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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第4章 ユニオン

第41話

 前の第40話ですが、事前に保存用に予約投稿していたものが、そのまま投稿されてしまいました……中途半端な長さなのはその為です。
 丁度良いところで終わってましたので、とりあえずそのままで。
 アルファ星系、研究ステーション。研究ステーションとは言っても研究施設のみが存在しているわけでは無く、研究者の家族の為の様々な居住区や商業区が設けられている。一般の居住用ステーションと違う点は、それらのステーションでは禁止されている様々な実験設備が用意されている点だろう。毒ガスや強力な放射線。粒子加速器や何かといった、一歩間違えれば大惨事を巻き起こす様々な物の使用が、ここでは許可されている。
 太朗達はステーションの管理委員会に涙と抱擁によって迎えられ、英雄だ救世主だと称えられた。太朗はそんな状況に悪い気はしなかったが、最後まで抵抗を続けた彼らこそが英雄ではないかと思っていた。
 彼らは試作用のエンジンを吹かし、研究用のビームを放ち、ステーション内のあらゆる物を使用して抵抗を続けていたらしい。もし元のビーコン位置にそのまま留まっていたら、とっくにあの工場に取り込まれていただろうと太朗は想像する。ワインドが人を襲うかどうかは知らないが、少なくともあまり楽しくは無い結末となっていただろう。

「アルジモフ博士の研究施設はあちらです。迎えが来ておりますよ」

 ステーションのゲート前にて、管理委員会の代表が無数に並んだ扉のひとつを示す。そこにはひとりのスーツを着た男が太朗達を見て立ち尽くしており、太朗の視線に気付くと堂々とした会釈をした。

 6千年を誇る銀河帝国の歴史の中でも、かなり古い歴史を持つアルファ星系。帝国の成り立ちや古い歴史は銀河帝国初期の動乱により忘れ去られてしまっていたが、それでも積み上げられた情報は物理記憶媒体。すなわち各種チップやディスクといった古いメディアに残されていた。

「アルジモフ博士は、よっぽど掃除が苦手なのね」

 うず高く積まれた大量のメディアが道を塞ぐ廊下を、一歩一歩苦労しながら進んでいく太朗達。

「申し訳ありません、ミス・マール。なにぶん資料の保存場所が足りず、このような有様で」

 TRBユニオン――各リーダーの頭文字をとった、太朗達のユニオン――の面々は、ダニールと名乗る博士の助手へ引き連れられ、ようやく辿り付いた応接間で一息を付く。部屋は簡素なソファがふたつ、テーブルの両脇に置かれただけのシンプルな一室で、壁には古い型の大型スクリーンが設置してあった。
 やがて入室から5分も経った頃「待たせて申し訳ない」というありきたりな挨拶と共に、アルジモフ博士が部屋へと入ってくる。

「英雄を出迎えるにしては質素な部屋だが、許して欲しい。彩りとは無縁な研究ステーションだからね」

 長い時間を攻撃に晒されていた為だろう、疲れた顔のアルジモフ博士。太朗は立ち上がると、代表として博士と握手を交わす。

「お会いできて光栄っす、自己紹介は、まぁいらないっすよね」

 太朗は自身の後ろへ立ち尽くすベラへちらりと視線を向けると、その頷きを確認する。ステーションへのドッキング中から、彼女は博士と連絡を取り続けていたからだ。

「うむうむ、大まかな話は孫から聞いているよ。なんでも、人類発祥について興味があるとか」

 いささか興奮気味にアルジモフ博士。太朗は「えぇ」と博士に続き腰を下ろすと「地球という惑星を御存知ですか?」と質問をする。

「チキュウ、かね? 残念ながら耳にした事は無いが、それが人類発祥の星という事だろうかね。君が目的について、遠回りな説明をしているというわけで無いなら」

「えぇ、そうです博士。そこが僕の生まれ育った星で、まさに人類が発祥しただろう場所です」

 驚きの表情を示す博士に、これまでの経緯を聞かせる太朗。博士は断りを入れてから口にした葉巻をくゆらせながら、太朗の話を黙って聞き続ける。博士は何かの作り話ではないかと疑いの表情や言葉を差し挟んできたが、小梅の差し出した太朗のDNA情報を見た所、その顔色を変えた。

