理研が落ちた「わな」:再生医療の覇権争い iPS先行で

毎日新聞 2014年03月19日 16時16分(最終更新 03月19日 16時19分)

STAP細胞の論文発表の記者会見でスクリーンを指さす小保方さん=神戸市中央区で1月28日、川平愛撮影
STAP細胞の論文発表の記者会見でスクリーンを指さす小保方さん=神戸市中央区で1月28日、川平愛撮影
神戸市中央区の理研の拠点には小保方晴子・研究ユニットリーダーらが所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB)がある=本社ヘリから山田尚弘撮影
神戸市中央区の理研の拠点には小保方晴子・研究ユニットリーダーらが所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB)がある=本社ヘリから山田尚弘撮影

 「科学者の楽園」と呼ばれる理化学研究所(理研)は税金で運営される独立行政法人だ。新たな万能細胞「STAP細胞(刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞)」の研究不正疑惑が理研を激しく揺さぶっている。カネの使われ方から問題の背景を読み解く。【浦松丈二】

 寺田寅彦、湯川秀樹、朝永振一郎……。日本を代表する科学者が在籍した理研は日本唯一の自然科学の総合研究所だ。全国に8主要拠点を持ち職員約3400人。2013年度の当初予算844億円は人口20万人程度の都市の財政規模に匹敵、その90%以上が税金で賄われている。

 予算の3分の2を占めるのが、理研の裁量で比較的自由に使える「運営費交付金」。STAP細胞の研究拠点である神戸市の理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)には年間30億円が配分される。研究不正の疑いがもたれている小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダーは5年契約で、給与とは別に総額1億円の研究予算が与えられている。

 英科学誌「ネイチャー」に掲載されたSTAP細胞論文の共著者、笹井芳樹CDB副センター長は、疑惑が大きく報じられる前の毎日新聞のインタビューで「日本の独自性を示すには、才能を見抜く目利きと、若手が勝負できる自由度の高い研究環境が必要」と語り、この10年で半減されたものの運営費交付金がSTAP細胞研究に「役立った」としている。理研関係者によると、小保方さんに「自由度の高い」研究室を持たせ、大がかりな成果発表を主導したのは笹井さんだった。

 「万能細胞を使った再生医療分野には巨額の政府予算が投下されている。そのカネを牛耳る“再生医療ムラ”内には激しい予算獲得競争、覇権争いがある」と指摘するのは近畿大学講師の榎木英介医師だ。学閥など医療界の裏を暴いた「医者ムラの真実」の著書がある。失われた人間の器官や組織を再生することでドナー不足や合併症などの解消が期待される再生医療分野に対し、政府は13年度から10年間で1100億円を支援することを決めている。

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