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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第2章 ライジングサン

第19話

「チキュウを探してる? 伝承上の惑星? オーケイ、楽しいジョ-クだな。で、本当のとこはどうなんだ?」

 無事に今回の配送先となるステーションへと到着した太郎。ステーションの中にある洒落たバーにて、コールサインC111ことアランが茶色の髪をかき上げながらそう発する。体格の良いアランは背も太朗より頭ひとつ高く、こうしてカウンターへ並んで座っている姿は他所から見れば大人と子供に見えるのではと太朗は思う。

「いや、本当なんだって。仕事は路銀稼ぎにやってるだけで、本命は探し物なんだよ」

 慣れない高級感のある椅子で尻をもじつかせながら太郎。アランは度数の強いアルコールをぐいっと煽ると、「へい、隠すなよ大将」と続ける。

「ブラックメタルで武装した軍用艦で探し物~なんて通じるわけねぇだろ。運んでる中身も中身だし、何よりお前さん戦いのやり方ってのを知ってる風だったぜ。軍の秘密作戦か何かか?」

「軍人に見えるとしたら、眼鏡をかけた方がいいんじゃないかなアラン。知識としてはあるけど、本当にただの一般人だよ」

「ふうん……まあ、言えねえ事だってあらぁな。なぁ大将、俺も一枚かませろよ。いい働きをしてみせてるぜ? "便利屋アラン"つったらこのステーションじゃあちったぁ有名なんだぜ」

 手にしていたアルコールを全て飲み干すと、すぐにディスプレイから追加を注文するアラン。飲みなれていない酒の味に戸惑う太郎が、それを横目にちびちびとやる。太郎としては前の戦いで彼のパイロットとしての腕前を見ていたので――彼は小型のフリゲート艦でワインドを3つも撃墜していた――コープへ加入してくれるというのであれば大いに助かると思っていた。だが、マールにああやって釘をさされた以上、気軽に許可できるというものでもない。

「便利屋って、いわゆるあのなんでも屋ってやつ? 便利って言っても、何が出来るの?」

 値踏みするかのようにアランを観察する太郎。そんな太郎に「お、来たな?」といった様子でニヤリとした笑みを浮かべるアラン。

「便利屋に"何が出来るか"なんてのは無粋な質問だぜ大将。基本的にはなんでもだ。やれと言われればやれる範囲でなんでもやる。それが便利屋だ」

 まるで謎かけのようなアランの返答に、それは答えになっているのだろうかと首を傾げる太郎。アランはその青い瞳で太郎の顔を見つめると、「どんな世間知らずだい」と続ける。

「便利屋つったらステーションじゃあ人気の職業じゃねえか。あんた軍学校直進のエリートか? まぁいい。説明するより見てくれれば早いさ」

 そう言うと、胸に着けていたバッジからチップを取り出すアラン。太郎はそれがパルスチップだとわかった為、受け取るとすぐさま額へと張り付ける。

「……なるほど。そういう事ね」

 チップから送られてきたのはアランの、いわば履歴書のようなもの。どんな技能を持ち、今までどういった仕事をどう終わらせて来たのか。それらがリストとして羅列されている。仕事内容は多岐に渡り、とても全てを読む事は出来なさそうだった。

「船舶の操縦。整備。情報収集から、掃除に料理までなんでもござれか。確かになんでも屋って感じだね……こうなるとむしろ逆に聞きたいんだけどさ、8年もこれだけの仕事こなしてて、なんでわざわざうちに?」

 太郎の質問にニヤリと笑い、「匂いだな」と答えるアラン。

「金儲けの匂いがぷんぷんするんだよ、大将からな。詳しくは聞かねえけど、あんたデカい事やろうとしてるだろ。俺にはわかるぜ」

 アランの言葉に、別に間違っているわけではないので「あぁ、まぁ……」と曖昧な返答をする太郎。失われた惑星の情報を探すというのは、どう考えても小さい事とは言えないだろう。

