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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第4章 ユニオン

第45話




「よぅ大将。ライザの兄貴との面会はどうだったよ。ちゃんと"妹さんを僕に下さい"って言えたか?」

 プラムへ戻った太朗を出迎えたのは、珍しく中央制御室にいるアラン。話を聞くと、小梅とマールが機関室へ向かった為に、留守を頼まれたらしい。BISHOPは船内のほぼあらゆる場所で使用できるが、船の中枢に繋がるのはここだけである。空にするのは望ましくない。

「ライザは美人だけど、マールとは違った方向に気が強いからなぁ……あ、これ本人には言わないでね」

 そう言うと、首をすくめて怯えた格好を見せる太朗。彼は「どっちのだ?」と言うアランの質問に「どっちもだよ」と笑って答える。

「あら、テイロー。戻ったのね。何か無理難題をふっかけられたりしなかった?」

 小梅と共に、管制室へと入って来るマール。表情が明るい事から、何をしていたのかは知らないが上手くいったのだろうと想像する太朗。

「いんや。いくらかの礼金と、前回同様に箝口令を敷かれただけだよ。驚いた様子も焦った様子も無かったから、もしかしたら他にも似たような報告があったのかも」

「他にも? うーん。そうじゃない事を祈りたいけれど、言われてみればその可能性もあるわよね。でもそうなると、何故かしら。あれは昨日今日に作られたってわけじゃないはずよね?」

「まあ、そうだろうな。ワインドは昔からいるし、あれがそうであればだが、そいつらを作る工場も同様なはずだ。最近は大規模な活動が目立つから、また何か動きがあるかもしれねえな」

 アランの答えに、同意の表情を示す3人。小梅が「いずれにせよ」と続ける。

「正義の味方を目指すつもりで無ければ、ワインドの事は避けるのが無難かと思われます。そういう事は軍に任せるのが一番では無いでしょうか」

「そうね。私達に出来る事なんてたかが知れてるわ。ところであんた、あんな事しといて怒られなかったの?」

 話は変わるけど、といった様子でマール。太朗は恐らくイタズラについてだろうと、苦笑いをする。

「めっちゃ怒られた。正直、軍から目をつけられたんじゃねぇかな?」

 太朗の告白に「えぇ!?」と驚きの声を上げるマール。「ちょ、ちょっとあんた。大丈夫なの?」と続ける彼女をよそに、「なるほど」と冷静に発するアラン。

「なあ、兄弟。お前さん、いつからそんなにずる賢くなったんだ? 実際にやろうとする度胸もあれだが、俺はそこに驚くぜ」

 腕を組み、感心した様子のアラン。太朗はそれに「へへ」と悪辣な笑みを返す。アランは同じように人の悪そうな笑みを作ると、いまだ不信そうな顔付きのマールへと顔を向ける。

「俺達は軍に捕まるような事をする予定は無いって事だよ、嬢ちゃん。で、あればだ。軍は恐怖の対象では無く、むしろ頼もしい味方ってわけだ」

 アランの説明に、理解の驚きを見せるマール。

「へぇ、あんた、ただの憂さ晴らしじゃなかったのね。感心したわ。味方なんだったら、あえて目を引いておいた方が安全だって事でしょ? 良く咄嗟に思い付いたわね」

「へへ、任せろよ。俺だってやる時はやるんだぜ?」

 親指で鼻先を擦り、得意気な太朗。そこへ小梅が挙手と共に口を開く。

「ちなみにミスター・テイロー。それを思い付いたのは"いつ"ですか?」

 小梅の質問に、親指を立てる太郎。

「マールが"あえて目を引いておいた方が安全だ"って言ったあたり」

「……今じゃん!! それ、今じゃん!! あたしの感心を返せ、バカ!!」



 走り去る太朗と、それを追うマール。アランと小梅がそれを眺め、それぞれに微笑を浮かべている。

「嬢ちゃんもだいぶ突っ込みが上手くなったな……ところで小梅。どこまでが本当だと思う?」

 前を向いたままアラン。そんな彼へと、顔を向ける小梅。

「不明です、ミスター・アラン。ですが、わざわざミス・ライザに事前報告させるあたり、ある程度は前もって考えられていた行動と考えるのが自然かと」

 小梅の声に、目を細めるアラン。

「お前さん、本当にAIなんだよな?」

 そんなアランににこりとした笑みを向ける小梅。

「会話によってそれを確かめるのは、いささか難しいと思われますよ、ミスター・アラン。チューリングテストでの識別が不可能になったのは、もう2000年も前の話です」

 小梅の回答に「そうかい」と短くアラン。

「さっきみたいな抽象的な質問に、それだけ早く的確な答えを返せるAIってのを俺はお前の他に知らん。正直、気に食わんな」

「えぇ、存じてますよ、ミスター・アラン」

「そうか……まあ、だからどうこうしようって話じゃないんだ。同じ目的を持つ仲間なわけだし、出来れば上手い事やってきたいと思ってる。好きか嫌いかなんてもんを行動に結びつけない程度の分別は、持ってるつもりだ」

 そう言うと、再び前を向くアラン。既に太朗達は廊下へ出て行ってしまっていた為、視線は所在無げに床を彷徨う。

「えぇ、それも存じてますよ、ミスター・アラン。そして貴方の、秘密の目的についても」

 小梅の声に、目を見開くアラン。彼はほんの少しだけ体を硬直させるが、鉄の意志によってそれを自然に流す。しかしどうやら機械の目は誤魔化せなかったようで、アランは小梅の勝ち誇ったような顔を確認する事となった。

