「BAD」はマイケル・ジャクソンのヒット曲で、曲に合わせてマイケルが踊るダンスも有名だが、それらは、同名のPVのストーリーの一部であり、起承転結で言えば「転」に当たる。
PV全体を見ると、この曲に込められた深い意味と決意が分かってくる。
BAD – A Michael Jackson Short Film −
登場人物
ダリル: ダクストン高校の生徒
マックス: ダリルの幼馴染の仲間
ディド*: ダリルの幼馴染の仲間
グリズ*: ダリルの幼馴染の仲間
*注: これらの幼馴染の名前は、本心象のための仮名であり、正式な名前ではない。
モノクロームの映像。
伝統ある名門校と思しき校舎。
「ダクストン高校」と書かれている。
***
建物の内部
***
決意を秘めて、顔を上げるダリル(マイケル・ジャクソン)
***
学期が終了し、帰省する生徒たちが、歓声を上げながら
階段を一斉に駆け下りてくる。
ダリルの顔も見える。
一人の生徒が、ダリルを呼び止める。
生徒 「ダリル!」
立ち止まるダリル。
生徒 「帰省する前に言いたかったんだよ、
君の今学期の成績、本当にすごかったね!
僕はその、何て言うか...
君のこと、立派だなって思ってるんだ。
ほんとに一生懸命勉強してたもんな」
ダリル「(にっこりして)ありがとう。うれしいよ」
生徒 「じゃ、ハイタッチだ!」
2人、ハイタッチを交わす。
生徒 「気をつけて帰れよ」
ダリル「うん、じゃあ」
***
生徒たちが校門から続々と出て行く。
***
列車の中。車内いっぱいに生徒たちの歓声が響いている。
車窓から外の景色を眺めるダリル。横を向き、
隣の友人と微笑みながら何か言葉を交わす。
後ろの席の生徒が、ふざけてダリルの首元から何かを突っ込む。
ダリル「(笑いながら)止めろ、止めろよ!」
和気藹々とした雰囲気。
***
時間が経ち、生徒たちがあらかた下車した車内。
大騒ぎした後のゴミが散乱している。
まだ同じ位置に座っているダリル。
隣の学生の姿は、もう無い。
通路を隔てて座っているスーツ姿の男が、
ダリルを意味ありげにチラチラと見ている。
汽車のアナウンス
「間もなく、セントラル・タウン駅、セントラル・タウン駅、終点です。
お手回り品のお忘れ物のないように、お気をつけてお降りください...」
男の視線に気づくダリル。素知らぬふりをし、下車する。
***
地下鉄の車内。不機嫌そうな老人達が並んで座っている。
その横に、電車の中でダリルに視線を送っていた男、
次いでダリル。
男、ちらちらとダリルの方を見、おもむろに話しかける。
男 「君のこと『立派だ』って思ってる奴、何人いる?」
ダリル「(ちょっと考えて)―――3人」
男 「ほーお。オレのこと『立派だ』って参ってる奴は4人いるぜ」
男、指で「4人」と示して見せる。苦笑するダリル。
男 「(立ち上がりながら)ま、がんばれよ」
ダリル「(微笑み)あなたも」
男、ダリルと握手して地下鉄を降りる。
直後、握手した手の手袋を口で咥えて外すダリル。
***
落書きだらけでガラスがあちこちで割れている、
見るからに雰囲気の悪い通り。
通りにたむろする男たち。
「ようよう、そこのあんちゃんよう!」
ダリルは取り合わずに歩いていく。
また声がひびく。
「おい、そこのバカヤロ!」
ダリル、にっこりして声のする方へ歩いていく。
建物の前にたむろする3人の男たち。マックス、ディド、グリズ。
マックス、飛び出してダリルを抱きしめ、尻をポンとたたく。
マックス「(笑いながら)
バカヤロめ、帰ってきやがったか!
