メール受信時の処理が効率化されることに止まらない。

 後日、気になって、メールの情報を探す場合にも、件名が具体的であれば、目で捜すことも、また、「検索」で捜すことも、容易である。件名が「お世話になります」や「先日の件」では、到底、こうはいかない。一々、本文に目を通すか、本文まで含めて検索にかけなければならない。件名の検索なら一瞬で終わるが、本文まで検索するとなると、10数秒かかることもある。

 ときに、こんなのもある。

    ○○ファイナンスに対する債権の譲渡希望


 書いた本人は、十分に具体的に書いたつもりで、分かってもらえると思っているのだろうが、読んだ側は、「投稿者が自ら譲渡することを希望している」のか「誰かに譲渡してもらうことを希望している」のか、判然としない。

 端的に、「譲渡します」「譲渡して下さい」「売ります」「買います」とした方が、ずっと分かりやすい(「売ります」「買います」の方が、「売」「買」という表意文字が目に飛び込んで来て、より直感的に理解できるので、より優れている)。

 ついでに、細かいことを言うが、具体的内容を書いて、その後に、「について」とか「の件」などと付け加えたものも、よく目にするが、これなども、無意味な情報を付け加えるだけであり、不要である。

 メールに「件名」を付ける目的は、メールの受信者が一瞬にしてメールの主題を理解し、本文を読むべきか否か、読むとして、他のメールを後回しにしてでも読むべきか否か、その判断を下せるようにすることであり、この目的と無縁の情報は、できる限り削ぎ落とすべきである。

欺瞞とご都合主義に満ちた特定秘密保護法への批判

欺瞞とご都合主義に満ちた特定秘密保護法への批判
                                             【産経ニュース 2013.12.8


上記の記事見出しは、文法上は、下記のいずれとも解される。

A.「欺瞞とご都合主義に満ちた特定秘密保護法」への批判
B.欺瞞とご都合主義に満ちた「特定秘密保護法への批判

 常識的に考えれば、A.であろうし、一般の新聞記事の見出しであれば、A.であるのは当然である。

 ところが、これを掲載しているのが、産経新聞となれば、話は違う。産経新聞であればこそ、A.ではなく、B.だろう、という推測も成り立つ。実際、記事の内容を読んでみれば、B.であったことが分かるのである。

 文章を読む際には、我々は、文法的な関係のみで理解するのではない。文法的な関係に加えて、文脈も踏まえて理解する。従って、文法的には多義的であっても、文脈から一義的に理解できる場合も多々存在する。ただし、「記事見出し」については、先行する文章が存在しないのであるから、頼りにする「文脈」自体が存在しない。

 とすれば、文法的な関係でのみ理解せざるを得ないことになるが、ここで登場するのが、記事の発信主体が誰か、という情報である。

 先行する文章が存在しなくとも、誰が記事の発信主体かという情報があれば、ある程度は、文章の内容の予測がつくのである。本件について言えば、主体が「産経」であるという情報である。同紙が、一般紙と異なり、極端に政権よりの姿勢であることは周知の事実である。そして、その姿勢を前提にすれば、文法的には、A.ともB.ともとれる記事見出しも、B.だろう、と推測できるのである。

 そうは言っても、文法的にも一義的に明確である方が読み手に優しい文章であることは確かである。

期限内に提出されたものが26通で割合にして29パーセント,期限の翌日から期日の前々日・・・

 裁判所と弁護士会は、裁判手続の進め方について定期的に協議をしている。

 先日、その協議のときの書面が届いたのだが、弁護士が書面の提出期限を守っていないという実情を数値で示したものだった。以下の文章の赤枠の部分に注意して読んでほしい。

letter.jpg

 一連の文章の中に埋め込まれた数値の意味を理解するのは、大変な労力を要するものである。
 
 では、次の表なら、どうだろうか。


 分かりやすさ、訴求力、記憶に残りやすさ、どちらが優れているか、言うまでもない。

 ただ、表やグラフの作成には手間を要し、時間がかかる。反面、表やグラフにすれば、その結果として、何百人という読み手の労力が節約される。節約される労力の総和と比較すれば、表やグラフを作成するための労力など微々たるものである。社会全体の情報伝達コストを考えれば、情報の発信者側が多少の労力を厭わず、分かりやすさを第一として、情報の発信方法を工夫すべきである。

