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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第4章 ユニオン

第38話


「ミスター・テイロー、ワインドと思われる高速船が4機、接近中です」

 小梅の声に、呆けていた意識をはっと戻す太朗。

「迎撃用意。念のためもう一度識別信号を投射。返答が無いようならそのままビームタレットで砲撃」

 太朗はもう一度謎の建造物へちらりと目をやると、不安や疑問を捨て置き、戦闘へと集中する事にする。

  ――"ロックオンシステム 並列起動"――

 タレット毎に存在するロックオンシステム。敵と同じ数である四機を立ち上げ、全ての目標に対して実行する。

  ――"ロックオン 実行中:経過 40%"――

 BISHOPに表れた、見慣れぬパーセント表示。太朗は秒を追うごとに増加していくそれを見つめつつ「なんだこりゃ?」と小さく発する。

「マールたん、なんかロックオンシステムがおかしい。いつもなら一瞬で終了するんだけど、やたらに時間がかかってる」

 太朗の声に「ちょっと待って」とマール。

「確かにおかしいわね。プラムにジャミングされてる形跡は無いわ。小梅、わかる?」

「えぇ、ミス・マール。対象は恐らくロックオンスクランブラを使用しているものと思われます。ジャミング装置のひとつですが、相手の船に対して使う物ではありません。防衛装置の一種ですね」

「なるほど。こっちの船に対して実行してるわけじゃないから、センサーに引っかからんわけね……補助魔法みたいなもんか」

 太朗は知識としてこういった機能を知っていたが、経験するのはこれが初めてだった。彼は「知ってるだけじゃわからん事もあるのね」とぼやくと、残った12のロックオンシステムを同時起動する。8つずつのシステムから同時に走査された対象は、あっという間にロックオンされていく。

「解決法は力押し、ってか。マール、識別信号に返信は?」

「無いわ。攻撃を開始するわよ?」

 マールはそう答えて太朗の頷きを確認すると、対象に対する砲撃を開始する。プラムⅡに搭載された8つのビームタレットが光を上げ、青い破壊の光を吐き出していく。

「E1撃墜。ミスター・テイロー、例の建造物から新たな反応を確認。続々と吐き出されています」

 小梅の声に、すぐさまレーダースクリーンを確認する太朗。謎の建造物の周囲には合計20程の光点が表示され、それぞれがプラムⅡの方へ向かって来ているのが確認できる。

「ちょっち数が多いな……テンプレ通り接敵のタイミングをずらそう。右60度旋回、エンジン出力を8割」

「了解。右60、出力80ね」

 プラムⅡの船体がゆっくりと回頭をはじめ、太朗達は遠心力による小さな重力加速を感じ取る。それは駆逐艦だった時に比べれば全くもってゆったりとした動きだったが、それでも同サイズの船よりはずっと素早い動きらしい。

「敵、予想通りバラけて来たわ……けど妙ね。動きの早い集団と、そうでないもの2つのグループに分かれたわ。別種のワインドが混在してるのかしら?」

 レーダースクリーンに表示されたワインドの光点は、マールの言う通り2つの大きなグループへと分かれ始めていた。意図的にそうしたというよりは、船速の違いから自然とそうなったのだろうと太朗は判断する。

「となると、新型かね? 今までもジャマー持ちだったりそうじゃなかったりと、内部機構に差がある奴らはいたわけだし」

「えぇ、そうかもね。でもエンジンまで違うってのは今までに無かった事よ。なんだか最近、ワインドの成長があんまりに早すぎる気がするわ」

「小梅も同感です、ミス・マール。理由はわかりませんが、新しい思考形態のAIが誕生したのかもしれませんね」

 太朗は小梅の声に顔を向けると、"もしこの娘が敵だったら"という想像が頭を走り、ぶるりとその身をふるわせる。

「歓迎できねえ事態だぁな……俺らに出来る事はあんまねぇけど、ちっとは帝国の皆さんの為に頑張るとしましょか」

 太朗は「よし」と気合を入れると、マールの射撃計算の補助を開始する。

「E14、E19撃墜。ミスター・テイロー、敵が発砲を開始しました」

「了解。マール、ジャミングを。射撃は任しとけ」

「わかったわ。ドローンの射出は?」

「んー、まだやめとこう。まとわりつかれるまでは、砲撃で十分しょ」

 光点から飛来する、何十もの細いビーム。マールの操作するビームジャミングにより、それらは半数近くがゆるやかなカーブを描いて反れていく。残った半分のうち、船への直撃コースをとっていたものが4条。小梅によるシールド制御が即座に行われ、拡散したビームが装甲に焦げ跡を残していく。

