防災アンケート:都道府県・政令市、脱「想定外」へ模索続く
2014年03月20日
東日本大震災から3年に合わせ、毎日新聞が2~3月に全国47都道府県と20政令市を対象に実施したアンケート(大阪市を除く66自治体が回答)では、多くの自治体が各地域で発生が懸念される地震の想定見直しを行うなど、急ピッチで対策に取り組んでいる状況が浮かんだ。一方で、ハード対策には財政負担などの課題を指摘する自治体も多い。住民の命を守るため、大災害での「想定外」を無くすための模索が続いている。【酒井祥宏、夫彰子、渡辺諒】
東日本大震災以降、防災対策の基準として想定される地震の規模や被害について、自治体独自で新規策定・見直しを行ったのは16都県と4市だった。これと別に、駿河湾から九州沖に延びる南海トラフ沿いを震源とする南海トラフ巨大地震について国が大震災後に公表した新たな想定などに基づく見直しも、12府県と4市が実施。合わせると、設問に回答した全66自治体の過半数に上った。
さらに現在、内容・期日を含め見直しを具体的に検討しているのは11道府県と5市、単に予定しているところも含めると16道府県と7市となった。見直しを検討していないのは3県と4市。
見直しを行った自治体の中には、複数ケースで推計したところもあった。独自ケースで最も多い想定死者は、日本海3海域の連動地震を想定した秋田県の1万2606人だった。
大震災後、国は災害対策基本法を2度にわたって改正。大規模災害時の国と都道府県の権限強化や、障害者ら災害時要援護者への対応改善など、大震災で浮上した課題に取り組む。一方で、各自治体でも地域防災計画の見直しが進む。見直し状況を聞いた設問に、全66自治体が震災後に防災計画の見直しに取りかかっていると回答。既に見直したのは43都道府県と19市、見直しを具体的に検討中なのは4県だった。
見直しの主なポイント(複数回答)として、「原子力災害対策の新規策定や充実」を挙げたのは51・5%。「津波対策の見直しや充実」(48・4%)、「大規模、広域災害への即応力の強化や体制強化」(16・6%)と続いた。
地域により見直しに特色もある。首都圏の埼玉、千葉両県や千葉、横浜、相模原各市、さらに京都府や広島市は帰宅困難者対策を挙げた。京都府は世界各地から訪れる観光客対策や文化財対策も盛り込んだ。同府や千葉、福岡両県、福岡市は液状化対策にも言及した。
宮城県は防災マップの作製を市町村の努力義務とし、佐賀県は情報伝達手段として緊急速報メールサービスを活用するなど、独自の取り組みも進む。
災害時に速やかに行政機能を回復するための「事業継続計画」(BCP)に関する設問には全66自治体が回答し、このうち大震災前から策定していたのはわずか14都府県と2市だった。しかし大震災後に、19道県と7市がBCPを新規策定。さらに13県と7市は具体的に策定を検討しており、1県と3市が策定を予定している段階だ。
◇自治体間支援、策定4割
大震災後、大規模災害の被災自治体に対する国からの「垂直的支援」だけでなく、自治体同士の「水平的支援」が注目されている。国の中央防災会議の防災対策推進検討会議も2012年7月、「応援先・受援先の決定、相互応援に関する災害協定の締結など、具体的な方策を各地方公共団体において構築すべきだ」と提言した。アンケートでは、災害時の他自治体との相互支援体制について、現状を尋ねた。
他自治体への支援計画を大震災以前に定めていたのは10都県と8市で、以降に策定した6府県2市と合わせ全体の4割近くに上った。また、5割近い23道県と7市も現在、計画を具体的に検討または予定しており、大震災の影響がうかがえた。
また、被災した際に他自治体からの支援を受け入れる計画については、8県と5市が大震災以前から、7府県と3市が以降に計画を策定。6割近い26都道県と11市が具体的に検討または予定の段階にある。
