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「痛み」が僕らを現実に引き戻してくれる 山川冬樹インタビュー

インタビュー・テキスト:徳永京子 撮影:相良博昭(2014/03/18)

ロシア連邦トゥバ共和国に伝わる喉歌、ホーメイの歌手であり、心臓の鼓動や頭蓋骨の響きなどを、電子聴診器や骨伝導マイクなどを使って可聴・可視化した唯一無二のパフォーマンスで世界的に知られる山川冬樹。彼が2011年に出演した、三島由紀夫原作、宮本亜門演出の舞台『金閣寺』が今年4月再演されることになった。

初演では、いわゆる商業演劇作品でもある同作の中で、ハイインパクトなパフォーマーとして、観念的な役どころ「鳳凰」を演じきり、周囲を驚かせた山川。メインキャストが全て入れ替わった再演でも、重要な役を続投することになった山川に、舞台『金閣寺』について、そしてあらためて三島由紀夫というアーティストについて詳しく話を聞いた。

※山川は2011年に、一人のアートコレクターに自らが口にする「パ」という音節を100万円で売却。24時間、365日、「パ」という音節を一切口にせずに生活するというプロジェクトを開始、現在も継続中。インタビュー中の「パ」はすべて「ピャ」という音節に代えて発音されたため、その通りに表記させていただいています。

PROFILE

山川冬樹(やまかわ ふゆき)
ホーメイ歌手 / アーティスト。自らの声・身体を媒体に視覚、聴覚、皮膚感覚に訴えかける表現で、音楽 / 現代美術 / 舞台芸術の境界を超えて活動。己の身体をテクノロジーによって音や光に拡張するパフォーマンスを得意とし、歌い手としては日本における南シベリアの伝統歌唱「ホーメイ」の名手として知られる。活動の範囲は国内にとどまらず、これまでに15か国でパフォーマンスを上演。自ら構成・演出を手がけたパフォーマンス作品『黒髪譚歌』、『Pneumonia』(『あいちトリエンナーレ2010』)などもある。パフォーマンス活動の一方で、展示形式の作品も発表。声と記憶をテーマにしたインスタレーション『the Voice-over』(2008年)は、東京都現代美術館に収蔵されている。

僕だけジョーカーみたいな存在でしたね(笑)。でも、亜門さんは僕をうまく機能するように使ってくれたと思います。

―山川さんが宮本亜門さん演出の舞台『金閣寺』に出演されると聞いたときは驚きましたが、金閣寺の鳳凰の役だと聞き、半分は納得、半分はさらに驚きました(笑)。まず、オファーを受けたときのことから教えていただけますか。

山川:まず僕は、いわゆる演劇作品に初めて出たのが、飴屋法水さんの『4.48サイコシス』(2009年)でした。亜門さんはそこで初めて僕を観て、その後に僕がやった『黒髪譚歌(こくはつたんか)』(2010年)という自作自演の舞台も観に来てくださって、その後にプロデューサーさんから連絡があったんです。「金閣寺を象徴する役をやってほしい」と。そのときは、どういう役なのかよくわかりませんでしたが(笑)、あまり迷わず引き受けました。

『金閣寺』(2011年)
『金閣寺』(2011年)

―初演はニューヨーク公演などを挟み、稽古も含めるとトータルで1年以上となる長期プロジェクトでしたね。

山川:音楽の世界はずっとサイクルが早いので。それに比べると確かに拘束は長かったですね。でもちょうどその頃、長期的なプロジェクトに関わってみたいという気持ちもあったので、長い時間1つの作品に取り組むのは、良い経験でした。

―実際に、それまでと違うペースの作品作りに関わった印象は?

山川:これまでも、それなりに稽古期間の長い現場は経験してきたんです。『黒髪譚歌』や『Pneumonia』など、ソロのシアターピースを二つ作ってきましたし、飴屋さん演出の舞台も、川口隆夫さんや横町慶子さんなど、ダンサーや役者さんとのコラボレーションも、蛍光灯の音具「OPTRON(オプトロン)」で演奏するアーティストの伊東篤宏さんや、ドラびでおの一楽儀光さん、ストリップダンサーのMASHとユニットを組んで、『ヴェネチアビエンナーレ』のダンスフェスティバルに参加したときも、稽古やリハーサルにはそれなりの期間を費やしました。でも亜門さんの現場が大きく違ったのは、建物を建てるみたいに作品が出来上がっていくところですね。

山川冬樹
山川冬樹

―まず土台、次に柱というように、順序立ててということですか?

山川:そうです。設計図通りにつつがなく作品が組み上がっていく。これまで僕が知ってる現場はだいたい手探りで、いろいろな試行錯誤を経て何とか出来上がって行く感じだったのですが、『金閣寺』は制作の行程がかなりはっきりしていて、ベテランの役者さんが多いからか、演出家が要求したことにすぐ応えられて、とても建設的にものごとが進んでいるように見えました。

―その中で山川さんはどういう立ち位置だったのでしょう? 小説の地の文にあたる部分も発話されていたり、全体としては台詞の多い作品ですが、山川さんはホーメイを歌うなど、与えられた表現方法が他の俳優と違いました。

山川:僕だけジョーカーみたいな存在でしたね(笑)。やはり僕は役者じゃないので、ぜんぜん芝居は得意じゃないんです。でも亜門さんは、そういう僕をサンプリングして、舞台でうまく機能するように使ってくれたと思います。もちろんお芝居ですから「ここで溝口(主人公)を見つめる」といった指示もあって、そういうところは少し頑張ったんですが(笑)。ただ、亜門さんはこの作品をいわゆるオーソドックスな「お芝居」にはしたくないという気持ちがあったから、僕や大駱駝艦のメンバーを投入したと思うんです。だからこちらから「こんなのはどうか?」と実演してみせて、いくつか提案した中から亜門さんが選択することも多かったですね。

山川冬樹

―ジョーカーのような存在、というのは言い得て妙ですね。ストレンジャーだから混じり得ないし、いざというときは何者にもなり得る。

山川:やはり飴屋さんとの『4.48サイコシス』に出演したことが大きかったです。演劇作品に出たのはそれが初めてでしたし。「演技をする」のでなく、「そうあるべくして舞台の上に存在する」ということをそこで知りました。

―では舞台に存在することについては、『金閣寺』ではあまり苦労せずできた?

山川:「そこで菩薩のように微笑もう」と言われて、実はいまだにそれは苦労してるんですけど(笑)。それでも僕はジョーカーとして、僕のままでいながら舞台に存在させてもらっている気がします。でも、舞台に出ても、二息しか歌わせてもらえなかったりして、実はもっとガンガンやりたいなぁとか思ったりもしたんですよ。僕は歌手だし声を出してナンボだと思っているので。でも、観にきた人から、客席から観ると、僕の存在と不在が、すごく効果的に生かされていると聞いて「なるほど」と。


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