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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第3章 グロウイングアップ

第30話

「うぉぉ……でけぇ……」

 4隻の曳航船に引かれ、大型ドックへゆっくりと720メートルの巨体を納めて行く新型巡洋艦。
 プラムⅡと名付けられたそれは、駆逐艦プラム建造時と同様にゴーストシップの中枢を搭載し、エンジンまわりの追加装甲にブラックメタルのIN型をそのまま再利用している。ただし共通部分はそこまでで、見た目から中身に至るまで何もかもが桁違いとなっていた。船の全長が倍になると、単純計算で体積は8倍となる。

「前のプラムもいい船だったけど、これはやばいな。こいつになら掘られてもいい」

 ドック内の重力室にて、窓ガラスへ顔を押し付けるようにして太郎。隣のマールが「大袈裟ね」と言いながらも、太郎と。そしてその奥にいるアランと同じようにしてドックを覗き込んでいる。
 旧プラムが角を滑らかに削った箱型といった形だったのに対し、こちらは滑らかさの欠片も無い、完全な直線デザイン。先細りさせた東京都庁を横に倒したかのような形をしており、上下左右それぞれに4つのタレットベイが並べられている。一つ一つの砲塔は旧プラムのそれと大きく違わないが、4倍の火力を投射できるという点は大きい。

「全周囲対応型って言うんだったかしら? 全部の砲塔を出したらハリネズミみたいになりそうね。綺麗かどうかはともかく、頼りにはなりそう」

 ぼそりと呟くマール。それに太郎が「甘いぜ」と続ける。

「16あるベイの内、8ついつものビーム兵器。6つをレールガンにして、残りの2つは魚雷発射管なんだぜ!!」

 どうだと言わんばかりの声色で太朗。それにきょとんとした表情を向けるマールとアラン。

「レールガンってお前、あれか? プロジェクタイルウェポン(実弾兵器)ってやつか?」

 アランの質問に対し「おうさ!!」と元気一杯に答える太朗。アランはこめかみを挟み込むようにして顔を抑えると「何でまた……」と続ける。

「飛翔兵器なんてのは千年も前に廃れた兵器だぞ? 軍学校でも歴史として習うには習うが、そんな骨董品を搭載してどうするつもりだ?」

「あれ? 実弾兵器ってもう使われてないの?」

「わたしは軍事には素人だけど、それでも無いって断言できるわ……はぁ。それにその"ギョライ"ってのは何よ。聞いたことすら無いわよ? 地球の兵器?」

 驚きと呆れの顔を見せる二人。太朗がいささか気まずそうにそれに答える。

「いや、ほら。どの船も、もちろんワインドも含めてさ。シールドって言ったらビームシールドじゃない? フィジカルシールドを目一杯積んでる船って聞いたこと無いから、いい案かなぁと。ちなみに魚雷ってのはでかいミサイルの事ね。海じゃないから魚雷って言っていいのかわからんけど」

 身振り手振りを交えて魚雷についてを説明する太朗。それについてなんとなく理解が及んだのだろう、溜息を吐き出す二人。

「何千万もかけて何か特注してるなと思ったら、そういう事。なんていうか、今までなんとか問題無くやってこれたけど、ここへ来て生まれた時代の差が悪い方へ出た気がするわ」

 マールの言葉に「同感だが」とアラン。

「大将なりになんか考えがあっての事だと思うから、俺はコメントを控えておくぜ。けど、まぁ。確かに会社の金を使って趣味に走るのは考えもんだな」

 二人の否定的な返しに「うぐぐ」と言葉に詰まる太朗。

「だ、大丈夫だって。ただ単に昔の設計図をそのまま使ったってわけじゃないし、その。いくらか役に立つ……はず……と思う……」

 消え入りそうになる太郎の言葉に、可愛そうな人を見る目の二人。

「まあ、それはとりあえず置いときましょう。戦うのを主とするわけじゃないんだし、8門もレーザーがあるだけ十分だわ」

 三人はなんとも微妙な空気のまま、プラムⅡの中へと足を踏み入れていった。


「わ、すごい。シートのショックアブソーバーが最新式だわ。ふわふわね」

 管制室のシートではしゃぐようにしてマール。構造的には前と変わらぬ中央管制室。しかし備え付けられた装置は一新しており、さらに戦訓によって得られた太朗独自の改良も加えられていた。

