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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第1章 ゴーストシップ

第11話

新たな生活の場へ。
SFに出てくるような宇宙ステーション。いつかは実際に出来るんでしょうね
 宇宙ステーション内部の一室。太朗いわく学校の体育館と評された広い部屋の中、山のように積まれたガラクタに囲まれる男女の姿。

「ねえテイロー。このパーツを取り外したいんだけど、なんとかなる?」

 ガラクタの山から顔を上げてマール。太朗は読んでいた子供用の絵本から顔を上げると、マールの方へ歩みながらBISHOPを起動させる。

「まぁた暗号か……はいはい、やるからそんな怖い顔しないでね。ちなみに素朴な疑問だけどさ、なんで船のパーツを結合するのにいちいち暗号化なんてされてんだ?」

 太朗はBISHOP空間に浮かぶ複数の暗号関数を目にすると、それの解読をしながら訊ねる。

「なんでって、そうしないと危険でしょ。操船中にパーツがはずれたら大事故に繋がる可能性があるわ」

「あぁ、いやいや。それはわかるんだけど。そうじゃなくて、そもそもソフトウェア上からハードを分解できる仕組みがおかしいんじゃないかって話よ。欠陥じゃね?」

「そうかしら。軍の戦艦や何かはそうなってるのもあるみたいだけど、基本的には整備性の方が大事だからじゃない? ハード的に結合されてたら取り外すのも一苦労だけど、BISHOPならあっという間だわ」

「ふぅん……言われてみればロックボーイもあっという間に新品みたいになってたもんな。パーツごと取り替えてほい終わり、てなノリ?」

「そういう事。壊れた部品の方はゆっくりと修理して、新しくなったらまた予備として使うのよ。宇宙ではちょっとした事故でも命取りになる事があるから、大抵の船にはそういった予備パーツが積まれてるものよ」

「なるほどなぁ……ほい、いっちょあがり」

 ぱちんと指を鳴らす太朗。それと同時にマールの前に置かれている船体の部品がゴトリとはずれ、その内部機構をむき出しにする。

「相変わらず反則的ね、あんたのBISHOP……というよりあんたの脳ね。普通にアンロック業者に頼んだら三日はかかる所よ? もうこの際泥棒にでも転職したらどうかしら」

「ふっ、俺が盗むのは女性のハートだけって決めてるんだ」

「はいはい、うるさいわよ童貞」

「どっ! どどどど童貞ちゃうわ!!」

「い、いや。冗談よ……あ、この回路生きてるわ!!」

 マールは取り外した部品の中からこぶし大のチップを取り外すと、日の光に透かすように掲げてみせる。

「大型貨物船用のドライブ補助装置だから、結構な額になるわよ。これで今週のあんたへの給料が払えそうね」

 にこにこと取り外したチップを眺めるマール。そんな彼女につられる様に、太朗も笑顔を返す。

「おおう、そいつぁ良かった……しっかしサルベージャーってのも大変なんだな。こんな地味な作業もしなきゃならんとか、俺なら即投げ出しそうだ」

 太郎がマールの仕事場に住み込むようになってから約半月。彼女の仕事が廃棄船のサルベージ業と聞いて当初こそ胸を高鳴らせた太朗だったが、予想に反してその実態は、ほとんどがこういった地味な解体作業だった。

「そりゃそうよ。廃棄船の割り当ては決まってるから、そうそうしょっちゅう宇宙に出れるわけでもないわ。当たり外れも大きいし、何より大型船は全部Corpの方に行っちゃうから」

「コープ? 誰?」

「Corporation。会社の事ですよミスター・テイロー」

 鉄屑の奥から聞こえた声に振り向く二人。しばらくするとガラクタを乗り越えるようにして現れる小梅の姿。

「ご苦労様小梅。そっちはどう?」

 ガラクタ山の頂上で、ランプを点滅させる小梅。

「えぇ、順調ですよミス・マール。売却可能と思われる大体の目録は作成を終了しました。ミスター・テイロー、もう一度確認しますが、本当に船の中枢は売却せずに残しておくのですね?」

「おうさ。それ以外の部分だけでも売ったら結構な額になるんだろ?」

「はい、結構というのがどの程度を差すものかにもよりますが、ミスター・テイロー。恐らく貴方が一生遊んで暮らせるだけの額にはなると思いますよ」

「……はい? え? 嘘。そんなになんの?」

 驚く太朗をよそに、具体的な金額を提示して見せる小梅。太朗は今まであの船を完全に粗大ゴミ扱いしていた為、昼飯の回数へと換算されたその金額に驚愕を覚える。そんな太朗に溜息を吐くマール。

「あんたねぇ……逆に聞くけど、古代人ってのは一家に一台巡洋艦サイズの船舶を持てる程みんな金持ちなわけ?」

 マールの言葉に、言われてみれば確かにと納得する太朗。地球とは価値観が違いすぎて具体的な感触は得にくいが、金持ちがクルージング用の船を所有するような感覚だろうかと想像する。

