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Vol.103 結城浩/出版賞/再発見の発想法/子育て/妻と二人で/先生にエール/
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Vol.103 結城浩/出版賞/再発見の発想法/子育て/妻と二人で/先生にエール/

2014-03-18 07:00
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    Vol.103 結城浩/出版賞/再発見の発想法/子育て/妻と二人で/先生にエール/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2014年3月18日 Vol.103

    はじめに

    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。 いかがお過ごしですか?

     * * *

    もしかしたらすでにお聞き及びの方もいらっしゃるかもしれませんが、 このたび、結城は「2014年度日本数学会賞出版賞」を受賞いたしました。

     ◆2014年度日本数学会賞出版賞 - 日本数学会
     http://mathsoc.jp/publicity/pubprize2014.html

    これは、たいへん光栄なことと思っております。 ひとえに結城の活動を応援してくださるみなさまのおかげです。 これからもどうぞご指導のほど、よろしくお願いいたします。 後ほど、メルマガ本文の方でもう少し詳しくお伝えします。

     * * *

    仲俣暁生さんのマガジン航で、 結城の短期集中連載「私と有料メルマガ」第二回が公開されました。

    今回は「転換編」と題して、「結城メルマガ」発行中に起きた出来事と、 それに対してどのように自分が判断したかを書きました。 その「出来事」と「判断」によってメルマガは少しずつ軌道修正をして、 現在の姿になってきたといえます。

    自分でメールマガジンを運営しようという方にはもちろんのこと、 書籍執筆やサイト運営に関心がある方にも参考になる部分があると思いますので、 よろしければお読みください。

     ◆短期集中連載「私と有料メルマガ」第二回 転換編 - マガジン航
     http://www.dotbook.jp/magazine-k/on_my_paid_email_magazine_02/

    ところで、 先週の「結城メルマガ」で偉そうに「〆切は守りましょう」と強く主張したせい…… ではないと思うんですが、今回の記事は予定していた〆切に間に合わず、 数日延ばしていただいての完成になりました。お恥ずかしい。

     * * *

    ここしばらくはずっと、四月後半に刊行される 『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』の初校読みをしていました。 初校紙を読みながら修正箇所を書き込んでいくといういつもの地味な作業です。

    まとまった作業を始める前にツイッターでつぶやき(1)、 作業が終わったり疲れて休憩したりするときにまたツイッターでつぶやき(2)ます。 そうすると、(1)から(2)にどれだけ時間が掛かったか、だいたいわかります。

    きちんと集計しているわけではないのですが、 結城の場合、午前中は90分から2時間くらい続けて作業ができるようです。 午後になると疲れが出てくるのか、50分や20分単位で休憩をとるようですね。

    前回の『数学文章作法 推敲編』でも書きましたが、 連続的な時間を確保できるときと、断片的な時間しか確保できないときで、 仕事の種類を変えるのは有効です。

    まあ、でも、校正紙を頭から順番に読むときには、 順番に読んでいくしかないので、自分の疲労度合いと折り合いを付けつつ、 粛々と進むしかないんですけれどね。マラソンのようなものです。

    ツイッターでつぶやいた時刻を自分の作業のタイムスタンプにするのは、 作業にかかった時間を把握するいい方法だと思います。 ツイッターはいわゆる「ライフログ」を記録するツールといえますが、 その意味では正統的な使い方ですね。

     * * *

    ツイッターといえば。

    先日、結城浩 (@hyuki) のフォロワーさんが二万人を越えました! みなさんありがとうございます。

    せっかくなので、フォロワーさんの数がどのように推移してきたのかを 調べてみることにしました。その結果が以下のグラフです。

     ◆ @hyuki のフォロワー数推移(2010年04月27日→2014年03月15日)

    2014-03-18_followers.png

    何か特別なイベントが起きたときにフォロワーさんがどっと増えた…… という分析を期待したのですが、このグラフを見る限りはそういうことはないみたいですね。 この記録の最初2010年に6788人だったのが2014年には20086人に増えていますが、 途中に大きな波があるわけでもなく、たんたんと増えていったように見えます。

    なお、このグラフは、以下のサイトを使って作成したものを元に作りました (二つのポップアップを一つの画像にまとめる編集をしています)。

     ◆Wildfire
     https://monitor.wildfireapp.com/

    いずれにしましても、二万人の方にフォローしていただけるというのは、 とてもありがたいことですね。

    みなさまご存じの通り、「数学ガール」のリツイートや 「自分語り」の多い私ですけれど、 どうぞよろしくお願いいたします。

     * * *

    さて、そろそろ結城メルマガを始めましょう。

    今回は技術評論社とのコラボ連載「再発見の発想法」をPDFでお送りします。 それから、久しぶりにコミュニケーションを題材にした「妻と二人で」というちょっとしたお話。 「IT時代の子育て」と「先生にエールを送りたい!」という「教えるときの心がけ」のコーナー。 そして、日本数学会賞出版賞受賞に関するエピソードをお送りします。

    それではどうぞお読みください!