「へへ、やっぱり思った通りだ。何も今すぐコープに入れてくれとは言わないし、外注として仕事を回してくれるだけでも構わない。リストの人数を見てくれればわかるが、最大5人まで作業にあたれる。船は1つだけどな」

 アランの説明に「りょーかい」と太郎。彼はそれに「参考までに聞かせてほしいんだけど」と続ける。

「5人もいてそこそこの稼ぎがあるなら、どうしてコープにしないの? 色々優遇が効きそうだけど」

 太郎の質問に「自分で立ち上げるって事か?」とアラン。

「それができりゃあ苦労しねぇぜ大将。立ち上げにいくらかかると思ってんだ? 努力した事が無いとはいわねぇが、ちょいと難しいな」

 アランの困ったような反応に「そっかぁ……」と太郎。彼は何の努力も無しに大金を手にしていた為、いくらかばつの悪い思いをする。

「ちなみにその5人の中に、じょ、女性がいたりとかは?」

 太郎の質問に、アランが肩を竦める。

「残念ながら全員野郎どもさ。それがどうし……大将。もしかしてあんた……童貞かい?」

 ビクリと震える太郎。アランはそんな太郎をにやりと眺めると、太郎の耳元に顔を寄せてくる。

「安心しなよ兄弟。俺もだぜ。ちなみに、ポルノホログラフの裏ワザに興味があったりするか?」

 太郎は、アランの雇用を決めた。



「ドゥンガ、ドゥンドゥンガ!」
「ドゥドゥンガドゥン!」

 奇声を発しながらマールへとにじみ寄る、太郎とアラン。

「ドゥンガ?」
「ドゥドゥンガ?」

 怪訝そうなマールへと顔を向け、妙な恰好のまま静止する二人。

「何よそれ、気持ち悪い……っていうか誰よそいつ」

 嫌悪感丸出しのマール。その声色に太郎は、彼女がアランについては声しか聞いた事がなかったという事を思い出す。

「ドゥンガー」
「ドゥドゥンドゥンガー」

 男二人は姿勢を低く身構えると、じりじりとマールとの距離を詰める。

「え、何。ちょっと、怖いんだけど」

 眉を顰めるマールに、再び動きを止める二人。太郎がアランを見て「ドゥンガ?」と発すると、アランが「ドゥンガ」と返す。

「もう、なんなのよ……」

 意味がわからないといった様子のマール。太郎とアランはもう一度「ドゥンガ?」と発すると、マールへ期待の眼差しを向ける。逡巡した様子の後、口を開くマール。

「…………ドゥ……ドゥンガ?」

 少し恥ずかしげな表情で、太郎達を伺うようなマールの視線。

「イヤッフゥーーーイ!!」
「ヒャッハーーーー!!」

 マールの声に、ハイタッチを決める男二人。

「ミス・マール。ミスター・テイローの息から高濃度のアルコールが検出されています。太古の昔から言われている通り、酔っ払いは放っておくのがよろしいかと」

 ステーション内のホテル。その一室にて、うんざりとした表情の部屋主ことマールへ向けて、小梅が発する。マールは「臭いでわかるわよ」と答えると、おもむろに太郎へと蹴りを加える。

「はぁ……お酒を飲むなとは言わないけれど、勝手に部屋へ入るのは感心しないわよテイロー。あんたの場合無意識でも開錠しちゃうだろうから、マジでいつか捕まるわよ?」

 股間を抑えてもだえる太郎を見下ろすようにしてマール。彼女は自らのポシェットから何やらシート状のものを取り出すと、太郎の首筋へペタリと張り付ける。

「ドランカーシート。えっと、肝臓にアセトアルデヒド分解酵素を出させるシートよ。二日酔いになりたく無かったら明日までつけときなさい……ところでそろそろ、そちらの方の紹介を頂けると有難いのですが。社長」

