米欧の制裁に対するロシアの返答は明確だった。一切の譲歩を拒む強硬策である。

 プーチン大統領は、クリミア自治共和国のロシア編入で共和国指導者たちと合意した。ロシアの議会に対しても、承認の手続きに入るよう求めた。

 編入の是非を問う住民投票からわずか2日後の出来事だ。

 ロシア議会では、全会派が大統領の決定を支持している。手続きが済めば、ロシアはソ連崩壊後初めて領土を拡大する。

 それはロシアにとって最悪の選択である。経済とともに、大国としての地位と信頼を決定的に傷つけることになろう。

 プーチン氏は、ロシアが過去に結んだ約束の重みを考えるべきだ。

 ウクライナはソ連の崩壊後に独立したあと、ロシアおよび米英と覚書を交わした。国内の核兵器の撤去と引きかえに、主権や国境を尊重することを保証した内容だった。

 さらにロシアは、黒海艦隊の駐留継続を事実上の条件に、クリミア半島をウクライナ領と認める条約も結んでいる。

 こうした約束を公然とほごにし、不当な手続きでクリミアを併合すれば、自国の利益本位に他国の主権や領土を侵したソ連の行動と違いはない。

 米欧はロシア高官らの資産凍結などを決めた。それでもプーチン氏が強気を崩さないのは、今の米欧には荷の重い軍事対応などに踏み込む力はないと見限っているからだろう。

 だが、足元のロシア経済は、米欧との対立激化に耐えるほどの体力があるとはいえない。

 もともと不安な投資環境から外国資本の流出が加速する。資源依存からの脱却は遅れる。成長が鈍った経済に、さらに打撃を与えることは間違いない。

 クリミア危機を平和的に対話で打開することが、ロシア自身と周辺地域に最も大きな利益となるのは明らかだ。

 危機はさらにウクライナ東南部へ広がる恐れもある。ロシア系住民の保護を理由に、プーチン氏が東南部にも武力介入する選択肢を残しているからだ。

 そうなれば、ウクライナ軍も対抗措置に動かざるを得まい。新たな戦争がそこに生まれる。プーチン氏がいま突き進めている領土拡張の動きは、21世紀の国際社会に対する深刻な挑戦なのである。

 軍事衝突の防止に向け、欧州安保協力機構(OSCE)は監視団の派遣を急ぐべきだ。日本を含む主要国グループは、プーチン氏に対する有効な説得策を早急に見いださねばならない。