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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第3章 グロウイングアップ

第34話

 最初にそれがレーダースクリーン上に現れた時、ステーション警備班のスコールはとうとう帝国軍がやってきてくれたものと喜んだ。そしてその期待が大きかった分、識別信号がただの商船だと伝えてきた時の失望感は、想像以上に大きかった。

「やっぱりもう駄目だ。くそっ、こんな田舎のステーションなんてさっさとおさらばするべきだったんだ!!」

 スコール曰く「汚物に群がるハエ」と表されたワインドの群れは、既に100を超える光点としてレーダー上を忙しく飛び回っている。ステーションの被害は今のところ軽微だが、備え付けられた大型シールドの残量は下降の一途を辿るばかりで、崩壊までは時間の問題と思われた。

「くそったれ!! 人様に何の恨みがあるってんだ!!」

 誰へともなく叫ぶと、目の前を走り抜けるワインドへと飛び掛るスコール。BISHOPから直接操作された彼の乗る20メートルの鋼の巨人が、不恰好な寄せ集めのようなワインドの船体へとしがみ付く。

「これで八機目! 焼け石に水もいいところだがな!」

 巨人の持つ長大なライフルがワインドのエンジン部分へと向けられ、立て続けに4発のビームを打ち放つ。

「こんな所で死んでたまるか!!」

 活動を停止したワインドから飛び退ると、今まさに彼のいた場所を通過していくビームの光。スコールは全身から吹き出る冷や汗を感じながら、ステーションへと向けてエンジンを全開にする。

「"はぁい、スコール。八機目おめでとう。報奨金に期待が持てるわね"」

 スコールの通信機から発せられる、低い女性の声。

「生きて帰れりゃあな。ステーションの方はどうなんだ。まだ持つのか?」

 小型スキャンであたりを警戒しながらスコール。モニタに大きく「Locked」という赤い警告文字が表示され、彼は慌てて急停止する。直後、眼前を横へ通り抜けていく一閃のビーム。

「狙うなら他の奴を狙え!! くそっ、どこもかしこも敵だらけだ!!」

 なんとかしてくれといわんばかりに叫ぶスコールだが、通信機から返って来るのは緊張感の無い同僚の声。

「"そんなのわかりきってる事じゃないかい、スコール。あたしたちはもう終わりさ。ちょっとでも道連れを増やせるよう、楽しもうじゃないか"」

 スコールと入れ替わるようにしてステーションから飛び出す赤い機体。厚い装甲で覆われたずんぐりとした体型の巨人が、それの数倍はあるだろうワインドの巨体へ向かってライフルを向ける。

「世の中には認めたくねぇ事実だってあるんだよ。ベラ、うちの生き残りはあと何人だ」

「"ちょっと待ってな……残り57人だね。機体は10。やってくれたもんだ。自慢の団員が半分になっちまったよ"」

「へっ、いくらもしねえうちにゼロになるさ。それよりさっきから何の音だ。ビービーうるせえぞ」

「"あぁ、なんか他所から外線が入ってるのさ。ジャミングされてるって気付いて無いんだろうねぇ。さっきジャンプしてきた船じゃないかい"」

 ベラの声に、船がいると思われる方向へ顔を向けるスコール。ズームアップされたカメラが遠方の船影を捕え、ぼんやりとした映像を運んでくる。

「こんな所へ何しに来たってんだ。まさか救助ってわけじゃねえよな?」

「"この銀河のいったいどこを探しゃあ、こんな危険を冒してまでマフィアを助けに来る馬鹿がいるってんだい"」

「希望くらいもたせてくれよ」

 スコールは弾薬と燃料の補給を手早く済ませると、再び宇宙へと飛び出す。恐らくベラが撃ち漏らしたと思われる分解気味のワインドを見つけると、慎重に狙いを付けてライフルを発射する。

「この場合、撃墜判定はどっちになるんだろうな。折半か?」

「"さぁね……どっちでもいいし、後にしな。それよりスコール、気付いてるかい? あの船、こっちに向かってきてるよ"」

「あぁ? おいおい、本当に救助ってんじゃねえだろうな。神に祈るのなんざガキの頃以来だぞ」

 スコールはもう一度謎の船へとカメラを向けると、先ほどとは違って正面からの画が映し出される。そしてその直後、船影から連続した光が瞬く。

「発砲した!? やったぞ、どこの馬鹿だかしらんが、援軍だ!!」

 いくらもしないうちに到達した8条のビーム。うち二つがワインドに命中し、その船体をあっさりと貫く。

「"大口径砲だね。サイズからすると巡洋艦クラスって所じゃないかい? やっこさん、同業者かもしれないよ"」

「いんや、俺は軍の分遣隊の方に賭けるぜ。どこの世界にこの距離からビームぶち当ててくる馬鹿がいるってんだ。軍か警備会社に決まってる」

「"警備会社は得にならない事はしやしないよ。となると軍かね。ステーションの居残りに重要人物なんていたかい?"」

「わからんが、出来れば接触したいな。確かカプセルがまだあったよな?」

「"わお、冴えてるじゃないかスコール。あんたに頼んだよ"」

 スコールは飛び出した機体を反転させると、ドックの中にあるカプセルランチャーを手にする。機械の巨体を駆ってそれを船影の方へ向けると、弾頭に必要な情報を流し込み、発射する。

