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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク) 作者:Gibson

第1章 ゴーストシップ

第9話

ようやく一区切り!!
「ええと、なんていうか……あんたの言う事が全部本当だとすると、正直怪しすぎるわ。関わりたくないんだけど」

「デスヨネー。ソリャアソウデスヨネー」

 太郎は外線越しに聞こえる声にがっくりと項垂れたが、心は喜びで一杯だった。なにせもう二度と会う事もなかったかもしれない自分以外の誰かであり、1年ぶりに会う生きた他人なのだ。

「やっぱ戸籍も船籍も無いってのはどうしようも無いんすかね?」

 太郎は勢いに任せてに自分の境遇を全て彼女に話してしまったが、もう少し考えて喋るべきだったろうかと後悔した。嘘をつくとまでは行かなくとも、話す事で不利になるような内容は避けるべきだったかもしれない。

「はぁ? 戸籍も船籍もクレジット次第でどうとでもなるわよ。それより問題はそのオーバーライド装置と4千の死体よ。どう考えても真っ当な代物じゃないわよ、その船」

「いや、死体の方は宇宙葬ってんだっけか? カーゴ(貨物室)にまとめて射出したんでもう無いんだ。小梅の計算だと2万年後にどっかの恒星へ突っ込むらしい。ご冥福を祈っていいのかな?」

「どっかのって……緊急事態だから仕方ないだろうけど、あんたも良くやるわね」

 マールは呆れた声でそう発すると、「とにかく」と続ける。

「助けられたお礼にステーションまでは牽引するけど、後は自分でやって頂戴。そのサイズの船だと入港料も馬鹿にならないだろうし、何より監察官に見つかりたくないわ。うちは真っ当な商売が売りなんだから」

「ええぇぇ……そう言わずに助けてくれよぉマールたぁん。一文無しなんだよぉ、右も左もわかんねぇんだよぉ」

「何よそのマールたんって……」

「助けてくれないとある事ない事言っちゃいそうだよぉ。サルベージ屋のマールたんとは共犯者ですぅみたいなー」

「ちょ、ちょっと! 冗談でもやめなさいよ!!」

「どうせ俺には失うものなんて何もないんだ。うへへ、やってやるぅ、やってやるぜぇ」

「あんた……随分いい性格してるわね。でもダメよ。あたしは一銭の得にもならない仕事はしない主義なの」

 マールの頑とした声色に唸り声を上げる太郎。そこへ今まで傍観していた第三者の声が割って入る。

「私からひとつ提案があるのですがよろしいでしょうか、ミス・マール」

「えっと、構わないけれどどちら様かしら。乗員はひとりって聞いてたんだけど」

「これは失礼をミス・マール。私はミスター・テイローの所有物である小梅と申します。以後お見知りおきを」

「やめて!! どう聞いても勘違いされるからその言い方やめて!!」

 慌てて小梅をぺちぺちと叩く太郎だが、小梅はそれを無視して続ける。

「まずこの船の所有権は間違いなくミスター・テイローの元にある事は、わたくし小梅と帝国政府が保証致します。船内にある各種記録から、裁判でも十分に通用するだけの確証性が得られると断言します」

「えぇ、それは聞いたわ。続けて」

「はい、ミス・マール。ところでミスは、先程この船がワインドへ衝突した際の事をご覧になられたでしょうか。激しい衝突であったにも関わらず、この船の装甲板は多少変形したのみで健在です」

「そうね、見てたわ。ねぇ、それって何の――」

「ブラックメタルのIN型です」

 マールの声を遮るように小梅。太郎には何の事だかさっぱりわからなかったが、外線の向こうでマールが息を飲む音を発した事に気が付いた。

「俺を置いてかないで下さい小梅ちゃん。なんすかね、そのブラックメタルって」

「はい、ミスター・テイロー。ブラックメタルはチタンのような金属に炭素繊維を特殊な製法で混ぜ込んだ合金を差します。強く、柔軟で、シールド伝導性が高い。加工が容易で無い点を除けば、装甲に理想的な金属です」