そろそろ帰ってくるころだと思ってたぜ、
調子はどうなんだよ!」
3人、ダリルを取り囲む。
仲間と再開を喜び合い、ハイタッチを交わすダリル。
階段を上がりかけたダリルにマックスが声をかける
マックス「後でまた降りてくるだろ? 」
ダリル 「うん、降りてくよ」
マックス「明日は学校はねえんだろ?」
ダリル「家に戻ったんだ、学校はないよ!」
マックス「おっしゃあ、そう来なくっちゃあ!」
歓声を上げて喜ぶ仲間たち。
***
家に入るダリル。誰もいない。
こざっぱりと整理され、写真が壁に貼られた部屋。
タイプライターの上に母からの伝言が置かれている。
母「ダリル、お帰りなさい。仕事に出かけてます。
冷蔵庫にサンドイッチがあるわ。7時に帰ります。母」
伝言を読み、母の愛情をかみしめるダリル。
***
崩れかけた家屋が立ち並ぶ通り。その中の一軒。
ダリルと仲間たちが階段の踊り場にたむろしている。
マックス、ドライバーで壁を削っている。
頭の回転が速い彼は、他の幼馴染よりは知識もあり、
リーダー格である。
マックス「おい、大学生よう、お前は何学部(メジャー)なの?」
ダリル 「通ってるのは高校だから、学部は無いんだ」
マックス「あっそ。じゃ何学科(マイナー)なんだよ?」
学部が無いなら当然学科も無いことが分からない仲間に
何と言っていいか分からず、口ごもるダリル。
ディドとグリズ、「『メジャー』が無いなら『マイナー』は何だ」と
マックスが聞いたことを面白がってけたたましく笑い出す。
ダリル 「(一緒に笑ってみせながら)お前ら、変だよ! まったく!!」
マックス「(ニヤリとして)ま、いっぱしの『男子大学生』ってわけだ」
グリズ 「ダンシ! ダンシ、ダンシ、ダンシ!!」
ディド 「ダンシ〜!!」
2人がはやしたてる。
***
グリズ「こいつ、いつもピーピーだろ。
だから、これ(ディドが持っている眼鏡を指し)、
かっぱらっちゃったんだぜ」
ディド「だって買う金がねえんだもん。
でも眼鏡は外しちゃうんだ〜。
だってパパラッチが俺っちを撮りに来たとき、
フラッシュが反射して写真が光っちゃったらヤだもんね〜」
マックス「(冷やかして)んなわけねえだろがよ! うそつきが!」
ディド 「(おどけて)うそじゃないも〜ん」
ダリル、努めて平静な表情で一緒に笑う。
グリズ「(ダリルに)
よ、よ、おめえの行ってるガッコのおぼっちゃんたちは、
みんな、ブランドもんのサングラスかけてんのか?」
ダリル「(笑いながら)かけてないよ」
グリズ「じゃさ、亀の甲羅でできたお高い『ベッコ』のフレームの
眼鏡をかけてんの?」
ダリル「(ちょっと真顔になって、仲間の言い間違いを訂正する)
・・・それって『べっ甲』だよ」
一瞬、気まずい空気が流れる。
グリズ「そうかい、そりゃ失礼いたしやした」
一気に座がしらけ、皆黙り込む。
マックス「(その場の空気を振り払うように)
おい、ちょっと外をぶらつきに行かねえか」
***
怪しげな、夜の裏通り。
コートを着て、杖をついた中年の売人が立っている。
売人、ぺっとつばを吐く。
ジャンパーの襟を立てた若い男が素早く近づく。
売人 「何が欲しいんだ」
男 「『two』はあるかい」
売人 「ある。カネは」
男 「あるよ」
売人 「よし」
売人が金と引換えに何か渡す。
男はそれを受け取って素早く去る。
売人、その場から足をひきずり立ち去りかけるが、
ふと視線を感じて横を向く。
ダリルと3人の仲間が
通りの向かい側から売人を見ている。
売人、ゆっくりダリルたちに近づく。
売人 「誰か探してんのか」
売人、4人から目を離さず、腰のポケットにゆっくり手をやる。
ダリルたちと視線がぶつかり合う。
グリズ「おい、行こうか」
ディド「おぅ、行こ行こ」
通りを足早に去っていく4人。その後姿をじっと見ている売人。
***
再び室内。
ダリルとマックス、並んでいる。
マックス、ダリルの方を見ずに言う。
マックス「カツアゲに行こうや」
マックス、ダリルの方を向き、試すように見つめる。
マックス「カツアゲ行くだろ。せっかく帰ってきたんだから。
そこら中にカモがウヨウヨ、お待ちかねだ」
ダリル、驚いて顔をしかめる。
ダリル 「何だって? 本気か?」
マックス、やっぱりな、というように薄く笑う。
マックス「(馬鹿にしたように)
おめえは仲間のとこに帰ってきたんじゃねえのかよ、ああ?
