はだしのゲン:舞台の広島から「なぜゲン遠ざけるの」

毎日新聞 2014年03月20日 15時08分(最終更新 03月20日 17時37分)

 「はだしのゲン」を小中学校の図書室から撤去させていた大阪府泉佐野市。「差別的表現が多い」という判断だが、物語の舞台の被爆地・広島の人たちは、ゲンを遠ざけようとする動きを懸念し、識者は「人権教育の観点からもおかしい」と批判した。

 「当時のありのままを表現したものなので『なぜ』という気持ちだ。昨年も(松江市で)暴力的表現を問題にされたばかりなので残念でならない」

 ゲンの作者、故中沢啓治さんの妻ミサヨさん(71)は、松江市教委が市立小中学校図書室でゲンの閲覧を制限していた問題にも触れ、悔しさをにじませた。その上で「差別的表現が問題ではなく、『ゲン』が狙い撃ちされているのではないか。今回もいかにして読ませないようにするかを考えた結果だと思う」と話した。

 また、広島県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長は「『はだしのゲン』は、原爆の悲惨さと共に、そこに至った戦争責任を描いている。松江市の閉架措置のときは残虐だ、今回は差別的だというのを理由にしているが、実際は戦争責任の部分が気に入らないのではないか。戦争の実態と向き合うことを嫌う流れが強まっているように感じる」と懸念を示した。

 ゲンの閲覧制限が問題となった松江市。ある市立小学校の校長は「学校図書館で教育的配慮は当然必要だが、一つの絵や表現をもって『良くない本』と判断していいのか。特定の本を置くか、置かないかは学校が判断することで、市が一斉に決めていいのか」と泉佐野市教委の判断を疑問視した。

 泉佐野市で2人の子どもを小学校に通わせる団体職員の男性(45)は「わざわざ、回収までさせるような話なのか疑問。そもそも図書室にはたくさんの本があり、その中に同様のケースが見つかった場合はどうするつもりなのか。今回の市長や教育長の対応は思いつきのような軽率な行動だ」と話す。

 一方、日本図書館協会「図書館の自由委員会」の西河内靖泰委員長は「ゲンは反差別の図書」とする。「差別を批判しようとすれば、批判の対象として差別的な表現が使われるのは当然。大阪は人権教育に力を入れているが、泉佐野市は人権教育を理解していないのではないか。『教育的配慮』と言って一方的に排除する論理は間違っている」と批判した。【中里顕、高橋咲子、曽根田和久、杉本修作】

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