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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第2章 ライジングサン

第24話

 小梅の言葉に声を失う太郎とマール。

「ニューラルネットに繋がらないて……さっきの衝突が原因か?」

 太郎の言葉に機械の首を振る小梅。

「いいえ、ミスター・テイロー。兆候に関してはこの星系に入る前からありました。よって太陽風が原因とも考えられません。稀にある接続障害かと思っていましたが、どうも様子が違いそうですね」

 小梅の言葉に、マールが「他のネットワークを試してみるわ」と続ける。

「ソーラーシステム(星系)ネットワークには繋がるわね。ステーションのローカルも生きてるわ。どういう事? ニューラルネットだけ落ちてる?」

 マールは不可解そうな顔でそう発すると、「もしもし、こちらDD-4649プラム。DD-4649プラム」と管制塔へのコールを始める。

「小梅、広域スキャンかけて。テイローちゃん嫌な予感がぷんぷんするよ」

 太郎の声を受けて、小梅が手早くスキャンを開始する。光学式スキャナーは受け取った光を分析するだけなので、基本的には悪環境に強い。ただし電波式のように物を透過して見る事が出来ない為、障害物の多い環境での使用は絶望的だ。また、得られる情報も多くは無い。

「ミスター・テイロー、付近に我々以外の船舶は検知されていません。ですが、少し気になる点があります」

 小梅のもったいぶった答え。重要な答えがあるのだろうと判断した二人が顔を向ける。

「この付近に存在するデブリの量が、平均値から想定される量のおよそ440倍も検知されています。何らかの大型の事故か、もしくは最悪の想定をすべきかと思います」

 冷静に語られたその内容に、大急ぎで戦闘態勢を整える太郎。今の所敵は検知されていないが、用心しておくに越した事は無いと。

「テイロー、ステーションの管制塔に繋がったわ……あぁ、なんて事……テイロー。今すぐ逃げましょう。このステーションは無人よ」

 マールの言葉に、きょとんとした顔を向ける太郎。

「……はい? え、無人て、誰もいないって事?」

「そうよ……今ソーラーシステムにアクセスして確認したけれど、全員脱出して避難したっていう録音が再生されたわ。今そっちにも流すけど、覚悟してね」

 返答を待たずにすぐさまBISHOPへと送られてくる通信の声。太陽風の影響と思われるひどい雑音の混ざった声が、太郎の耳へと届けられる。

「"――――らアデラ第一ステ……管理委員会。繰り返す。こちらアデラ第一ステーション管理委員会。我々は……数のワインドによる攻撃を受け、自衛部隊はこれに敗退。今か……時間前にステーション……棄を決定。ニュ……ネットの接続は未だに……せず。避難先はSG……ターゲイト。ステーションは……られた。繰り返……ステーションは乗っ取られた。ステーションには恒星へ向けて軌道を…………のむ"」

 無言で録音の声を聞く太朗。雑音を弾く為に二度三度と再生すると、青い顔を持ち上げる。

「乗っ取られた……ステーションを? ワインドに?」

「そう、言ってるわね。小梅、ステーションの軌道を計算できる?」

「はい、ミス・マール。少々お待ちを…………出ました。確かにステーションは恒星アデラへ向けた軌道を取っているようです。ワインドによるものでしょうか?」

 顔を傾けてそう発する小梅。それに太朗が「わからんけど」と続ける。

「何がなんだかだけどさ。乗っ取られちまったってくらいだから、せめて一矢報いてやるって所じゃねえか? 軍は田舎にはこねえって話だしさ」

 太朗の声に、しんと静まり返る船内。いくらかの沈黙の後、マールが「とにかく」と口を開く。

「早い所ここを出るわよ。あのステーションにはワインドがいる可能性があるんでしょ? 仕事はキャンセルになっちゃうけど、事情が事情だし仕方ないわ」

「まあ、そうだあね……こちらプラム。アラン、そっちのドライブ装置は無事? 飛べる?」

「"こちらスターダスト。あぁ、無事だぜ大将。ジャンプ先はどっちのスターゲイトだ?"」

「うーん、正直あんま関わるのもアレなんだけど、気になるから避難先ってなってる方にしようか」

「"了解。ただ、あんまオススメはしねえぜ。場合によっちゃ向こうで戦闘中なんて可能性もあるだろう"」

 アランの言葉に「そうなんだけどねぇ」と太朗。彼はディスプレイの表示をプラムのチェック用モニターへと切り替えると、派手に壊れた箇所を眺めて溜息を付く。

「ただ、何の事情があったにせよ一言文句言いたいじゃん? 逃げるならビーコンぐらいちゃんと破棄しとけってさ。ほんの数秒ずれてたらうちらばらばらだったんだぜ?」

 太朗の声に頷くマール。

「確かにそうよね……法改正で賠償金は取れないにしても、責任を追及する事は出来るわ。裁判に持ち込んで、ぎゃふんと言わせてやろうかしら」

「あ、なんかぎゃふんって久しぶりに聞いたな」

「アイスマンである貴方にそう言われては、ミス・マールの立つ瀬がありませんよ、ミスター・テイロー。どちらにせよ行くなら早くした方が良いでしょう。ここに留まって何か益があるとは思えません」