「なんとも奇妙な話だし、おおよそ信じ難い事だ。今まで銀河の生まれ故郷出身を自称するやからはそれこそ無数にいたが、これほど興味深い事実を示したのは君らが初めてだね。うんうん、実に興味深い」

 太朗は「コピーをとってもいいかね?」という博士に、ネットワークへの公表だけは避けてくれるよう条件をつけた上で、許可をする。

「それで博士、俺としては人類が単一の惑星で発祥したっていう説に確信を持ってるわけだけど、実際問題それがどこにあるかってわかりますかね?」

「ふぅむ、問題はそこなのだよミスター・テイロー。残念ながらそれを見つける程には研究が進んでいるわけでは無いという事を、正直に話す必要があるだろうね」

「そうですか……なんかとっかかりというか、おおまかな場所もわかりませんか?」

 太朗の言葉に、眉間にしわを寄せる博士。彼は「もちろんわかるさ」と、大型スクリーンへ銀河の地図を映し出す。

「DNA情報。歴史的な文献。地理的な要因。様々な情報が、帝国初期の人類の遷移を我々に教えてくれる。おおよそ帝国の正確な歴史として残っているのは、このエリアだね」

 スクリーン上の地図には、現在の帝国の版図の10分の1程のサイズのエリアが赤く示される。続いて「これが状況証拠からの推定」という言葉と共に、そのエリアがさらに10分の1程に縮小される。

「推定とは言ったが、ほとんど確定できるものと取ってもらって構わないよ。銀河中の多くの学者も、この時点までは反対の意見を述べる者はいないだろう。問題はこの先だ」

 帝国地図の赤いエリアが再び縮小し、さらに10分の1程の大きさへと変移する。

「これが、私が主張している帝国最初期の影響圏だ。学会の主流派によれば、複数の文明がその手を広げるようにお互いが出会い、そして帝国を形成したとしているようだが、そんなのは私に言わせてもらえば実に馬鹿馬鹿しい限りの話だ。これには政治が大きく関係している」

「政治、ですか?」

「そう、政治だよミスター・テイロー。銀河帝国には複数の種族が存在し、それぞれ少なくない主張をしている。帝国のおおよそ7割を占める我々人類に比べ、彼らは身内の誇りや結束を強く持っている。私がこんな辺鄙な場所で研究をしている理由のひとつでもあるね」

「えぇと、すいません。話の繋がりが良くわからんです。人類以外っていうと、あの翼とか角の生えた人達の事ですよね?」

 いつかステーションのゲートで見た人達。そして取引中にもちらほらと目にするそういった人々の姿を思い浮かべ、太朗。それに博士が「君は実におもしろい物言いをするね」と続ける。

「まさに君の言うとおりだが、その言い方は彼らを侮辱する事になるだろう。ホルンやウィングといった、一般的な呼称を使うことをおすすめするね」

 博士の言葉に「以後気をつけます」と太朗。博士は満足気に頷くと「彼らは」と、また続ける。

「自分たちを人類とは違う、別の星から来た者達だと信じている。彼らの経典にそう書かれているんだね。私のしている事は、それを否定する事になっているわけだ」

 太朗は博士の言葉を聞き、その内容を逃すまいと頭を働かせ続ける。

「なるほど。博士が主張しているのは、人類単一惑星発生説……その中には、彼らも含まれると主張してるわけですね?」

 太朗の疑問に、実に嬉しそうな様子で頷く博士。

「そう、その通りだよミスター・テイロー。確かに我々と彼らの間には、大きなDNA上での差異が存在している。誰もが知っているように、交配を行う事が難しい程に遺伝情報が異なっているのも確かだ。しかし私はね、それでも元は同じ人類だったと確信しているんだ。おかげで彼らには随分と嫌われてしまったがね」