本社総務部から新崎原発の保守管理部への人事異動を言い渡された。

父の逮捕から二週間後、金山は、本社総務部から新崎原発の保守管理部への人事異動を言い渡された。                                                                              【若杉冽「原発ホワイトアウト」6頁】


金山は、異動前は、どこの部署にいたのだろうか。

a 本社総務部
b 不明

この違いは、「本社総務部から」が、何を修飾していると見るかによる違いである。
a 「本社総務部からの人事異動」
b 「本社総務部から言い渡された」

仮に、「本社総務部から」ではなく、「浜岡原発の広報部から」であれば、「浜岡原発の広報部からの人事異動」だろう。
他方、「本社総務部から」ではなく、「本社人事部から」なら、「本社人事部から言い渡された」というのが自然である。


 この違いは、「○○から新崎原発の保守管理部への人事異動を言い渡された。」という場合、○○が、「新崎原発の保守管理部の前の職場」として相応しいのか、あるいは、「人事異動を言い渡す部署」として相応しいのか、ということによるものである。

 これが「本社総務部」であれば、総務部の中に人事課があるという会社もあるので、人事異動を「本社総務部」から言い渡された、ともとられるが、他方、「本社総務部からの異動」ともとられるのである。

 意味の上では、「本社総務部」というのが、人事異動を言い渡す主体として、微妙な存在であるため、これを形式面で明確にするには、次のように読点「、」を打つほかないのである。

a 本社総務部から新崎原発の保守管理部への、人事異動を言い渡された。
a 本社総務部から新崎原発の保守管理部への人事異動を、言い渡された。
b 本社総務部から、新崎原発の保守管理部への人事異動を言い渡された。

水産物の輸出額が特産のリンゴと並ぶほど盛んな青森県

水産物の輸出額が特産のリンゴと並ぶほど盛んな青森県
                                           【朝日新聞2013.9.6


 一見、どこが分かりにくいのか、と言われそうだが、じっくり読んでほしい。

 「盛んな」の主語は何だろう。「輸出額」ではないはずだ。主語として相応しいのは「水産業」である。

 では、どう書き直せばいいのか。

 水産物の輸出額が特産のリンゴと並ぶほど水産業が盛んな青森県

文法的には主語述語が対応して完璧なのだが、何となく、くどく感じてしまう。日本は英語と違って主語がない文も通常、使われているのだから、原文のままでもいいではないか、という意見も傾聴に値する。

 

検察官A出席の上審理し、次のとおり判決する。

右の者に対する窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官A出席の上審理し、次のとおり判決する。

                              【司法研修所「六訂 刑事判決起案書の手引」10頁】

 

 この文は、さほど分かりにくいものではないのだが、読んでいて若干、引っかかるのが、「出席の上審理し」の部分だ。

 なぜ気になるかの説明は後ほど行うことにして、まずは、日本語の文字について考えてみよう。

 日本語は、漢字と仮名という二系統の文字が混在しているが、この両者が適度に混在することによって、文の構成単位が明確になり、結果として、理解しやすくなっている。

 これが、仮名だけなら、こうなる。

 にほんごは、かんじとかなというにけいとうのもじがこんざいしているが・・・

 一目見ただけでは、どこまでが一つの単語なのか分からず、一文字ずつ読んでいかないと理解ができない。

 逆に漢字だけならこうなるだろう。

 日語是漢字和仮名混在・・・

 平仮名ばかりの文に比べれば読みやすいが、どこまでが一つの単語なのか分かりにくい点では、変わりない。

 これが漢字と仮名が、単語ごとに交互に出てくるなら、単語の切れ目が一目瞭然で、理解もしやすい(ここで、「単語」と言ったが、厳密には、「単語」ではない。動詞や形容詞では、語幹が漢字、活用語尾が仮名となっている)。

 そこで、上記の「検察官A出席の上審理し」に戻る。

 どうしても、「上審理」が一塊に読めてしまい、ほんの一瞬ではあるが、戸惑ってしまうのである。

 これを解消する方法は、二つある。

 A 出席のうえ審理し

 B 出席の上、審理し

 Aは、「のうえ」が一体化して読めるので、Bの方が読みやすいだろう。

 実は、この話、私が司法修習生のときに、とある裁判官から伺った話である。それ以来、文を書く際には単語の切れ目に注意を払うようにしている。

 単語の切れ目を明確にする方法としては、次の3つの方法があるが、何と言っても、①が最も自然である。

①漢字と仮名を交互に使う
②読点「、」で区切る
 ③括弧で括る 

 さて、上記のように日本語は漢字仮名交じり文という極めて優れた特質を持っているのである。その点で、漢字ばかりの中国語より優れているし、漢字を廃止してハングルだけにした韓国語よりも優れているのである。
 
