魁を強烈なのど輪で攻める逸ノ城(右)=ボディメーカーコロシアムで(畦地巧輝撮影)
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◇春場所<11日目>
モンゴル出身で幕下の逸ノ城(いちのじょう、20)=湊=が5勝目を挙げ、史上初の遊牧民出身関取へ快進撃を続けている。幕内でも遠藤(23)=追手風=が連敗ストップの5勝目。両横綱は難敵を退け、11戦全勝。白鵬は関脇豪栄道を押し出し、日馬富士は大関稀勢の里をはたき込んだ。豪栄道、稀勢の里は3敗目を喫し、優勝争いから大きく後退した。綱とりの大関鶴竜は関脇栃煌山をはたき込み、10勝目を挙げた。両横綱を1敗の鶴竜が追い、2敗はいなくなった。十両は11連勝の豊真将が単独トップ。
注目のザンバラ力士は遠藤だけじゃない。西幕下3枚目の逸ノ城が元十両の魁を押し出して5勝目。初土俵から所要2場所での新十両昇進へ大きく前進した。
遊牧民の両親から生まれた5000グラムの大きな赤ちゃんは190センチ、183キロまで成長。その巨体に大粒の汗を浮かべながら、「自分は右四つだけど、相手の左四つになった。我慢するしかないと思った」と、モンゴルの怪人は流ちょうな日本語で振り返った。
遠く離れたモンゴルの大草原では両親がヒツジ、ヤギ、牛、馬を合わせて460頭の家畜を育てている。その両親に連絡するのは「(場所が)終わってから」。ゲル(移動式住居)にはソーラーパネルもあり、携帯電話のアンテナも備えている。国内電話の料金になるアプリもあるが、電話するなら昇進の一報だと決めている。
「父の祖先にモンゴル相撲の大横綱がいる」という血筋の持ち主。母・ボロルトヤさんの弟はモンゴル相撲の小結。鳥取城北高が留学生を選ぶ相撲大会をモンゴルで開催し、精鋭50人の中から見事1位となって日本行きを勝ち取った。
来日する17歳まで両親とともに遊牧民の生活を送っていた。「大きな木を父さんと山に取りにいく。それを切ってトラックに乗せる。大変な仕事だった」。ヒツジを放牧させて迷子になったこともある。「そんな時は高い山に登るんです。そうすれば分かる」。何もかもスケールが大きい。
取組後は花道に置いていたメガネをかけた。13歳の時、視力が悪いことに気づいたという。日本なら黒板の文字が見えなくなって…、というところだが「父さんからあそこのヒツジを見てくれと言われたんですけど、どこにいるの?って。まわりの人からも、あそこにいるじゃないかって言われて…。それでメガネを作りました」。そう言って目を細めたが、新十両への視界は良好だ。
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