「E15、E17撃墜。ミスター・テイロー、射撃の標的が足りません」

「うへぇ、急ぎロックオンするから待ってくれ。完全に想定外だなこりゃ」

 先ほどから継続して使用されているのだろう、ロックオンスクランブラ。思った以上にやっかいなそれに、太朗はひとつ舌打ちをする。

「小梅、どいつがスクランブルをかけてるのか割り出せないか?」

「どうでしょうね、ミスター・テイロー。やってはみますが、センサーに関しては……失礼。割り出しが終了しました」

「はやっ!! どゆこと!?」

 小梅はそれに答える代わりに、大型スクリーンを指差す。そこに映し出されたのは、例の巨大な建造物。

「ミスター・テイロー。"アレ"から各ワインドの周辺に対してスクランブラが発生しているようです。非常に高い出力ですから簡単に割り出せました。正直、貴方で無ければ相当にまずい事になっていたかもしれません」

 マールと共に、映し出された建造物をにらみ付ける太朗。彼にそれの正体はわからなかったが、敵である事は間違いが無さそうだった。

「なんだってんだマジで。魚雷でもぶち込んでやろうかな」

 イラつきの混ざった太朗の声に「やめときなさいよ」とマール。

「あくまで想像に過ぎないけれど、乗っ取られたステーションの末路とかそういう可能性も考えられないかしら。いよいよまずくなったら破壊するべきでしょうけど、様子を見たほうがいいんじゃない?」

 マールの声に、ひとつうなり声を発する太朗。今後の事を考えると彼女の想定は正しく、反論の余地は無さそうだった。太朗はコープを作って以来、ワインドに対する様々な情報をネットワークから収集していたが、あのような建造物の存在についてはついぞ聞いた事が無い。もし新発見だとすると、出来るだけ多くの情報を得るべきだと思われた。

「喜んで良い事かどうかはわかんねえけど、報告の価値はありそうだあね。小梅、あれが何かおかしな動きを見せたらすぐに教えて。マールの言うとおり、しばらく様子見とこう」

 太朗は複雑な暗号によって守られたロックオンスクランブラによる障壁を、全意識をそれへ集中する事で次々と通過していく。スクランブラによって暗号化されたスキャン結果を解析し、船からの正確な相対座標を割り出していく。
 太朗がようやく接近している全ての敵影をロックし終えたと一息ついた瞬間、小梅の冷静な声が管制室に響く。

「ミスター・テイロー、遠方のグループが発砲を開始しました」

 小梅の報告に、はっと顔を上げる二人。

「ちょっと待って、遠すぎるわ。まだ接敵判定が出てないわよ?」

「射撃ミスだと思いたい所だけど……ぉぉおお!! 小梅!! シールド全開!!」

「了解です、ミスター・テイロー」

 モニターに表示された大量の光線に、思わず顔をのけぞらせる太朗。ひとつひとつはさして大きくは無いが、その数が問題だった。

「ビームが全部で38、テイロー!! 相手は駆逐艦クラスだわ!!」

「くそっ、アラン、ベラ、スコール、発艦準備!! 細かいのを頼む!!」

「"こちらスターダスト、了解だ大将"」

「"こちらブルーコメット、いつでも出れるよ"]

「"ブラックメテオ、右に同じく。対艦ライフルでいいな?"」

 太朗はスコールに対して返答をしようとするも、再び投射された大量のビームにそれをとりやめる。マールのジャミング補佐と、射撃に対する計算の方を優先したからだ。

「大型船だと? くそっ、どうする……どうする……」

 遠方の駆逐艦クラスと思われるワインド二隻をロックオンすると、これからの流れを考えて目を血走らせる太朗。駆逐艦サイズの相手となると完全に想定外であり、その10という数は、彼に迷いを生ませるには十分すぎた。

「テイロー、大丈夫よ。あんたは射撃に集中しなさい。こっちにはあんたの考えた、古くて新しい兵器があるじゃないの」

 マールのその物言いに、思わずにやりとする太朗。軍学校で習うサイズ比における戦力換算では、巡洋艦1と駆逐艦10では明らかに分が悪い。しかしマールの言う通り、こちらには相手には存在しない明らかなアドバンテージがある。

「そう、だよな……よし、左回頭60。目標、敵駆逐艦グループ。出力マイナス全開」

 太朗の声にすぐさまマールが反応し、敵を分散させる為の動きから、正面で迎え撃つ形へ。

「正面の方が被弾面積が少ねぇしな。9番から14番のタレット、発射用意!!」

 BISHOPを用い、レールガンの発射口を開く太朗。レールガン砲塔へ核融合エンジンにより蓄電された大容量バッテリーから一気に電圧が送られ、超伝導化された発射機構が不気味なうなり声を上げる。

「ワインドごときが何をしたって、プラム様の相手じゃねぇんだよ!!」

 既に装填済みである弾頭に対し、蓄えられた電圧が開放される。ローレンツ力によって押し出された弾頭がプラズマと共に砲塔内部を駆け抜け、宇宙空間へと放たれる。

「さあ、飛んでけ!! 1万クレジットの弾丸!!」

 太朗の声に、マールが叫び声を上げた。


ビーム兵器は、一発あたりせいぜい数百クレジット
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