    目次

    • はじめに
    • 再発見の発想法 - Bottleneck(ボトルネック)
    • IT時代の子育て - 教えるときの心がけ
    • 妻と二人で - 夫婦のコミュニケーション
    • 2014年度日本数学会賞出版賞
    • 先生にエールを送りたい! - 教えるときの心がけ
    • 次回予告

    再発見の発想法 - Bottleneck(ボトルネック)

    「再発見の発想法」のコーナーです。 このコーナーでは、技術的なキーワードを軸にして、 日常生活をもう一度見直してみようという読み物をお届けします。 今回は、

     Bottleneck(ボトルネック)

    というキーワードがテーマです。 お手数ですが、以下のURLからPDFをダウンロードしてお読みください。

     ◆再発見の発想法 - Bottleneck(ボトルネック)
     http://www.hyuki.com/mm/pdf/2014-03-18_discover9721.pdf

    IT時代の子育て - 教えるときの心がけ

    結城がタッチタイプを学んだのは小学校4年生か5年生くらいのときでした。 当時オリベッティのタイプライターが父の書斎にあって、ときどき遊んでたんですね。 すると父が「どうせやるならきちんとやりなさい」と言いました。 そこで素直な(?)結城少年は次の日書店に行き、 「はじめてのタイプライター」的な本を購入してレッスンを始めました。 一人で。

    まずは、

     a s d f ; l k j a s d f ; l k j
     a s d f ; l k j a s d f ; l k j

    というホームポジションの練習から始め、一歩一歩進みました。

    子供はとても習得が早いもので、 英文字はすぐに全部タッチタイプ(キーボードを見ないで打つこと)ができるようになりました。 数字は難しかったけれど、BASICのプログラムを入力するようになってから、 数字までタッチタイプできるようになりました。 BASICでは行番号として数字の入力が必要だったからです。

     * * *

    そして現在。 結城は毎日キーボードをタッチタイプして原稿書きのお仕事をしています。 自分の子供にもタッチタイプを教えようと思い、 『打ちモモ』と『特打』というソフトをあてがっておきました。 ソフトで遊んでいるうちに、 二人の息子もいつのまにかタッチタイプできるようになっていました。

    まあ、我が家では、父親(結城)も母親(妻)も 毎日パタパタとキーボードを打っているわけで、 子供たちはいつもその姿を見ています。 そういう状況なら、子供も「人は毎日キーボードを打って生活するものだ」と思いますよね。

    子供のタイピングは、小学校のころはいまひとつ心許なかったのですが、 中学校になって「自分でいろんなものを書く」ようになってから、 急にタイピングのスピードが速くなったように思います。 自発的に学ぶというのはやはり重要なのでしょう。

     * * *

    子供にどのようなIT機器を与えるかについて。 コンピュータやネットをどのように子供に使わせるか、というのは大事なことです。 リビングに共用のマシンを置くのがいい、と聞いたこともありますが、 我が家ではそういうやりかたはしませんでした。 小学校高学年から、子供用のノートパソコンを使わせています。

    セキュリティソフトの「ペアレンタル機能」を使って、

     ・使用時間の制限(夜遅くなったら自動的にログアウト)
     ・WebサイトやSNSの制限(子供に不適切なサイトをブロック)

    を入れています。

    どれだけ制限するかは年齢に応じて変えています。 小学校時代は厳しめで、中学校に入ってから少しずつ緩めに。 本人に「こういうサイトは見に行かないように」という「お話」もしています。

    また、課金サイトの危険性や、レポート書く際のコピペ問題についても、 機会があるごとにケーススタディとして話しています。 ただ、あまりうるさくいうと逆効果になる部分もあるので、 本人の耳に入っていればよし、というくらいの感覚でいます。

