一衣帯水の日本と韓国の首脳のことばが響き合うのは、実に久しぶりのことだった。

 「安倍内閣で河野談話を見直すことは考えていない」

 「幸いなことだと思う」

 先週の参院予算委で、安倍首相が慰安婦問題をめぐる河野談話の見直しを明確に否定し、朴槿恵(パククネ)大統領がこれを評価した。

 そして来週、オランダのハーグで開かれる核保安サミットで、日米韓の首脳会談が開かれる方向となった。

 安倍首相と朴大統領が話し合いのテーブルにつくのは初めてである。日韓関係の修復になんとしてもつなげるべきだ。

 首相は予算委で、「戦後50周年には村山談話、60周年には小泉談話が出された。安倍内閣としては、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」とも語った。

 ふたつの談話は「植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」との立場を明確にし、近隣諸国との新たな関係づくりに向けた日本の決意を示した。

 河野談話とともに、日本の対アジア外交の基盤となってきたものであり、見直すべきでないのは当然だ。

 歴史問題がくすぶるなか、おととしの李明博(イミョンバク)前大統領の竹島上陸でつまずいた日韓関係は、両国の政権が代わっていっそうこじれてしまった。

 安倍首相らの歴史認識をめぐる発言や靖国神社参拝。かたやオバマ米大統領らに日本の非を訴えるばかりで、対話に応じようとしない朴大統領の姿勢。

 東アジアの安定には日韓関係の改善が欠かせないと考える米国は、バイデン副大統領らが直接、間接に仲介を試みてきた。両首脳の発言の陰にはこうした米国の意向もちらつく。

 首相の答弁には、ネット上などで批判があがっている。河野談話の見直しや撤回を求める声が国会の内外にあることを考えれば、予想された反応だ。

 その意味で、安倍首相はそれなりのリスクをとった。同じことは朴大統領にも言える。

 互いの国民の一部が反目し、非難の応酬に熱くなっている。そんな時こそ、より冷静になれる指導者であってほしい。

 首相も大統領も、そのことばが本心から出たものなのかはわからない。一度会って関係が好転するというほど、ことは単純ではないだろう。

 それでも、機を逃さずに日韓関係を前へ進めることが、両首脳の外交上の責務だ。米国に義理立てした、一度限りの会談にしてはならない。