 せっかく、日本語には、このような優れた特質があるにも関わらず、漢字を使うべきところを平仮名にして、ことさら読みにくくなっている文を目にすることがある。

 覚醒剤 覚せい剤
 斡旋  あっ旋
 貼用  ちょう用

 常用漢字(昔の当用漢字)にないという理由で平仮名が用いられていたようだが、単語を構成する漢字の一部が常用漢字ではないという理由で、そこだけを平仮名にするなど、「分かりやすさ」という点では、論外である。

 なお、貼用については、近時、「貼」の字が常用漢字になったので、上記の問題は解消した。

 ちなみに、先ほどの漢字ばかりの文は、私が、適当に「中国語風」に作っただけなので、正しい中国語であるとは保証できません。

目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり地下室に潜んでいた男を殺してしまう

メリーは、夫であるトニーが海外から帰ってくる日に、自宅で暴漢に襲われる。
目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり地下室に潜んでいた男を殺してしまう。
                               【映画「雨の訪問者」の解説記事(Wikipedia)】       



 さて、メリーが恐怖のあまり男を殺したのか、男が恐怖のあまり地下室に潜んでいたのか、「恐怖」の主体が誰なのかは不明である。これを明確にする手っ取り早い方法は、読点を打つことだ。

 ① 目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり地下室に潜んでいた男を、殺してしまう。

 ② 目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり、地下室に潜んでいた男を殺してしまう。

これなら明確だ。

 読点のつけ方を一般的に論じるのは困難なことだが、ここで試みた読点の付け方を可能な限り抽象化してみよう。

 ABCDという4つの文節からなる文を考える。
 意味の上では、BがCを修飾していても、Dを修飾していても、別に不自然ではないとする。
 その場合、この文を読んだだけでは、どちらなのかは不明である。
 ところが、読点を用いて
 AB、CD とすれば、BはDを修飾していることになり、
 ABC、D とすれば、BはCを修飾していることになる。

 次に例文を示す。

 私は急いで逃げた男を追いかけた
 (A:私は B:急いで C:逃げた男を D:追いかけた)

 私は急いで、逃げた男を追いかけた
 私は急いで逃げた男を、追いかけた

 では、次の例文はどうだろう。

 私は力強く寝ている男を揺さぶった

 これは読点は不要だ。「力強く」が「寝ている」を修飾しないことは意味の上で明確だからだ。

 「急いで」と「逃げた」
 「力強く」と「寝ている」

 同じく、ABCDからなる文でも、BとCの親和性がなければ、読点がなくても、修飾、被修飾の関係は明白である。

 とは言っても、「親和性」というのも様々なレベルがあり、読点がなければ、ほんの一瞬ではあるが、「力強く」が「寝ている」と結びつくような感じがしないでもない。もちろん、意味の上では結びつかないのだから、すぐに、「力強く」は、もっと後ろの動詞を修飾するのだろうということはわかるのだが、それでも、読み手に対する配慮としては、この一瞬の迷いも生じさせないようにすべきであろう。

 そうすると、この例文の場合も、

 私は力強く、寝ている男を揺さぶった とすべきだろう。

 なお、ここでは、読点によって、修飾、被修飾関係を明確にする方法を論じたのであるが、語順を入れ替えることによっても、同様の目的を達することができるのは、もちろんである。

 私は寝ている男を力強く揺さぶった。

 日本語では、後ろの文節が前の文節を修飾することはないのだから、「力強く」が、直前の「寝ている」ではなく、直後の「揺さぶった」を修飾していることは明白である。

 ただ、こうすると、今度は、「私は」が「寝ている」にかかっているようにも読めるので、やはり、一瞬ではあるが、思考が中断する。

 その点まで配慮するなら、

 私は、寝ている男を力強く揺さぶった とするのがいいだろう。
 
 さて、冒頭の例文に戻るが、メリーが暴漢に襲われたという記述が直前にあるのだから、文脈から、メリーが恐怖したのだということは分からないではない。とはいえ、文脈に頼らなくても、その一文だけを取り出しても一義的に明確な文の方が、より分かりやすいのは確かであり、そのような文章こそ読者に対する配慮に満ちた文章である。