     * * *

    ペアレンタル機能をガチガチに設定すれば、 ほんとうに「安全で無害」なサイトだけをアクセスするような設定も可能です。 ちなみに、そういう設定をすると、 結城のサイトもブロックされてしまいます(苦笑)。

    ただし、あまりにもガチガチに設定するのが教育的に有効かというと、 必ずしもそうではないと思います。 小学生くらいなら「親が子供を守るため」といえなくはないですが、 中学生くらいになって、ある程度のリテラシーを身につけたあとは、 見極めが難しくなってきます。

    何が難しいかというと、 子供にある程度の「冒険」をさせて、 「小さな失敗」をさせた方が意義が大きいかもしれないと思うからです。 予防注射で免疫をつけるように、小さな失敗をさせて学ばせることで、 大きな失敗を防ぐ効果がありそうだと思うのです。

    クリティカルな状況に子供が入り込むのはまずいけれど、 ある程度の余裕がある状況なら、あえて失敗して学んでもらうのは重要だと思っています。 現代に生きる親として、結城はそんなふうに考えています。

    実際にどれだけうまく行っているかの効果測定は難しいのですけれど。

     * * *

    子供は、親を出し抜こうとして好き勝手しかねません。 親は、子供のすべての行動を監視下に置きたくなります。 そして技術の力で、かなりの監視が実現できてしまいます。 たとえば「子供がアクセスするすべてのWebサイトを親がチェックする」ということも可能です。

    でも、監視すればいいというものでもありません。 そこには子供の現状をよく見極めた上での判断が必要でしょう。

    子供は、(指示をきくという意味で)親のいうことはきかない。 でも、(耳を傾けているという意味で)親の言うことは聞いている。 そんなふうに思いたい。

    だから、子供には多少クサくても、あるべき姿を語りたい。 子供にやってほしいこと、やってほしくないことを語りたい。 子供への期待を語りたい。

    子供は全部が全部指示をきくわけじゃないけれど、 それなりに言うことは聞いている。

    いまのところは、そんなふうにして子育てが進んでいます。

     * * *

    (以上は、結城のツイートを再編集したものです)

     ◆IT時代の子育て
     http://togetter.com/li/638643

    妻と二人で - 夫婦のコミュニケーション

    先日、妻と二人で出かける用事がありました。

    実際には用事というほど大げさなことはなくてすぐに済み、 昼過ぎからずっと、カフェで二人でおしゃべりをしていました。 冬にしてはあたたかな日差しの午後です。

    結城はフリーで仕事をしていますので、 時間の融通は効く方……のはずなのですが、 実際にはばたばたと〆切に追われて過ごす毎日が多いものです。

    昼過ぎから午後ずっと二人でおしゃべりをするという機会は、 思い返してみてもここしばらくはありませんでした。

    毎日いっしょに過ごしていると、話す内容は「業務連絡」に近くなります。

     「ごはんできた」「いただきます」「ごちそうさま」
     「お皿洗えた?」「新聞」「お風呂」「子供帰ってきた?」……

    そこでやりとりされているのは指示であったり、命令であったり、 状況把握の質問であったり、それに対する返答だったり。 確かにそれらは大事なものですけれど、 もう少し違うモードのやりとりがないと「心の栄養不足」になりそうです。

     * * *

    そのカフェで 結城は、 マガジン航に書いた「私と有料メルマガ」の内容を妻に話しました。 自分は何をどう考えて、何を大切だと思って文章を書いているのか。 妻はそれに対して、普段から感じている印象を結城に返します。

    妻は、普段の食事についてどのように気を遣っているかを話しました。 子供の成長をどう見ているか、三年前、二年前、一年前と現在で、 どんなふうに変化したと思っているかを話します。 結城はそれに対して、父親として思っていたことを妻に返します。

    結城は、先日インタビューを受けた「千葉県高等学校教育研究会数学部会」について、 妻に話しました。教師の仕事の難しさについて話すと、 妻は「先生は生徒が理解しているかどうか、 ダイナミックに見抜かないといけないから大変でしょうね」と感想を言いました。 結城もまったくそれに同意します。

    結城と妻の会話の詳細はさておき、 そのような会話を続けながら、結城が感じたことがあります。 それは、

     「こういう会話をするには《何をするでもない時間》がたっぷり必要だ」

    ということです。

     * * *

    普段家庭の中で家事をしながら、その合間で話すことは非常に難しい。 次にやるべきことや、残り時間を気にしながら話せることには限りがある。 たとえ家族旅行に出かけたとしても、 あちこち見て回ることだけに集中していたら、ゆったり話すことは難しい。