「くそっ、カマをかけやがったな……」

 怒りというより、呆れた様子でアラン。小梅はアランの方へゆっくり向き直ると、深々と頭を下げる。

「とんだ失礼を致しました、ミスター・アラン。しかし謎があるというのは、お互い様という事です。残念ながら小梅の方の謎は、自分にも分らない事ではありますがね……私はいったい、何なんでしょうね?」

 頭を上げ、首を傾げる小梅。

「AIがアイデンティティーを語るかい……どうしてくれんだ。さっきより疑念が深まったじゃねえか」

 その口調とは裏腹に、いくらか楽しげな表情のアラン。彼は小梅に背を向けると、廊下への出口へ向かって歩き出す。

「お前みたいなAIを他に知らんって事は、お前が唯一無二の存在であるって事でもあるさ。お前は間違いなくお前だろうよ。つまらん答えかもしれんが、きっとテイローもそう言うはずだ。それで納得しとけ」

 アランから投げられた言葉に、小梅は頭を下げて見送る事で答えた。



「やっほー、ベラさーん。元気してました~?」

 巡洋艦プラムⅡの管制室にて、通信機へ向かい陽気な声を上げる太郎。それに返される、ベラの低い声。

「"メールで何度も連絡を取ってるじゃないか。私も博士も、無愛想な弟もみんな元気さね。向こうの様子はどうだい?"」

 ベラの質問に、マールが横から答える。

「相変わらず中央は平和よ、物価の乱高下を除けばね。ところでベラ、もうそろそろ話してくれてもいいんじゃないの? 直接暗号通信だから、盗聴の心配は無いわ」

 マールの言葉に「"そいつを暗号化したのは?"」とベラ。それに「もちろんテイローよ」とマールが返す。

「"ふん。なら大丈夫だろうね。なぁに、誰かが死にそうだとかワインドの群れが襲ってきたとか、そういった緊急を要する話ってわけじゃあないんだよ。ただ、あんたらなら気になるだろうと思ってね"」

 モニタ上のベラが、含みを持たせた口調で発する。それに太朗が「もったいぶるっすね!!」と通信の暗号化を行いながら答える。

「"ふふ、そういうわけじゃないんだけどね。話ってのは、例の惑星についてさ。じじいが……っと、悪いね。博士があんたらに調査して欲しいポイントってのをまとめ終えたらしいよ。過去の観測用放射線の反射がどうこうって言ってたけど、その辺は良くわからないね。直接聞いてくんな"」

 ベラから語られた内容に、「おぉ」と驚きの声を発する3人。そこへ「ただねぇ」とベラ。

「"場所が場所なんで、色々と準備してもらったってわけさ。あまり楽しい場所じゃあないだろうから、覚悟しとくんだね"」



 プラムの乗組員はアルファステーションの支部に到着すると、積んできた貨物を降ろすと共に、支部の様々な報告を確認する。アルファ星系付近の通信エリアに進入した際、通信として受け取っていた内容。ほとんどはそれの再確認ではあるが、ベラとのやり取りにもある通り、直接話さなければならない内容も存在する。

「旧ニューラルネットがどれだけ偉大だったかが良くわかるぜ」

 旧ニューラルネットは、銀河の至る所に膨大な量の情報を自由に送る事が出来た。現在のニューラルネットは太朗の知るインターネットに近い物で、送れる情報の量に限度がある。例えば安全な暗号とされる元データの数億倍に膨らむ通信を行うとなると、間違いなく回線はパンクしてしまう。そして何より、もっと切実な問題がある。時差だ。

「まぁ、通信より先に私達が到着しちゃうようなのは、ちょっとね」

 リレー方式で支えられた新ニューラルネットは、場所によっては情報の到着までに数日から数週間がかかる事がある。拠点から拠点までの間は超光速通信によって情報は飛んでいくが、リレーする船やステーションのデータバンク内はあくまで光速に過ぎないからだ。銀河は広く、光速はあまりにも遅い。

「デルタ方面全土で、会社政府問わず、大規模な組織再編が進んでいるようです。中にはチップによる情報の高速輸送を始めた会社などもあるようですね。ちなみにそこは、株価がひと月で100倍以上に跳ね上がっています」

「うへぇ、次の株式発行でいったいどれだけ現金かき集めるんだろうな? うちも一部株式を公開すべきなんかなぁ……まぁいいや。それより準備は?」

 管制室の二人が、太朗の声に頷き返す。やや遅れてベラやアランからも問題無いとの返答が返り、続いて外部からの通信も送られてくる。

「こちらDD-01、準備出来てます」
「こちらDD-02、問題ありません」

 プラムのやや後方に構える、二隻の駆逐艦。物価の値上がりによる相対的な現金価値の目減りが起こっている今、現金を腐らせておくのはもったいないと、デルタステーションを出立する直前に購入したものだ。良い実地訓練になるだろうと、それぞれ数十名の会社スタッフが乗り込んでいる。また、ベラの部下にあたるガンズアンドルールのマフィア達50名も、それらの船へと乗船している。

「各員了解。ワープに備えて下さい。間違ってもどこかの誰かさんみたいに、飲み物を手にしたりしないように」

 マールの済ました声に、通信越しから聞こえて来る忍び笑い。「マールたんひどい!!」と顔を手で押さえる太郎。太朗は船外モニタが青い色を帯び始めた事に気付き、ワープの開始が近い事を知る。

「さて、そろそろか。博士にいいお土産を持って帰れるよう、頑張ろうぜ」

 特別料金を支払って一時的方向を変えてもらったスターゲイトが、より強い青を発し始める。そしてスターゲイトは、太朗達の艦隊をはるか遠方へと送り届ける。

  ――"ジャンプドライブ 起動"――

 光の矢が、どこまでもどこまでも、伸びて行く。
 アウタースペースと呼ばれる、銀河帝国の影響を外れた、遥か外の世界へ向けて。


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