「なんてこった。気付かぬ内に俺は札束で誰かを殴ると言う夢をかなえる事ができる立場に!!?」

「さぁ……あんたの趣味を邪魔するつもりは無いけど、あたしにやったら殴るわよ」

「むしろご褒美です!!」

「レンチで」

「ごめんなさい!!」

 素早く土下座をする太郎。彼自身なぜ土下座をする必要があったのか理解出来なかったが、なぜか反射的にそうしてしまった。

「ところでミスター・テイロー。これだけの資金を手にして何をされるつもりですか? 一生をまるで生きる目標を持たずに親の脛をかじり続ける一家の不良債権のように過ごすおつもりですか? 小梅は別に止めませんけど」

「もうそれ素直にニートって言おうよ!! それに止める気満々だよねそれ!!」

「そうね、私も興味あるわ。投資にでもまわすつもり?」

 マールの言葉に「急にそんな事いわれてもな」と頭をかく太朗。

「そもそも物欲や何かの元になる知識自体がねぇからなぁ……あ、でもやりたい事ならあるな」

 太朗の言葉に興味深げな視線を投げかけてくる二人。太朗はしばらくあごに手をやり考えると、さも当然とばかりに答える。

「地球を探したい。その為に船がいるな」

 飛び出した言葉に唖然とした顔を向けるマール。そして無言のままの小梅。

「それも、とびきりデカいやつだ」



「船のマーケットっていうからさぁ、なんていうかさぁ、超でっかい見本市みたいなの想像してたんだけどぉ。テイローちゃんちょっと期待はずれっていうかぁ」

「なんかムカつくわねその話し方……それよりあんた。やっぱり考え直した方がいいって。地球なんて星、本当にあるかどうかすらわからないのよ?」

 ステーションに存在する船舶マーケットの展示場。大小様々な船のホログラフが表示される中、多数の客と共にのんびりと歩く二人。

「いやいや、あるさ。実際そこで育った若者が言うんだから間違いねえって」

「それも何かの間違いよきっと。銀河帝国は少なくとも5千年以上存在してるけど、いまだ確認すらされて無いわよ?」

「いや、そう言われてもなぁ……あ、でもあれだろ? 伝承上では残ってるんだろ?」

「うーん、あんたが言ってるのはいわゆる人類単一惑星発生説ってやつでしょうけど、あれは科学というより、ほとんど宗教の領域よ?」

 どうしても船を買うのをやめさせたいのか、やたらと食い下がってくるマール。太朗はそれを気にするでも無く展示されている船を見つめていたが、その内のひとつ。流線型の船体を持つひときわ大きな船に目をとめる。

「お、これかっちょいいな。何よりデカい。というわけで、これなんてどうでしょう小梅先生」

 ベルトに下げた球体へと目を向ける太朗。いつも通りに点滅するランプ。

「これはDD-E559、サンダーボルトという船ですねミスター・テイロー。資金的には問題ありませんが、駆逐艦に乗っていったい何と戦うおつもりですか?」

 小梅の言葉にしばし考え込む太朗。

「なぁマール。いつか戦ったあのワインドって奴ら。あいつらどこにでもいるもんなの?」

 太朗の言葉に「そうね」と続けるマール。

「基本的には銀河のそこら中に分布してるけど……もしあんたが本気で見知らぬ惑星を探すつもりなら、間違いなく外宇宙の方に行く必要があるわね。そうなると敵はワインドより、むしろ人間の方よ」

「人間? 犯罪者がいるって事?」

「えぇと、犯罪者って呼んで言いかどうかは微妙ね。外宇宙は銀河帝国の勢力圏外だから、基本的にあっちは無法地帯。法が無いんだから、犯罪って呼べるかどうか難しい所でしょ?」

「わお、時はまさに世紀末すぎるだろそれ……でも、そうか。人が普通に生活してる様なとこだったらとっくに見つかってるわな」

 太朗は顔を上げると、展示室の壁に設けられた窓の向こうを見やる。空気が存在しないそこには、無限とも呼べる数の星々が眩いほどに瞬いている。

「……ま、探し場所は多い方が燃えるってもんさ」

 太朗は自分でも無知ゆえの蛮行であると心得ていたが、全く勝算が無いわけでも無かった。彼自身間違いなく地球で暮らしていたという記憶があり、少なくともここへ来る事が出来ているという事実。そして何より――

「小梅、帰ったらニューラルネットワークにアクセスして、地球型の惑星についてちょっち調べちくり。そう数は多くないっしょ?」

「えぇ、了解です。しかし肯定はできませんね、ミスター・テイロー。地球型というのは恐らく居住可能な惑星の事だと思いますが、この銀河系だけでも――」

 彼には、心強い味方がいた。


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