フランチャイザーのフランチャイジーに対する債権を担保するために、フランチャイジーからフランチャイザーに対して・・・

 保証金とは、フランチャイズ契約に関連して発生するロイヤルティ等のフランチャイザーのフランチャイジーに対する債権を担保するために、フランチャイジーからフランチャイザーに対して、通常は契約締結時に一時金として交付される金銭であり、フランチャイズ契約の終了の後にフランチャイジーにフランチャイズ契約に関連して発生した債務不履行、場合によっては不法行為等によるフランチャイザーに対する債務があればその額を控除した金額を、そのような債務がなければ全額を、フランチャイザーはフランチャイジーに対して返還しなければならないという性質の金銭です。 【青林書院「フランチャイズ・システムの法律相談」62頁】


 冒頭から、「分かりやすさが第一」とは真逆の分かりにくい文章で恐縮です。とはいえ、冒頭の文章は、「分かりやすさが第一」という、このブログの素材として、引用しているのです。だから、分かりにくければ分かりにくいほど、このブログの素材としての適性を備えていることになるのです。

 さて、「分かりやすい」文章にするには、元の文章が何故「分かりにくい」のか、まず、その原因を把握しなければなりません。

 原文の「分かりにくさ」の原因の第一は、何と言っても、「フランチャイザー」「フランチャイジー」という紛らわしい言葉が頻繁に登場していることでしょう。

 それぞれ、フランチャイズ「する人」、フランチャイズ「される人」、という意味には違いないのですが、語尾の「ザー」と「ジー」の違いから、どちらを指しているのかを即座に理解するのは、普通の日本人には困難です。いくら頭で、一般論として英単語の語尾の「er:アー」は「する人」、「ee:イー」は「される人」とわかっていても、「フランチャイザー」という単語を目にすれば、「フランチャイザー」→「ザー」→「アー」→「する人」→「フラインチャイズする人」→「フランチャイズの本部」といった翻訳作業が必要です。たとえ一瞬であれ、「日本語を読む」ことに加えて、このような「翻訳作業」を読者に「強いる」のは、この上なく不親切というほかはないでしょう。

 この「翻訳作業」を不要にするには、最初から、日本語として直感的に理解できる言葉を使えばよいのです。

 保証金とは、フランチャイズ契約に関連して発生するロイヤルティ等の本部の加盟店に対する債権を担保するために、加盟店から本部に対して、通常は契約締結時に一時金として交付される金銭であり、フランチャイズ契約の終了の後に加盟店にフランチャイズ契約に関連して発生した債務不履行、場合によっては不法行為等による本部に対する債務があればその額を控除した金額を、そのような債務がなければ全額を、本部は加盟店に対して返還しなければならないという性質の金銭です。


 翻訳作業は不要になって、原文より分かりやすくなったものの、これでも、まだまだ、分かりにくい文章であり、本ブログの素材としての価値は未だ失われてはいません。

 分かりにくい文章、悪文の典型例として、多くの文章技術の本で取り上げられているのが、「長い文章」です。「長い」というだけで、読者には、相当な負担となります。読みやすい文章は、一文50字程度までとされていますが、冒頭の文章は、一文で250文字を超えている、超長文です。以下、原文を4つの短文に分け、適宜、必要な修正を施してみました。

 保証金とは、フランチャイズの本部が、加盟店に対する債権を担保するために、加盟店から徴収する金銭です。徴収の時期は、通常は契約締結の時点です。契約の終了後、本部は保証金を加盟店に返還することになりますが、その際、フランチャイズ契約に関連して発生した債権があれば、その額を控除することができます。保証金から控除できる債権は、フランチャイズ契約から生じるロイヤルティ請求権等に限らず、フランチャイズ契約に関連して発生した不法行為等による債権も含まれます。


以下、修正に際して配慮した点につき説明します。

◆一つの文に情報を過剰に盛り込まない

 最初の一文は、保証金の目的、誰から誰へ支払われるのか、2点について述べています。
 原文は、もう一点、「通常は契約締結時に一時金として交付される」という支払時期の点にも触れています。しかも、その中で、「通常は」と、通常でない場合もあることを読者に想定させ、その文だけ、読者の負担となっています。
 最初の一文では、交付の時期については、触れずに、端的に保証金の概要を示す。次に、第二文で、交付の時期について、例外を示唆しながら、説明する、という流れなら、読者の負担も軽減されます。