 にやりと笑う博士に「はは……」と苦笑いを返す太朗。

「話を聞いてる分だと、相当しんどい嫌がらせをされてそうですね。ちなみにさっき、こんな辺鄙な所で研究してる理由のひとつだって言ってましたけど。もうひとつは、コレですか?」

 スクリーンを腕であおぎながら太朗。それに博士が「そうだ」と続ける。

「人類発生の根拠地は、銀河のはずれ。このアルファステーションのさらに奥へ行った一帯のどこかにあるはずだ。とすれば、その近くで研究を行うのは理に適っているだろう? それに嫌がらせについては、君が思っている以上に事をされてるよ。ミッションリストにアクセスしてみるといい」

 太朗はなんのこっちゃと思いつつも、言われた通りネットワークのミッションリストを開く。続いて「私の名前を検索したまえ」との言葉通り、アルジモフの名を検索にかける。

「……わお。イーザック・アルジモフ博士。暗殺依頼1000万クレジットっすか。これは笑えないっすね」

 博士の暗殺ミッションとして立てられたそれには、出資者として複数の団体の名前があがっている。太朗はそれらの団体名に聞き覚えは無かったが、恐らくホルンやウィングと言われる彼らのものである事は容易に想像がついた。

「まったく、迷惑極まりない話だよ。おかげでこちらは信用できる少ない仲間と、腕っ節に自信のある孫達に頼らざるを得ない状況だ。研究資金の出資者は脅されたり何だと減っていくし、研究にも支障が出ている始末でね。まいったものだ」

 イライラとした様子の博士。太朗は博士に「さすがにこれは酷いっすね」と同意する。太朗は政治について興味が無かったし、博士の行っている研究がどういったものかを詳しく知っているわけでは無い。しかしそれでも、彼らのやっている事が正しい事だとは思えなかった。

 その後も太朗は2時間近くにわたって博士と対話をし、地球についての情報を集め続けた。結局、地球の場所や存在についての決定的な確証は得られなかったが、それでも十分に満足のいく結果を得る事が出来た。博士は自らの説を証明するだろう事に絶対の自信を持っているようだったし、資金的な問題は解決の目処が付きそうだった。太朗がTRBユニオンとして博士への援助を提案した所、それが可決する事となったからだ。
 ライザは今のところ地球にさしたる興味があるわけでは無い為、当然それに難色を示した。しかしアルファ星系周辺における博士の知名度は抜群であり、それによる交易上の利点を説く事で、結局は彼女も折れる事となった。そもそもユニオンの決定権はライジングサンとガンズアンドルールで過半数を超えていたが、太朗は出来れば満場一致での運営が望ましいと考えていた。

「地球へ向けて、なんとか第一歩を踏み出したって感じね」

 研究ステーションから引き上げた後、プラムⅡの船内を歩きながらマール。太朗はそれに「だなぁ」と同意する。そして「それにしても」と続ける。

「マールの言う通り、会社を作っといて正解だったぜ。そうじゃなきゃ博士を援助するなんて真似は、とてもじゃないけど出来なかっただろうからな」

 太朗の声に「でしょ?」と得意気な様子でマール。

「例のワインド工場の件もあるし、明日また博士と話し合いをしましょう。ユニオンとしての活動の一環になるでしょうから、今後の方向性も絡んでくるわね」

「んだな。船を使って調べてみたい事もあるって言ってたし、博士の方から何か提案があるかもしんないな」

 太朗は無機質な廊下を歩きながら、今後についての明るい展望を想像する。何年かかるかも知れない遠く長い道のりかもしれないが、それでも第一歩は踏み出した。
 それは小さな一歩かもしれない。しかし彼にとって、確かな一歩だった。



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