『ベッコ』の眼鏡かけたお高い連中とテニスして
すっかりおかしくなっちまったのかい」
ダリル 「(憮然として)おい、言い過ぎだろ。取り消せよ」
グリズ、突然ダリルの両肩を掴む。
グリズ 「よう、おめえ、どうしちまったんだよう」
ダリル 「離せよ、やめろ!」
ダリル、グリズを振り払う。
マックス、ますます激しい口調で詰め寄る。
マックス「おまえ、ワルじゃねえのかよ、ああ?
それともおめえのお坊っちゃん学校じゃ、
『昔の友達のことなんか忘れちまえ』って教えてるのかよ?
おめえの学校で何と教えていようとこっちは構わねえが、
言っとくことがある。
覚悟を決めて俺らと付き合う気があるのかないのか、
どっちだ!
おめえがワルじゃねえなら何なんだ、聞きてえよ!」
ダリル 「(なおも言い募るマックスを遮り)
ほっとけ、ほっといてくれ!
もう言い合いはたくさんだ!! 止めてくれ!」
マックス、ダリルの胸倉を掴む。
マックス「おめえはワルじゃねえのか、どうなんだ!」
ダリル 「ほっといてくれ! 止めろ!」
2人、激しく揉み合う。
ダリル、マックスを振り払う。
ダリル「どけ、邪魔だ!」
ダリル、部屋を出て行きかけるが、ふと立ち止まる。
ダリル「(振り返ってマックスたちを見ながら)
お前ら、誰がほんとのワルか知りたいか」
ダリル、手袋と上着を脱ぎ捨てる。
ダリル「誰がほんとのワルか知りたいか。
なら来い、来いよ!
誰がほんとのワルか、見せてやろうじゃないか。
ほら、来いよ! ついて来い!!」
ダリルの気迫に押され、後に続く仲間たち。
***
人気の無い、地下鉄駅の構内。
ダリル、柱の影に隠れている。
奥に老人の陰が映る。それを確認し、また柱の影に隠れるダリル。
フードを被り直し、柱の影から出て老人に近づいていく。
マックスたちは別の柱の影に潜んでいる。
ダリルが歩き出したのを見て、
老人を挟み撃ちする形で後ろから近づく。
足をひきずるように歩いてくる老人の前に
立ちはだかるダリル。
ダリル「(静かに)25セントくれ」
老人 「(うろたえて)わしゃ、持ち合わせが...」
ばらばらと老人の背後に散らばるマックスたち。
ダリル、突然老人を脇に押しのける。
ダリル「(老人に)逃げるんだ。さあ、早く!」
老人、ダリルの声に押されるようにひょこひょこと逃げ出す。
憤って詰め寄る仲間たち。
マックス「おめえはもう、仲間じゃねえ!
俺たちと付き合う覚悟がねえ、ワルじゃねえよ!」
ダリル 「(激しく)お前たちこそ、ワルじゃない!
