習近平国家主席率いる中国共産党がきしみ始めている。9日間にわたって行われた第12期全国人民代表大会(全人代=国会)の会期中に、不穏な事件が相次ぎ発生していたのだ。インターネットには、雲南省昆明市で1日に発生した無差別襲撃事件でウイグル族を拘束した治安当局に対する“報復声明”も流れる。政権転覆を狙った大規模なテロに発展する懸念もあり、治安当局は警戒を強めている。

 「法と規律に違反した人間に対しては、地位の高低にかかわらず厳しく取り締まる」

 全人代が閉幕した13日、会見に臨んだ李克強首相はこう述べた。

 深刻化する官僚の腐敗問題に強い姿勢で臨むことを改めて強調した李氏。ナンバー2から発せられたメッセージの背景には、政権が抱く強い危機感がある。

 「解消されない貧富の差に庶民は強い不満を抱いており、その鬱積が政権批判に向くことを恐れている。官僚の腐敗問題への取り組みをアピールするのは“ガス抜き”の意味合いがある」(中国公安筋)実際に習政権への不満や怒りは、急速に勢いを増している。

 全人代が開幕した5日。中国共産党(中共)の要人が集結した会場の人民大会堂から約1キロ離れた天安門前で異変が起きた。

 中共に内通する太子党(高級幹部の子弟)関係者が明かす。「天安門広場で突然、火の手が上がった。公安部の警官隊は火を付けた不審者を取り押さえ、現場を一時封鎖した。首都で起きたものの、大々的に報じられることはなく、公安当局の専門紙が『突発的事件を未然に防いだ』とひっそりと報じただけだった。時期が時期だけに『習政権を標的にしたテロ未遂事件だ』との情報が出回った」

 関連は明らかではないが、米国の中国語ニュースサイト「多維新聞」など複数の海外メディアによると、同日午前、天安門広場で40歳前後の女性が焼身自殺を図る事件があったという。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」には、黒煙が上がる現場を映した画像が複数投稿された。

 この事件の翌日6日には、天安門に掲げられた故毛沢東主席の肖像画にペンキのようなもので落書きされている形跡も見つかっている。

 天安門といえば、昨年10月、ウイグル族とみられる家族の乗った車が歩道に突っ込み炎上した場所だ。全人代の会期中、公安当局はさまざまな事態を想定し、最大級の厳戒態勢を敷いていただけに、党内部に与えた衝撃は大きかったという。

 「公表されていないが、会期中に刃物を持った男が公安に取り押さえられる事件もあった。習政権は相当、神経をとがらせている。火が上がった5日の事件に関して、火を消し止めた警官を異例の早さで表彰し、治安維持に努めた者に論功行賞を行う方針も発表した。反体制派への恐怖感の強さの表れだ」(先の関係者)

 全人代直前の1日には、雲南省・昆明駅で刃物を持った集団が通行人ら170人以上を次々と襲撃する事件が起きている。

 治安当局は新疆ウイグル自治区の独立を求めるグループの犯行と断定し、ウイグル族の容疑者5人を拘束したが、ネット上には「中国烈士旅団の指導者」による治安当局への報復を掲げた“犯行声明”も流れ、不気味な空気が占めている。

 『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)の著書があるジャーナリストの富坂聰氏は「北京には政府の政策に不満を抱える陳情者が集まる村があり、彼らが日常的に抗議活動を繰り返している。ただ、最大級の警戒を敷いているはずの天安門でこれだけ事件が相次ぐのは明らかに異常だ。政権の“たが”が外れてきている。治安当局も抑えきれないほどに反乱分子が膨れあがっている」と解説する。

 「1つのテロや事件が模倣犯を次々と生む。負の連鎖を起こさせないために中国政府は情報をひた隠しにするが、散発的に行動を起こす反乱分子が1つにまとまり、大規模な反政府テロに発展すれば、政権基盤も危うくなる」(富坂氏)

 首都の異変は、習政権の終わりの始まりか。