    少なくとも二時間、できれば半日、 《何をするでもない時間》を夫婦二人で過ごすことは大事かもしれない。

    何か目標や、何か伝えたい情報が最初からあって話し出すわけじゃなく、 二人で《何をするでもない時間》を過ごしているうちに、

     ふと、思い出したこと。
     ふと、気付いたこと。

    そういうことをぽつぽつと問わず語りに話すことは大事かもしれない。

    先日、結城と妻が過ごした時間は図らずもそういう時間になりました。 最初から計画したわけではありません。 たまたま二人で、たまたまカフェで一息つく時間があり、 おしゃべりを始めたらそういう時間になったというわけです。

     * * *

    帰り際に妻が、

     「うん、わたし、こういう時間を過ごしたかったんだと思う」

    と一言いって、結城は「我が意を得たり」と思いました。

    2014年度日本数学会賞出版賞

    冒頭でも簡単にご報告しましたが、 このたび「2014年度日本数学会賞出版賞」を受賞しました。 みなさんに深く感謝します。

     ◆2014年度日本数学会賞出版賞 - 日本数学会
     http://mathsoc.jp/publicity/pubprize2014.html

    受賞前後の話と、これに関して思うことを少しお話しします。

    「日本数学会賞出版賞」という賞があることは知っていました。 この賞は日本数学会の顕彰事業の一つです。 「日本数学会出版賞について」という日本数学会の文書から以下引用します。

     ◆日本数学会出版賞について
     http://mathsoc.jp/prize/pubprize/
     ----
     最近子供達の数学離れ, 理科離れ, 書物離れが急速に進行していると報道されております.
     特に, 数学離れに関しては,
     数学が難解であるとの印象を必要以上に与えている現状について考慮する必要があると思われます.

     しかも数学が高度に専門化したため, 数学の果たす重要な役割が一般はもとより,
     理科系の専門家にも理解されているとは言い難い状況があります.

     こうした困難な状況がある一方で, 他方では,
     数学の魅力を巧みに伝える一般向け啓発書が相次いで出版されるという
     誠に喜ばしい状況もあります.
     数学会としては, このような企画を側面から応援したいと考えております.

     また, 数学諸分野の有機的連携を図り, 自然科学, 社会科学との協力関係を促進するためにも,
     数学の魅力や目覚ましい発展の真髄を他分野の専門家のみならず
     一般にも判りやすく伝える数学者の努力も奨励したいと考えております.
     ----

    つまり、数学をやさしくわかりやすく伝える本を応援する、 ということですね。

    実際、過去の「日本数学会賞出版賞」から、個人で受賞なさった著作者さんには、

     ・小川洋子
     ・志賀浩二
     ・安野光雅
     ・野崎昭弘
     ・青木薫
     ・高瀬正仁

    といった方々が並んでおります(敬称略)。 このようにお名前を並べますと、結城がこの賞を受けてよいのかしら、 とかなり緊張してしまいますね。

    結城の受賞理由は以下のように述べられております。

     ◆2014年度日本数学会賞出版賞 - 日本数学会
     http://mathsoc.jp/publicity/pubprize2014.html
     ----
     結城 浩氏

     「数学ガール」シリーズは,フェルマーの定理,ガロア理論,ゲーデルの不完全性定理といった,
     一般の読者にはなじみがないが,数学的には深くおもしろい題材を正面から扱いながら,
     青春小説としても魅力ある話としてまとめられており,多くの読者を獲得している.
     「数学ガール」という言葉は,本書によって社会に広まり,広く市民権を獲得するに至った.
     このことは特筆に値する.
     また結城氏は「数学文章作法基礎編」などの数学に関連した著作活動も活発に行なわれており,
     若い世代へ数学のおもしろさや考え方を広めた功績は大きい.
     これからもますます活発に活動されることを期待している.
     ----

    長々と引用してしまいましたが、 自分の仕事を振り返ったとき「このようでありたい」という方向で 評価していただいたというのはとても感謝なことであると思います。

    TwitterやFacebook、それにメールなどでもたくさんのお祝いメッセージをいただき、 うれしい日々を過ごしております。

    しかし、改めて考えてみますと、 今回の受賞で私自身はもちろんうれしいのですが、 結城のことを応援してくださっている方にも喜んでもらえるということが、 さらにうれしいことです。