 まるでゴミを見るかのような視線に、素早く正座になる太郎。彼はいくぶん醒めてきた頭で、アランについてを説明する。

「便利屋……なるほど、そういう事ならいいかもしれないわね。調べものに関しては、わたしやあんたじゃ限界があるだろうし」

 意外にもすんなり通った話に、拍子抜けをする太郎。思った以上に便利屋というのは信頼されている職業なのかもしれないなと、彼は脳内職業ランキングに変更を加える。そんな太郎を尻目に、マールと小梅に向かって「これからよろしくな」とアラン。

「えぇ、よろしくお願いします、ミスター・アラン。ところで貴方は、従軍経験がおありなのでしょうか」

 小梅の言葉に疑問符を浮かべる二人。アランは「何の話だい?」と首を傾げる。

「いえ、気になさらずとも結構ですよ、ミスター・アラン。ただ、いくら被弾による損傷があったとはいえ、良く塗装された軍用装甲板をそれだとわかったものだと、実に感心いたしまして」

 小梅の言葉にはっと息を飲む太郎。アランの方へ視線を移すと、バツが悪そうに頬をかく姿。

「おおう、ドジったなぁ……あぁ、確かに従軍してた事があるぜ。窮屈が過ぎるんで一年しかもたなかったけどな。履歴の改ざんじゃないかってんだろ? 大丈夫だよ。俺は除名されてるし、むしろ政府の指示で従軍記録自体が抹消されてる」

「抹消って、ただごとじゃないわね。何をやらかしたのよ」

「ん~、大したことじゃあないぜ。ちょっと軍のネットワークにハッキングしただけさ。自信があったんだが、いやぁ、見事に捕まったな」

 そう言うと、笑い声を上げるアラン。太郎とマールは顔を見合わせると、「大丈夫だろうか」と目で意思の疎通を行う。

「そう心配しなさんなって。ハッキングしたのは上司の不正を暴く為で、情状酌量の余地ありとして除名処分で済んだんだ。考えても見ろよ、普通は軍のデータバンクのハッキングなんてやったら、裁判も無しに即死刑だぜ?」

 太郎は帝国政府の趣向について全くの無知ゆえに判断がつかなかったが、マールの納得した様子の表情から大丈夫そうだと判断する。

「まあ、仕事に失敗した事が無い俺様の恥ずかしい過去ってやつさ。忘れてくれると助かる。それよりあんたらの行動方針をもう少し詳しく教えてくれないか。良くわからん探し物をしてるとしか聞いてないんだ」

 太郎はマールと小梅を一瞥して確認を取ると、いくらかぼかした形ではあるが、目的の全容を話し始めた。


「なるほど、居住可能な未知の惑星ね……うさんくさい話だが、もし本当にあったとすりゃあデカいな。宝の山だ」

 腕を組み、真剣な表情のアラン。そこへマールが口を開く。

「正直どうしようか悩んでる所なのよ。とりあえず情報が欲しいから、アンドアステーションに向かおうと思ってるんだけど」

「いや。向かうならデルタステーションの方がいいだろう。両方とも同程度の規模だが、アンドアは政府施設と人口、デルタは経済だ。情報量が圧倒的に違いすぎる。政府に用事があるってんなら別だがな」

 アランの情報に、BISHOPを起動して地図を眺める太郎。

「ふむふむ、デルタステーションは……ここか。現在地から24ジャンプ先。遠いなぁ」

「えぇ、ですがデルタステーションまでは長距離ジャンプが使えますよ、ミスター・テイロー。時間と料金のどちらを優先するかにもよりますが、実質的に6ジャンプで行けますね」

「それは、あれか。高速道路みたいなもんか……う~ん、さすがにこれは時間を優先するべきかな」

 太郎はそう言うと、素早く移動にかかる経費を計算し始める。

「というわけでまぁ、今後ともよろしく頼むぜ大将。俺達は全員ひとり身だからな。デルタに拠点を移すよう、話をつけとくぜ」

 アランから差し出される右手。
 太郎はそれを取ると、「こちらこそ」と笑顔を返した。


ホログラフは情報量が多すぎる為、ネットワークでは送れません。チップを実物で配送する必要があるのですね。
その内本編内で語るかもですが。
+注意+
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