お前たちなんか何もできやしない
何もできやしないんだ!!」
その瞬間、風景がカラーに変わる。
両側の柱の影から、何人もの人影がひらりひらりと飛び出してくる。
ダリルの装いが戦闘服に変わっている。
ひざまずく男たちの中に立つダリル。
柱の影から、さらに何人もの屈強な男たちがゆっくりと現れる。
見る間に数十名のグループとなり、ダリルを中心に、
みんな立ち上がって3人の仲間たちを見据える。
圧倒されてダリルを見つめる仲間たち。
突然、壁のパイプから蒸気が噴出する。
マックスたち、驚いてそちらを見る。
ダリルとダンサーたちも一瞬それを見る。
マックスたち、視線をこわごわダリルたちに戻す。
ダリルとダンサーたち、再び3人を見据えている。
マックス「(せいいっぱいの強がりを見せ)−それで、どうしようってんだよ!」
ダリル、周りのダンサーたちに、首をひねって合図する。
ダンサーたちがひとり、ふたりと宙を舞い、群舞が始まる。
BAD by Michael Jackson
お前たちの手の内はお見通しだ
何が正しいかきっちり見せてやる
明るい日の光の中で
ちゃんと顔を見せてみろ
この俺がどう思ってるかを
はっきり言ってやる
耳に痛いかもしれないが
取って食おうってわけじゃない
恐がらなくていいから
俺の言うことをよく聞け
みっつ数えて待ってやる
お前たちの本当の姿を晒すのは
それからだ
言っておくが
口の聞き方には気をつけろ
お前たちのやり方
やりそうなことはお見通しだ
よく言うだろう
努力すれば何でも叶うと
本当にその通りだと俺は思う
だけど、俺の仲間であるお前たちは
何も分かろうとしないんだ
それなら黙って
俺が夢を叶えるのを見ていてくれ
だって、本当のワル、
本当に凄いのは、この俺なんだ
分かるだろう
お前たちにも分かってるはずだ
本当に凄いのはこの俺だと
この世界のどこから見たって
答えは出てる
お前たちにもう一度教えておこう
本当に凄いのは、誰なのかを
はっきり言ってやる
お前たちのやってることは間違ってる
手遅れになる前に
改めろ
お前たちの目を見れば
本当は自信が無いのが良くわかる
だから良く聞け
争いは止めろ
お前たちの言葉は薄っぺらい
一人前の男じゃないぞ
周囲に当り散らすことで
自分をごまかそうとしてるだけだ
でも、努力すれば
何だって叶うって言うじゃないか
本当にその通りだと俺は思う
なのに、俺の仲間であるお前たちは
何も分かろうとしないんだ
それなら黙って
俺が夢を叶えるのを見ていてくれ
だって本当のワル、
本当に凄いのは、この俺なんだ
分かるだろう
お前たちにも分かっているはずだ
本当に凄いのはこの俺だと
この世界のどこから見ても
答えは出てる
お前たちにもう一度教えておこう
本当に、本当に凄いのは、誰なのかを
俺たちは世界を変える事ができるんだ
明日にでも
世界をもっといい場所にできるんだ
俺の言うことが気に入らないなら
来い、俺にかかって来いよ
だって本当のワル、
本当に凄いのはこの、俺なんだ
分かるだろう
お前たちにも分かっているはずだ
本当に凄いのはこの俺だと
この世界のどこから見ても
答えは出ている
お前たちにもう一度教えておこう
本当に、本当に凄いのは、誰なのかを
地下鉄の構内いっぱいに広がり踊るダンサーたちの群。
その中心にあって、圧倒的な存在感と力強さを見せて踊るダリル。
ダリル、ダンサーたちを率いて3人の前に歩いていく。
3人と対峙するダリルとダンサーたち。
ダリルがアカペラで歌い、ダンサーたちが唱和する。
−お前たちは間違っている−
−本当に凄いのはどっちだ−
−さあ、答えてみろ−
−お前たちには分かっているはずだ−
さあ、どうた、というように3人の前に手をかざすダリル。
マックス、勢い良くその手を掴む。
ダリルとマックス、しばらくにらみ合う。
ややあって、スナイプスが視線を下に落とし、手を離す。
マックス「(低く)これが、お前の覚悟の決め方ってわけなんだな」
マックス、片手を再びダリルの前に差し出す。
ダリル、にっこり笑ってその手を固く握り、
マックスを見つめる。
マックス、ダリルの手を握り返し、
小さくうなずいて手を離す。
そのまま、きびすを返して去っていく。
ディドとグリズも後を追う。
立ち去る3人を見守るダリルとダンサーたち。
構内をカメラがパンし
それと共に再びモノクロームの映像に戻る。
ダリルが元の服装に戻り、
がらんとした構内に一人立っている。
コートのフードを下ろし、
決意を秘めた静かな表情で前を見つめる。
(終)
2010年09月16日
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