理研が落ちた「わな」:再生医療の覇権争い iPS先行で
毎日新聞 2014年03月19日 16時16分(最終更新 03月19日 16時19分)
榎木さんは言う。「現在、政府予算の大半がiPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究に回されています。顕微鏡1台が数百万円、マウス1匹でも数千円から特殊なものでは万単位になる。予算が獲得できなければ研究でも後れを取ってしまう。追いかける側の理研の発表では、山中伸弥京都大教授が生み出したiPS細胞に対するSTAP細胞の優位性が強調され、ピンク色に壁を塗った小保方さんのユニークな研究室内をメディアに公開するなど、主導権を取り戻そうとする理研の並々ならぬ意欲を感じた」
笹井さんはマウスのES細胞(胚性幹細胞)から網膜全体を作ることに成功した再生医療分野の著名な研究者。榎木さんは「山中教授がiPS細胞を開発するまでは、笹井氏が間違いなくスター研究者だった」と言う。だが、iPS細胞が実用化に近づいたことで、笹井さんら“非iPS系”研究者の間では「埋没してしまうのでは」との危機感が高まっていたといわれる。
「こうした競争意識が理研の“勇み足”を招いたのではないか」(榎木さん)
霞が関でも研究予算を巡ってのせめぎ合いが繰り広げられている。「民主党政権時代がそうだったが、本来の『国立研究所』は不必要だ、第1級(の研究レベル)でなくても2級3級でいいというのであればそれまでだ。しかし、必要だというなら現在の独立行政法人制度では全く不十分だ。手をこまねいていては欧米の一流研究所を超えることはなく、躍進する中国の国営研究所に一挙に追い抜かれるだろう」。昨年10月23日、中央合同庁舎4号館の会議室でノーベル化学賞受賞者の野依良治・理研理事長が熱弁をふるった。世界に肩を並べる研究開発法人創設についての有識者懇談会で意見を求められたのだ。トップレベルの研究者に高額の報酬を支払えるようにしたい、それには法律で給与などを細かく定められた独立行政法人の枠組みから出なければ−−との訴えだ。
実際、米ハーバード大学など一流大学の教授年収は約2000万円。世界トップレベルの研究者で5000万円を超えることは珍しくない。一方、理研の常勤研究者の平均年収は約940万円。これでは優秀な頭脳が海外に流出したとしても責められまい。