世界の中の日本

共通点が多い偽ベートーベンとSTAP細胞研究者若いときにちやほやされ、嘘が当たり前になった哀れな人生

2014.03.19(水)  伊東 乾

 第1の、論文に掲載する決定的なファクトに手を入れるというのは「虚偽の内容を公刊」するという、研究者が一番やってはいけないことで、この時点で「クロ」です。

 理化学研究所(理研)の記者会見報道を見る範囲で申しておりますが「電気泳動」の生データを提示する際「はっきり写っていなかったから(?)」として違うデータからの切り張りを行った、これが事実であるとすれば、この時点で処分は免れません。

 「論文に張った写真」を、何か記念撮影かスナップと勘違いするようなコメントも見かけましたが、これは例えて言えば、お医者さんが、

 「患者の肺のレントゲン写真を撮ったけれど、ガンがあってほしいところにはっきりガンが写っていませんでした。そこでそこだけ、鮮明に写っているがん細胞の写真を張り付けました。でカルテを書き、保険料を請求し、お金が入りました」

 みたいないことを言っているのと同様、と書けば、分かっていただけるでしょうか?

 私にはバイオサイエンス実験の詳細は分かりません(たぶん理研の野依良治理事長も分からないと思います)。

 ただ、私がかつて指導していただいた実験物理の分野でも、1次データとして得られた記録を勝手に「はっきりしないから」と改変したりしたら、それは虚偽であって、仮に似たような状況で取った別のデータであったとしても、諸般の細部には大きな違いがあり、切り張りの結果はすでに基礎科学の生データとしての信頼性を一切持たない代物になります。

 私は物理学を途中でドロップアウトした音楽家ですから、実験物理の現場についてはあれこれ言う資格がないと自分自身思っています。が、極低温物性実験を教えていただいた恩師・小林俊一先生は野依さんの前の理研理事長をお務めになられ、サイエンスデータの厳密な取り扱いについては学部2年次から厳しくご指導を頂きました。

 かつての出来の悪い学生として、いま、音楽に関連して測定装置を一から作ってデータを取るような際には、師に恥じないようできることはきちんとするよう努力しています。

 東京大学に着任して15年、普通に学位審査など考える観点から、今回のネイチャーに発表されたSTAP細胞論文には、信頼性を欠くデータが公開されるという不正があった。ここまでは間違いのない事実と思います。

より根の深い「博士論文」撤回問題

 ネイチャーに発表された論文は「不正」でしたが、もっと問題だと思うのは、早稲田大学に提出された博士論文に、延々20ページも他人の文章をコピー&ペーストして学位を取得していたという問題です。

 実験系の研究室の本音として「データ関連が大切で、博士論文(D論)としての体裁を整えるだけの「太刀持ち・露払い」の部分なんかは、「適当にありもの、新聞でも張り付けときゃいいんだよ」「どうせ誰も読まないんだから」というような意識があったのだと思います。

 これはいけません。あきらかに「盗用」で、この論文は撤回されるべきでしょう。こうした不正を指導教授がどこまで認識していたかは、厳重に調査されるべきですが、少なくとも査読者として、これを見逃していたわけですから、責任は免れ得ません。

 万が一、既存論文の盗用を知ったうえで学位を発給していたと立証されれば、職位を追われるレベルの不正と言わねばなりません。博士の学位研究を指導する教員として倫理的に明らかに不適格ですから、懲戒免職などの判断があっても、全く不思議ではありません。

 実際、学位審査では、多くの先生がそのペーパーの「心…
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