    スポーツでも、自分が応援している選手が賞をとるのはとてもうれしいじゃないですか。 あれと同じように、結城の書く本を応援してくださるたくさんの読者さんにも 喜んでもらえたらいいなあと思っています。

     * * *

    ところで余談になりますが、 こういう「賞」をいただくのは結城は初めてのことです。

    最初の連絡があったのは日本数学会からでした。 昨年2013年末のことですから、ずいぶん前になりますね。 ある日、送付物があるので送り先を教えてほしいというメールが来たのです。

     「日本数学会から、送付物?」

    書籍か何かが送られてくるのかと思って待っていますと、 「日本数学会出版賞授賞内定」という通知書がやってきました。

    まず、このような賞を受賞したということにたいへん驚きました。 まったく想像もしていませんでしたから!

    通知書には授賞理由の詳しい説明が書かれ、 「この賞を受けるかどうか」の返事がほしいと書かれていました。

    「なるほど。受賞を断る人もいるのか」と思いつつ、 結城はとりあえず辞書で「授賞」と「受賞」の意味を調べました。 通知書の中に「授賞」と「受賞」の両方が使われていたからです。

    「授賞」は「賞を授ける(さずける)こと」で、 「受賞」は「賞を受ける(うける)こと」だそうです。

    なので、日本数学会側が主語になる文では「賞を授ける」という意味で「授賞」を使い、 結城が主語になる文では「賞を受ける」という意味で「受賞」を使っているのでした。 なるほど!

    いやいや、そんなことより、大事なのは返信です!

    ちょっと夢心地で「受賞します」という返信を返しました。

     * * *

    そのような昨年末から時が流れ、2014年3月12日に日本数学会のWebサイトで結果が公開されました。 結城の他に、雑誌「現代数学」(現代数学社)と金重明著『13歳の娘に語るガロアの数学』(岩波書店)が 同時に受賞したことを知りました。 『13歳の娘に語るガロアの数学』は結城が『数学ガール/ガロア理論』を読んだときに 参考にした本の一つですので、やはりうれしくなりました。

    WebやTwitterでお礼のメッセージをくださった方おひとりびとりに返信しているうちに、 なんだかとても感謝な気持ちがあふれてきて、つい涙ぐんでしまいました。

    何にせよ、今回の受賞を大きな励みとして、 これからも《読者のことを考える》という原則を大事に、 執筆を中心とする活動を続けていきたいと思います。

    今後とも応援いただければ感謝です!

    先生にエールを送りたい! - 教えるときの心がけ

    先日結城は、「千葉県高等学校教育研究会数学部会」さんからインタビューを受けました。

    場所は都内のとあるワークスペース。そこで9名の先生方とお話をするという場です。 インタビューの結果はこの数学部会さんの「部誌」という形にまとめられ、 今年2014年のどこかでネットでも読めるようになるはずです。 読めるようになったらまたアナウンスしたいと思います。

    インタビューは、 結城が数学ガールを書いているときに考えていることや、 学校、教育、試験、教科書について考えていることを中心に進みました。

    せっかくの機会なので、結城の方からも質問しました。 何しろ、目の前に毎日現役高校生に向けて数学の授業をなさっている先生方がいるのですから、 質問しない手はないですよね。

    興味深い話はたくさんあったのですが、 もっとも印象に残ったのは、

     「生徒が、正しくない答えを書きたがらない」

    という先生のお話でした。記憶に頼って書いているので、 多少内容がずれているかもしれませんけれど。

    どういうことかというと、生徒は、 数学の問題を解くときに、いつも自分が現在間違わずに進んでいるかをとても気にする。 生徒が前に出て黒板で解いているときも、 しょっちゅう「先生、これであってる?」と聞きたがる。

    もちろんそれは自然なことなのだけれど、 「まちがってもいいからとにかく書き切る」のに大きな抵抗を感じるらしい。 それからノートを「正しくきれいに」書くことに神経を使い、 「まちがったことを書きたがらない」ようだ。

    ……結城の印象に残ったのはそういう話です。

    いうまでもないですが、 数学では(いや、多くの学びでは)試行錯誤が大事です。 まずやってみて、うまく行かないなと気付いたら別の方法に切り換える。 それは非常に大事なことです。