一方、実効性のある自治体間支援を進めるには、「各自治体に人的余裕がない」(静岡県)▽「災害時も利用可能な高規格幹線道路の整備が必要」(和歌山県)など、ソフト、ハード両面で課題も。佐賀県や川崎市など多くの自治体は「国、都道府県、市町村など関係機関の調整、役割分担が不明確」な現状を指摘し、災害時に各機関が迅速に情報を共有し、支援が重複することを避ける必要性を訴えた。
また、北海道や鳥取、沖縄両県は他自治体との地理的距離など地域特性への考慮を求め、阪神大震災を経験した神戸市は、「受援業務の優先順位付け」ができるかどうかという被災自治体側の態勢の課題も挙げた。
◇津波対策、負担大68%
大震災では、地震による揺れに加え、沿岸地域を襲った大津波により甚大な被害が相次いだ。これを受け、国は12~13年度にかけて、南海トラフ巨大地震のほか、相模湾から千葉県沖に延びる相模トラフ沿いで発生する海溝型地震(関東大震災タイプ)の規模や被害想定を見直し、想定される津波高を公表した。対策として考えられる高台移転や防潮堤建築の計画状況、さらに課題について尋ねた。
高台移転に関しては9県と12市が回答した。「公共施設や医療機関、住宅の移転を具体的に検討中」なのは静岡、徳島など4県と仙台市。このほか、「移転の代替策として、避難所などの整備を検討中」は浜松市と広島市▽「5年以内に結論を出す」は沖縄県と熊本市▽「予定なし」が三重県など4県と名古屋市や福岡市など8市だった。38都道府県と7市はその他か無回答だった。
防潮堤では、27道府県と10市が回答した。高さを上方修正したか、予定しているのは青森、茨城、広島、大分各県など21道府県と川崎市や神戸市など7市に上り、回答したうちの4分の3を占めた。その他及び無回答は20都府県と9市だった。
対策を進める上での課題については、28都道府県と13市が回答。計41自治体でみると、「財政負担が大きい」68.3%▽「住民の合意形成が困難」51.2%といずれも半数を超えた。そのほかに、「長期間かかる」(和歌山県)などの意見もあった。
日本海側の各自治体では、国が進めている津波浸水想定設定の基になる「日本海における大規模地震に関する調査検討会」の報告書を待っているとの回答が目立った。
◇ヨウ素剤、備蓄39%
東京電力福島第1原発事故を契機に、全国で原子力災害に対する関心は高まっている。13年6月に原子力規制委員会が改定した「原子力災害対策指針」では、甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤について、原発の5キロ圏内に住む住民に事前配布するよう定めた。また、5~30キロ圏内でも備蓄を求めている。
アンケートでは、全ての自治体に対し、大震災後の安定ヨウ素剤の備蓄状況を尋ねた。最も多かったのは、指針などに基づき「備蓄している」で、39.4%を占めた。一方、「原発から十分離れており備蓄は不要」としたのは36.4%だった。「備蓄計画を進めている」は4.5%▽「備蓄したいが課題があり、具体的に検討せず」は3%だった。
このほかに、「(使いながら補充していく)流通備蓄で対応を検討」(埼玉県)、「国の交付金で備蓄を今後検討」(山口県)などとする回答もあり、その他及び無回答は16.7%だった。
アンケートでは原発からの距離も聞いており、距離ごとの備蓄状況をみると、原発の5キロ圏内はもちろん30キロ圏内の地域を抱える全自治体が、備蓄計画を進めているか、既に備蓄していると回答した。30キロ圏外にある自治体でも、一部が備蓄をしているという。安定ヨウ素剤の事前配布に関する考え方も聞いたところ、27道府県と13市が回答。「服用基準や副作用、配布方法などの課題を十分検討したうえで、事前配布の是非を判断すべきだ」としたのが、22道府県と12市で8割以上を占めた。
また、大分県と福岡市は「事前配布は課題が多く、他の方法が必要だ」と回答した。