「ディスプレイ関係も全部軟体素材でつくられてるぜ。衝撃で歪むかもしんねえけど、額に傷をつくるような事は無いんじゃないかな」

 シート脇から伸びるアームに備え付けられたディスプレイ。ゴムのような素材で出来たそれをもてあそびながら太朗。

「追加オプションはワープスタビライザーにしたのね。どれ位のパワーが出せるの?」

「んー、正確にはわからんけど、小梅の計算だと小型のワインドが使ってくるアレなら10機分位同時にジャミングされても大丈夫だろうって」

「10って、それまた凄いわね。敵の全部がジャマーを持ってるわけじゃないし、そうそう縛り付けられる事は無さそうね。他の電子装備は?」

「外から見てもわかっただろうけど、どでかいスキャナーを積んであるぜ。距離よりも解像度を優先したから、300キロ先の美人の胸元までバッチリ写るだろうぜ」

 ディスプレイに映し出されている船体の外部映像には、太朗が取り付けたひし形のスキャナーが大きく映し出されている。まるで羽のように左右へ伸びるそれは、地球人である太朗の感覚からすると巨大なソーラーパネルのように見えた。

「医療設備から居住区までも今までのそれとはダンチだぜ。100を超える医療用カプセルに、10ブロックのモジュール居住区画。2000人かそこらだったら、余裕を持って生活できんじゃねえか?」

「やっぱり巡洋艦サイズともなると色々と自由が効くわね。このサイズから上が正式な軍艦として扱われるんでしょ?」

「そやね。駆逐艦以下の船は全部"小型艦艇"ってくくり。ようやくこの船も帝国内戦力としてカウントされる事になったわけだ。目立つ以外に得がねぇ上に、サインさせられる書類の数が半端無かったな。戸籍登録を嫌がる人がいるわけだぜ」

 専門家の助言を受けつつ、数日にわたって内容の把握と署名を行う事になった日々を思い出して苦笑いの太朗。船の使用目的の項目に"輸送と交易"と書いたのだが、それが通るかどうかでひと悶着があった。平和な帝国においてそれらの業務に軍艦を使う人間などおらず、輸送船以外の船での登録は前代未聞だったからだ。

「ダミー用の輸送船でも買っときゃ良かったんだけどなぁ。そうすりゃ護衛艦って名目ですんなり通ったんだけど……あぁ、後ビームジャマーとスキャンスクランブラー(妨害装置)も積んであるぜ。逃げる敵を追う予定はないんでワープジャマーは取り外しちまったけど」

 太朗の言葉に満足気な頷きを見せるマール。彼女は「そういうのは警備会社に任せましょう」と言うと、主な担当となるだろうスキャンとエンジンまわりをいじり始める。

「核融合炉がふたつあるのね……回路が独立してる……安全対策? どこかで合流させられれば……こっちの制御関数でまとめられないかしら……」

 新しいおもちゃを与えられたかのように、ぶつぶつとひとりの世界に入り込むマール。こうなると手が付けられない事を太朗は知っていたので、しばらく彼女を放っておく事にする。

「こちら中央管制室。アラン、そっちはどう?」

 小型化された補聴器を耳にあてて太郎。BISHOP上に"アラン"の文字が浮かび上がり、波形と共に音声が発せられる。

「"どうも何もないぜ、最高だ。船の中に船が納まるってのは変な気分だがな。スターダストの他に二隻船が収容してあるようだが、偵察船か?"」

「そうそう。アシスト用のスキャンを積んだ船で、戦闘はからっきしだけど評判はいいみたいよ。無人でも動かせるみたいだけど、その場合はジャミングに気をつけろだってさ。過去に乗っ取られた事案もあったみたい」

「"4428事件の事か? あれは乗っ取られたわけじゃないんだがな……まあ、大丈夫だ。この辺は任せてくれて構わない。腐っても元帝国軍人だからな"」

 アランの満足気な声に「おっけ!」と返すと、BISHOP上の時計を確認する太朗。もうそろそろなはずだけどと顔を上げた所で、管制室の入り口のドアが開く。
 開いたドアから入ってきたのは、黒髪の美しい妙齢の女性。一見しただけでは人間と見紛うだろうその体には、明らかにサイボーグとわかる有機皮質の接続ラインがいくつも走っている。

「おまたせしました、ミスター・テイロー。有機素材の扱いには慣れていないのですが、似合っておりますでしょうか?」

 自らの腕へと視線を落とし、不思議そうな表情を見せる小梅。

「あ、あぁ……凄く似合ってる。そうしてるとまるで人間だ……それよりさ――」

 一歩二歩と足を進める太朗。彼がかつてプレゼントしたボディの表面は上皮組織で覆われており、これにより彼がかねてより最も欲していた能力を、彼女は手にしているはずだった。

「なぁ小梅、笑って見せてくれよ」

 きょとんとした顔で首を傾げる小梅。彼女は何か思い当たったように視線を上げると、太朗にとびっきりの笑顔を見せつけた。


船と共に、小梅さんも成長
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