1999/01/31 朝日新聞朝刊
武器使用 周辺事態、装備守るため可能(ガイドライン法案Q&A)
Q 国会審議で「武力行使と一体」とか「一体ではない」という話をよくしているけど、新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)による周辺事態法案は、自衛隊に武器の使用を認めているの。認めたら、それって武力行使にはならないの。
A 武器を使えば必ず憲法で禁じている「武力の行使」になるというわけではないんだ。政府は「自分の生命や安全を守るための最小限の武器の使用は、武力行使と受けとめられることはない」という考え方を取っている。
法案はまず、米軍への後方地域支援などの活動について「武力による威嚇や武力の行使に当たるものであってはならない」という原則を示している。そのうえで、攻撃を受けて海上に漂っている戦闘員らを救う捜索救助と、不審な船の積み荷などを調べる船舶検査について、自分や仲間の安全を守るために武器を使えると定めているね。
Q どうして、その二つの活動についてだけ特に認めたんだろう。
A 例えば船舶検査するため相手の船に乗った場合、いきなり短銃で撃たれるとか、危険な目に遭う可能性もあるからね。
Q それ以外で武器を使うことはないの。
A いや、法案には入っていないが、政府は、自衛隊の艦船などの装備を守るために武器を使えるとしている自衛隊法九五条を、後方地域支援などをしている自衛隊にも適用できるという見解なんだ。
Q どういうこと。
A たとえば船舶検査のために自衛隊の艦船が、相手の船に近づこうとした時、相手側から攻撃を受けたとする。その場合、艦船を守るために反撃できるというわけだ。国会でも民主党の岡田克也氏が「国連平和維持活動(PKO)協力法は、武器防護のための武器使用は除いているのに、周辺事態法案では除かれていない」と指摘していたね。
Q PKOに派遣された自衛隊には認められていないんだ。
A そこが周辺事態法案とPKO協力法の大きな違いの一つだ。野呂田芳成防衛庁長官は、装備を守るための武器使用について「わが国の防衛力を構成する重要な物的手段を破壊、奪取する行為から武器などを守る必要最小限の行為だ。憲法の禁じる武力行使にはあたらない」と答えていた。
Q でもPKOでは認めていないのに、どうして周辺事態だと認められるの。
A PKOで派遣された自衛隊は外国で活動する。他国領土内で武器の使用を広げれば、武力行使になりかねないという心配があった。それに、派遣された自衛隊はPKO要員として活動するけど、後方地域支援などは、まさに自衛隊員として活動するので「自衛隊法が適用されるし、改めて周辺事態法案に盛り込む必要もない」という理屈のようだ。
実際問題、後方地域支援と言ったって、日本周辺で紛争が起きている中での活動だから、何が起こるか分からない。そうした事情も考えているんだろう。
Q 武器や装備を守るとなると、大がかりな使用につながるんじゃないの。
A 確かに装備を守るための武器については、相手が使った武器に合わせて使用できると解釈されている。使われる武器が際限なくなりかねないね。
Q 自由党は以前、船舶検査をやるうえで、威嚇射撃とか武器の使用を認めるように自民党や政府に求めていたんだって。
A うん。法案は、船舶検査の任務をするための武器の使用は認めていない。信号弾や照明弾を上空に打ち上げて、こちら側の存在を相手に示すことはできるが、相手に向けてはだめということだ。実弾による威嚇射撃もだめ。もともと、相手の同意を前提にした検査だからね。
自由党との協議で、自民党は「威嚇射撃は武力行使と見なされる恐れがあり、憲法九条に触れかねない」と主張した。連立を組むため、安全保障政策の合意文書をまとめた際には、こうした対立点は「今後、両党間で議論を深める」となっている。再び論点となる可能性もあるね。
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