戦時中に日本に強制連行され過酷な労働を強いられたとして、中国人元労働者らが三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)を相手に損害賠償を求めた裁判で、北京市第1中級人民法院(地裁に相当)は18日、原告らの提訴を正式に受理した。中国の裁判所が強制連行被害者の訴訟を受け入れるのは初めて。

 北京の裁判所が受理したことで、中国各地にいる他の被害者や遺族が原告に加わったり、各地の裁判所に同様の訴訟を起こしたりする可能性が高まった。

 今回訴えを起こしたのは元労働者と遺族の計40人。1人当たり100万元(約1650万円)の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めている。2月の提訴後、3人が加わった。原告側代理人の康健弁護士は18日、受理決定を受けて原告らと記者会見を開き、「被害者の権利を守る上で重大な意義がある。裁判所は断固として司法的な主権を行使するはずだ」と語った。

 康弁護士によると、受理決定は今後、被告側にも伝えられ、審理が始まるのは数カ月後になる見通し。原告側は、中国から連行され被告の2社で働いた労働者は9400人余りに上るほか、強制連行の被害者は中国全体で約3万9千人に達し、日本企業35社が関与したと主張している。

 中国の裁判所はこれまで、元労働者らが過去に起こした損害賠償請求の訴えを受理してこなかった。背景には裁判所を影響下に置く中国指導部による日中関係に対する配慮もあったとみられるが、歴史問題をめぐる両国政府の対立が深まる中、中国が対処方針を変えた形だ。(北京=林望)