    でも、そういう試行錯誤が苦手な生徒は多いようなのです。

    なるほど、確かにそういう状況は他の知人からも聞いたことがあるなあ、 と思い出しました。

    「そういう場合、どうしたらいいと思いますか?」とある先生が結城に聞きました。 結城は教師ではないので、先生方へのアドバイスはできないのですが、 ふと心に浮かんだことを率直に話しました。 (これも記憶で書いているので、もしかしたら実際に言ったこととは異なるかもしれません)

    こんな感じです。

    先生の側が「試行錯誤も恐れずにやってほしい」と思うのであれば、 それを生徒にどう伝えるかが大事になりますね。 数学の「知識」を伝えるだけではなく、 数学の「学び方」を伝えることが大事なのでしょうね。

    たとえば、先生方は授業で「まちがう」ことがあるかどうか。 まちがったときに生徒の前でどのようにリカバーしているか。 そのリカバーの様子そのものも重要な授業かもしれません。

    あるいはまた、先生方は、 授業で「試行錯誤」をしてみせることがあるかどうか。 こっちの道を進んでみて、 でも《こんなふうになってしまったから、こっちの道はまずい》 という判断の姿を生徒に見せる。

    限られた授業時間内でそんなことが実際に可能かどうかはわからないけれど、 それは大切なことかも……などと結城は話しました。 いま思えば、プロの教師相手にそんなこというなんて冷汗三斗です!

    でも先生方は結城の言葉を受け止めてくださり、 授業でどんなふうに「まちがってみせるか」や「試行錯誤」を演出するかを 教えてくださいました。 結城はとても勉強になりました。 教えるプロはさすがです。

    インタビューに予定された時間びっしり、 結城は先生方との対話を楽しませていただきました。

    ありがとうございます。

     * * *

    結城は機会あるごとに言うのですが、 結城は、現代日本で数学を教えておられる先生方に心からのエールを送りたいと思っています。 教えるというのは、とても大切な、とても意義の深い仕事です。

    高校生にとって「いい先生との出会い」は一生の宝物です。 いい先生と出会えた人は、学びに対して前向きで、 自信を持ち、新しい学びに果敢に向かうことができます。

    結城は教育政策については何も知りませんが、 素人ながらに思うのは、教師にもっと多くの給料を払うべきではないかなということ。 また、教師にもっと敬意が払われるようにすべきではないかということ。 「教師を目指す」ことが多くの若者の注目を集め、 優秀な人材が教師になることをあこがれるようにする。 それは重要だと思います。 優秀な人が自分の進路の第一候補として教師を選ぶ社会は素晴らしいと思う。

    人は、自分一人で成し遂げられる仕事には限りがあります。 自分一人で仕事を成すのではなく、 未来を作る数百人、数千人を育てる仕事を成す。それは素晴らしいことです。 もちろん、誰もが「教師の賜物」を持っているわけではないから、 それは理想論なのかもしれませんけれど。

    そんなことを思いつつも、 結城は現役の教師に心からエールを送りたい。 何しろ、来る日も来る日もリアルな生徒を前に対峙して授業をしなければならない。 自分の身体をはって「教える」仕事をしている。

    教師は、うまくいって「当たり前」と言われる。 非常にうまくいったら「生徒が優秀だから」と言われる。 失敗したら「教師がだめだから」と言われる。

    そんな中で奮闘している先生方に、結城はエールを送りたい。

    現在の結城を作ったのも、 これまで私を育ててくださった、たくさんの先生方でした。

    先生、ありがとうございました。

    結城は毎日、がんばって本を書いています。

    少しでも、若い世代のお役に立ちたくて。

    少しでも、恩返しがしたくて。

    先生、ありがとうございます!

     * * *

    (この文章は、結城の以下のツイートを再編集したものです)

     ◆結城浩は学校の先生に心からエールを送りたい!
     http://togetter.com/li/640752

    次回予告

    さて、今回の結城メルマガは以上です。 いかがでしたか?

    ご感想・ご意見お待ちしています。ツイートもよろしくです!

    来週は、

     フロー・ライティング

    をお届けする予定です。

    どうぞお楽しみに!

    それから「結城メルマガ」をお知り合いにご紹介くださる場合には、 このメールを「まるごと転送」してくださってもかまいません。 「結城メルマガ」を気に入ってくださりそうな方へ、 ぜひご紹介くださいね。よろしくお願いいたします。

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