「ほぅ、なんか硬いと思ったらそういう事ね。IN型ってのは?」

 太郎の質問には小梅では無く、外線の向こうから届いた。

「IN型はタイプインペリアルネイヴィー。つまり帝国海軍仕様よ。正直、余計あんたと関わり合いを持ちたくなくなったわ」

「えぇ、そうかもしれません。ですがミス・マール」

 AIらしからぬ、まるで表情を読んでいるかのような溜め。

「これは、非常に高価です」

 どうだと言わんばかりの一言。3人の会話が途絶え、しばし無言の時が過ぎる。

「…………負けたわ。取り分は?」

 呆れたとばかりにため息と共にマール。太郎は小さくガッツポーズを取ると、口を開く。

「そっちの言い値でいいぜ。こちとら金銭感覚の無さにかけてはさっぱりだからな!! うへへ!!」

「えぇぇ!? 何を威張ってるのよ! というか、交渉相手に丸投げって頭おかしいんじゃないの?」

「肯定ですミス・マール」

「そこは否定しようよ小梅ちゃん!!」

「はぁ……まぁいいわ。それじゃあロッキーの修理代を肩代わりしてもらうって事でどう。決して安くはないわよ?」

「じゃあそれで」

「…………あんた。その内ぜっっったい、悪い奴に騙されるわよ」

 外線から聞こえる呆れ果てた声色と、回線を切断するノイズ音。太郎は両手を掲げて仁王立ちになると、大声で喜びの声を発した。



 ――"ドッキングアプローチ 開始"――

 BISHOPの画面上に表示される、大きな警告表示。太郎は刻一刻と近づいてくる巨大な宇宙ステーションに心奪われながらも、船をドックへ入れる為の微妙な姿勢制御関数を操作し続ける。

「でけぇ……想像してたのより100倍はでけぇ……」

 目の前に広がる円筒形の宇宙ステーションは、太郎の記憶の中ではむしろスペースコロニーと呼ばれる物の方に酷似していた。ガラス面こそ無いが、ソーラーパネルに覆われた巨大な本体と、そこから四方に伸びるドック用の桟橋。桟橋にはそれこそ数えきれない程の船舶が停船しており、そこかしこを大小さまざまな宇宙船が行き来していた。

「ミスター・テイロー、たった今ステーションから情報を受け取りました。このアルバステーションは人口600万人を擁する中型ステーションのようです。近くにスターゲイトがあるようなので、主要惑星との中継地点として利用されているようですね」

「これで中型かよ……って、ステーションに人が住んでんの?」

「……質問の意味が良くわかりません、ミスター・テイロー。銀河帝国住民の98%はステーションの居住区で生活しています。当り前の事では?」

「えぇぇ!? そんなんもう完全に宇宙人やん。カルチャーショックってレベルじゃねえぞ!?」

 ――"警告 所定の自動アプローチプログラムを使用せよ"――

「あ、はい。ご丁寧にどうも。でもこの船エンジン無いんで、もらったプログラム使えないっす」

 目の奥に表示される、ステーションからの邪魔な警告表示に突っ込みを入れる太郎。彼は目まぐるしく更新される船の情報を元に、姿勢制御ジェットを細かく調整していく。

 ――"警告解除 ルート正常化"――

 太郎は質量の大きさから逆算し、姿勢制御のジェットを全てブレーキへと転用する。元々亀のようにゆっくりではあったが、その速度がさらに減速して行く。

 ――"警告 所定の自動着艦プログラムを使用せよ"――

「や、だからこの船エンジンねえって言ってんだろがコンチクショウ!! つうかよ、こちとら着艦用の足もついてねえんだよ!!」

 半ばキレ気味に叫ぶ太郎。彼が最後のジェット噴射を極短い時間行うと、船はステーションとの相対速度がゼロに。すなわち完全に制止する。

 ――"ドッキング完了 ようこそアルバステーションへ"――

 太郎は「そいつはどうも」と呟きながら、ステーションの桟橋から細いワイヤーがいくつも伸ばされる様をディスプレイ上で眺める。やがて蛇のように曲がりくねった管が延伸し、こちらの船の出入り口へとジョイントを果たす。

「お疲れ様。ねえあんた、さっきの何? 随分不規則なドッキングだったみたいだけど。マニュアル操作でもしたの?」

 小雪から聞こえるマールの声。

「うーん、マニュアル。なのかなぁ? わかんないけど、その場でプログラムを更新しながらやったぞ」

「……ごめんなさい、言ってる意味が良くわからないわ」

「えぇぇ。や、だからその場で着艦プログラム作りながらだよ。しょうがねえじゃん。これもう船って呼べるかどうかすら怪しい代物なんだから」

「……えぇと、リアルタイムって事? 呆れた……あんたって、もしかしてギフト持ちなの?」

「ギフト? 申し訳ないがベイビー。プレゼントはこの身ひとつで許してくれないかい」

「……まあいいわ。そっちに迎えに行くから待ってなさい。どうせ歩き方もわかんないんでしょ?」

「歩き方て。こちとら二十年近く歩き続けてらぁ!!」

 マールの物言いに何を失礼なと突っ込む太郎だったが、ものの数分後にはまさにその通りだと納得せざるを得ない状況に。

 彼は船を降りれば無重力空間が広がっている事を、完全に失念していたからだ。


地の分が少ないと、キャラの書き分けが非常に難しい事が判明。
そら特殊な語尾をつけたくなるわけだ……
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