いったい誰のための国会審議なのか。そう嘆息せざるを得ない前半国会だった。

 象徴的だったのが、都知事選の応援演説で、他候補を「人間のくず」とののしったNHK経営委員の任命責任を問われた時だ。「ある夕刊紙は、私のことをほぼ毎日のように『人間のくず』と報道しておりますが、私は別に気にしませんけれどもね」と首相。閣僚席はどっと沸き、首相は満足げだった。

 「身内」の笑い声にくるんで問題の本質をずらす。最後は定番フレーズ「個人的発言についてコメントすべきではない」で逃げる。議論は深まることなく、つるつると滑ってゆく。

 言葉を武器に人々の理性に訴え、説得を試みる。それが本来あるべき政治の姿である。

 だが首相は言葉ではなく、イメージを重視しているようだ。負けてない感じ。決然としている感じ――。結論は決まっている。議論は無駄だ。そんな「勝者のおごり」も垣間見えた。

 かくして14年度予算は戦後3番目の早さで成立した。

 17年ぶりの消費増税を織り込んだ総額は過去最大の95・9兆円。多額の公共事業予算が人手不足の中で順調に執行されるのか。突っ込んだ議論がされるべきだった。「アベノミクス」は本当にうまくいっているのか。丁寧な議論が不可欠だった。

 ところが与党は、首相の外遊を最優先に日程を決定。「スピード審議」を実現するため与党の質問時間を極力絞り、質問に立たない日さえあった。

 まったく理解に苦しむ。与党議員は首相の部下ではない。有権者の代表である。個々の政策について有権者の理解を深めるため、首相や閣僚に説明を求める責任を負っているはずだ。

 野党の批判機能の低下も著しい。民主党は下野の痛手からいまだ抜け出せず、存在感を示せない。日本維新の会やみんなの党は政権寄りの姿勢が目立ち、野党共闘もままならない。

 「数」を頼みに国会審議を軽視する与党と、「数」にひるんでそろりと「勝ち馬」に乗ろうとする野党内の動き。「1強」時代のそれが政治の実像だ。

 「待ったなし」。首相をはじめ昨今の政治家が好んで使う言葉だ。しかし「早さ」と引き換えに、政治家や有権者の政治的思考力は損なわれる。広い視野と長い射程で政治を捉える力を養うには、待って、考え、議論する時間が不可欠である。

 後半国会では深みのある論戦の展開を望む。首相が施政方針演説で繰り返した言葉を思いだそう。「やれば、できる」