 小梅の声に「まあ、そだな」とオーバードライブ装置の準備を始める太朗。小梅に向かって「どういう意味よ!」と叫ぶマールを横目に、もう一度ステーションに残されていた録音を再生する。

「相変わらずひでぇ雑音だな……ん?」

 雑音の中に、かすかに捕えた違和感。

「太朗、準備出来たわ。オーバードライブ始動するわよ」

「あぁ、いや。ちょっと待ってくれ。なんか聞こえた気がする」

 先ほど感じた違和感を元に、神経を耳へと集中させる太朗。そこへマールが「解析機を使えば?」とBISHOP越しに関数を送り込んで来る。

「さっすが未来。ソナー員とかいらねえのな」

 感嘆の声を上げる太朗に「そういうわけじゃないわ」とマール。

「解析結果は情報の羅列だから、本当の意味での解析は結局は人がやらないと。あんたの情報解析じゃないけど、人によってはサウンドアナライザーより正確な情報を導き出す人も居たりするらしいわよ」

 太朗のBISHOP上に音声解析によって得られた情報が羅列され、項目毎に整理されたデータが無数に表示されていく。太朗はその中に"音声"とされる項目が二つあるのに気付き「ビンゴ!」と声を上げる。

「本当にあった……あんた耳がいいのね。古代人はやっぱり身体能力に長けてるのかしら?」

 驚くマールに対し「うっせぇぞ未来人め」と返す太朗。小型の補聴器を耳に押し当てた太朗は、そのまま抽出した音声の再生を始める。

「"……ジェンシー、エマージェンシー。こち……デラ第一ステーション。誰か気付いた方は応答をお願……ます。エマージェンシー、エマージェンシー……"」

 雑音交じりの音声。若い女性と思われるそれに、憐憫を覚える太郎。ステーションに愛郷精神が宿るのかどうかは知らないが、住み慣れたそこを追われるのは決していい気分ではないだろうと。

「もういい、行こう。エマージェンシーコールをしてるだけだ……無事だといいやね」

 少し沈んだ表情で太朗。そこへマールの「待って」という声がかかる。

「エマージェンシーコール? そんなの聞こえないわよ。さっきからステーションの番地を答えてるだけだわ……室内スピーカーに切り替えましょう」

 マールの手により、音声の出力先が室内へと切り替えられる。徐々にボリュームの上げられた音声が、雑音と共にスピーカーから流れ始める。

「"願いです。誰か……て。こちらKH-3352ブロック。ワインドが……るわ。もう奥の区画が…………の受信機が故障してま……誰か"」

 録音時間の設定値が過ぎ、再び静まる室内。マールが「おかしいわね」と声を上げる。

「またさっきと違うわ。これテイローが聞いてた奴?」

「うんにゃ。違うな。俺の時はエマージェンシーエマージェンシー言ってたぜ」

「違う? いったいどういう…………ちょっと、まさか!!」

 目を見開いて立ち上がるマール。一瞬遅れて太朗もその事実に気付き、「おいおいおいおい!!」と動揺の声を上げる。

「これ、録音じゃねえって事か!? あそこにまだ誰かいるってか!?」

「小梅!! 管制塔の位置を割り出して!!」

「了解です、ミス・マール……ところでこれは確認なのですが、対象のステーションにはワインドによる脅威が高い確率で存在するものと思われます。それでも救出に行かれるおつもりですか?」

 小梅の声に顔を向ける二人。

「当たり前だろが!!」
「当たり前でしょう!!」

 二人の声が同時に室内へ響き、そして再び沈黙が訪れる。

「……はい、わかりました。ミス・マール。ミスター・テイロー。KH-3352ブロックは、向かって左舷方向にある桟橋の付け根にあたる部分です。光点信号を送りしました」

 小梅がそう発すると、ディスプレイ上に表示されたステーションの該当部分に青い光点が表示される。

「サンキュー、小梅。機関一杯、目標正面。マール、ダメだとは思うけどこっちからも呼びかけてみて。それと、プラムからスターダストへ。状況はわかる?」

「"こちらスターダスト。あぁ、聞こえてるよ。信号座標も受け取った。足ならこっちの方が断然早いぞ、先行するか?"」

「こちらプラム。そうしてくれると助かる。敵がいるようだったら回避してこちらに情報を送ってくれるかな」

「"こちらスターダスト。了解。それじゃ行って来る"」

 長い光の尾を吐きながら、ぐんぐんと加速していくスターダスト号。質量に対するエンジン出力の割合がプラムとは比べ物にならない程大きい為、その加速力はプラムの数倍にのぼる。

「さて、そんじゃこっちは戦闘準備と行きますか」

 太朗は久々となる戦いに身構えると、頭の中にある戦いの為の知識を総動員させ始めた。


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