「頼むから届いてくれよ……あぁ、くそっ、もう一度だ!!」

 いくらもしないうちにワインドによって破壊されたカプセル。スコールはカプセルをもう一度セットし直すと、今度は慎重に狙いをつけて放つ。

「頼む、行ってくれ。もうカプセルは残り少ねえんだ」

 スコールの祈りを乗せたカプセルはロケット噴射によって加速していき、幸運にも逸れる事となったワインドのビームによる焼け跡を残しながら、船へと向けて突き進んでいく。

「"何の情報を送ったんだい。あんたのプロフィールってわけじゃないんだろう"」

「そんなもんを送るくらいなら、大人しく爆死した方がマシだ。送ったのはステーションによるスキャン情報だ。あの船がよほどの馬鹿じゃなけりゃ、ジャマーを持ってる船を狙ってくれるはずだ」

 スコールがベラと話している間にも、船へと向かい直進するカプセル。やがて一定距離に到達したカプセルは、特殊な鉛で出来た外装を捨て去り、周囲へ向かって情報を発信し始める。

「届いたか? どうなんだ? ちくしょう!! いい加減にしやがれ!!」

 カプセルがその花を咲かせた直後、ワインドによるビームがカプセルを貫通破壊する。スコールはすぐさま次のカプセルを手にするべく後ろへ下がるが、ベラの「"待ちな"」という声に動きを止める。

「"スコール、今何が起こったんだい。あんた、見てたか?"」

 珍しく動揺の声を見せるベラに「いいや」とスコール。

「"何もしてないのに、敵さんが吹っ飛んだのさ。言っておくけど、あたしゃ正気だよ。何だかわからないけど、注意しな"」

 何を言ってるんだと訝しげな表情を作るスコールだが、冗談にしてはおかしいと自らも周囲を注視する。相変わらず巡洋艦からはビームが続けざまに放たれており、ときおりワインドの機影を捉えるが――

「なんだ!? 何をしやがったんだ!?」

 ビームの進路とは全く関係の無い位置。そこにいたワインドが船体を大きくひしゃげさせ、光と共にゆっくりと分解していく。

「"ほぉら、あんたも見ただろう。軍の新兵器か何かかねえ?"」

「知るか。だが新兵器だろうが魔術だろうが神の力だろうが、ワインドをぶち壊してくれるってんならなんだって構わねえさ。それより、見えない何かにやられてる連中はどれもジャマー持ちだぞ。通信が通じたんだ!!」

 巨人の内部でぐっと手を握るスコール。彼は持っていたランチャーをほうり捨てると、再びライフルを手にする。

「なんだ? 何かが飛来してる? デブリか?」

 再び宇宙へ飛び立とうとしたスコール。彼は動体センサの捉えた妙な反応に、その動きを止める。

「"こいつは驚いたね、スコール。やっこさん、何かを飛ばしてるよ。ビームじゃあない、モノホンの何かだ"」

「実弾兵器ってやつか? 冗談はよせ。ワインドだってデブリ焼却ビームくらい積んでるぞ。弾頭兵器なんて焼かれちまうのがオチだ」

「"そんな事あたしに言われたってわかるもんかい。あんた、頭はいいけど理屈っぽい所がいけないねぇ。現にそいつをボコボコぶち当ててる化け物がいるじゃあないか"」

 スコールはベラに何かを返そうと口を開くが、船から飛来する高速物質を捕えたセンサーの反応に、そちらへ意識を向ける。
 飛来する何かはビームに比べれば実にゆっくりとした速度で。それでも秒速20キロという速度で標的へと向かう。恐らく人類の船と同様に、自動反応するデブリ焼却ビームが積まれているのだろう。ワインドの船から細いビームが複数個伸ばされ、船が放った何かに向けて連続して放たれ始める。その瞬間、飛来物の座標が震えるようにぶれ始め――

「……んな馬鹿な」

 ワインドの船体を貫く弾頭。空いた穴から引きずられるように、船体がひしゃげていく。

「避けてるのか? ビームを? どうやって? デタラメだ!!」

「"やっぱり軍の新兵器だよ、スコール。何だか知らないけども、きっと新しい誘導兵器を開発したのさ。ウチらのツキもまだまだあるって事さね!!"」

 ベラの付近にあった敵性反応が消失し、彼女が再びワインドを撃墜した事を知るスコール。彼は自分もやるべき事はやろうと、再び宇宙へと飛び立つ。

「"気張んな、野郎共!! 踏ん張り時だよ!!"」

 ベラの声に対し、通信機より各々の了解の声が聞こえて来る。スコールも「わかってるよ!」と返すと、弾薬庫を空にするつもりでライフルを撃ち続ける。

「ジャミング野郎を全部落としたぞ!! 回線が繋がるはずだ!!」

 スコールの叫びに「"今繋ぐよ"」とベラ。

「"ちょりっす!! すいません、そこにアルジモフ博士っていませんかね!?"」

 通信機より流れる、若い男の声。場違いな程明るいその声に、スコールは戸惑いながらも返す。

「あ、あぁ。いや、博士は――」
「博士ならここにいるさね。けれど、残念ながらご覧の通りの有様だよ。良ければちょいと手伝っちゃくれないかい?」

 スコールの声に被せるように、ベラが発する。スコールはすぐにベラの意図に気付いたが、それを咎めようとは思わなかった。事情が、事情だ。

「"了解っす。ところでそのロボ、めっちゃかっこいいっすね。人が乗ってるんすよね? マジ胸熱なんすけど"」

 まるで緊張感の感じられないその声。スコールは、普段であればイラつきも覚えただろうなとぼんやり考えつつ「後でいくらでも触らしてやるよ」とぶっきらぼうに答えた。


実弾兵器
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