◆強調すべきことを的確に強調する-中立的な言葉ではなく価値に満ちた言葉を用いることにより強調-

 原文は「交付される」となっていましたが、「徴収する」に変更し、本部が「取り立てるもの」であることを明確にしました。その方が、保証金の「目的」すなわち、本部の利益を確保するためのものだ、ということに、よりストレートに結びつくからです。
 なお、「分かりやすさが第一」とは全く逆の方向ですが、実態を覆い隠そうという意図がある場合は、価値中立的な言葉を敢えて用いるというテクニックもあります。たとえば、「侵略」を「進出」と言い換えたり、「撤退」を「転進」と言い換えるなどの用例です。


◆強調すべきことを的確に強調する-文の途中ではなく文末に記載することにより強調-

 原文は、文末が「返還しなければならない性質のものです」、となっているのに対し、修正案の第3文の末尾は「控除することができます」となっています。保証金の目的からすると、「控除できる」という点に意味があります。日本語は、一般に、文の末尾が重要なものと認識されていますから、修正案では「控除できる」ということを文末に持ってきたのです。他方、原文は、「控除できる」という話が文の途中に出てきて、文末で「返還しなければならない」と本部側の義務について述べているため、保証金を返還するという本部の負担が強調されてしまい、本部の債権を担保するという、保証金本来の目的が希薄になっているのです。

 文末に記載することにより強調するという手法は、至る所で有効です。
 次の例を見て下さい。
 ・私はカレーが食べたいです。
 ・私が食べたいのはカレーです。
 どちらが、とにかく「カレー」が食べたいんだということが伝わってくるでしょうか。
・・・
 とにかく「カレー」が食べたいんだということが伝わってくるのは、どちらでしょうか。
・・・
 同じ質問でも、質問に答えなければいけないという気にさせるのは、どちらでしょうか。


◆視点を固定する

 たとえば、金銭は誰が見ても金銭ですが、債権・債務は、権利者から見れば債権、義務者から見れば債務、と呼び名が変わります。一つの文または近接した文の中で、同一の対象を債権と呼んだり債務と呼んだりすると、読者は混乱します。権利者なら権利者という一方の立場で貫けば、混乱は起きません。原文は、債権、債務の両方が用いられていますが、修正案は、債権で統一しています。


◆補足 「加盟店」か「加盟者」か   具体的イメージを想起させる表現を用いる

 前述の「フランチャイジー」の言い換えですが、公正取引員会のホームページでは、以下のような記載があります。

我が国においては、フランチャイザー(以下「本部」という。)とフランチャイジー(以下「加盟者」という。)から構成されるフランチャイズ・システムを用いる事業活動の形態が増加してきているが・・・

       【公正取引委員会事務局「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」】


 さすがに公取委です。カタカナを漢字に置き換えるなど、「分かりやすさが第一」と考えているようです。

 でも、「フランチャイジー」は「加盟者」とするより「加盟店」とする方が分かりやすいでしょう。というのは、「加盟店」だと、具体的な店舗、日常よく目にするコンビニ店とかファーストフード店が想起されて、「分かった気」になるのに対して、「加盟者」だと、具体的な店舗ではなく、その背後の抽象的な運営主体を指しているよう思えて(実際、それを指しているのですが)、なんとなく「分かった気」にはならないからです。

 些細と言えば些細なことですが、このような些細な点でも、より具体的なイメージを抱きやすい表現を用いることによって、「分かりやすさ」は増すのです。
プロフィール

Author:「時間泥棒」仕置人
職業:弁護士

 どうすれば、効率よく、的確に、情報を取得・提供できるか、ということを常に考えています。

 ところが、そんなことには無頓着な人も多いようで、読者に対する配慮の一欠片もない文章を目にすることがあります。

 難解な文章で読者の貴重な時間を奪ってしまう人達のことを、「時間泥棒」と名付けました。

 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

 記事を読んで、自分も「時間泥棒」かな、と思ったら、早速、改めて下さい。また、あなたの廻りに「時間泥棒」がいたら、あなたの力で立派に更生させてあげて下さい。

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