父にささげる金メダルだ。レスリングの国別対抗団体戦女子ワールドカップ決勝(16日、東京・板橋区立小豆沢体育館)、日本はロシアに8階級全てで勝利し、2年ぶり7度目の優勝を果たした。11日に父の栄勝さん(享年61)を亡くした55キロ級五輪3連覇の吉田沙保里(31=ALSOK)はマリア・グロワ(24)に完勝。父の形見のタックルで、53キロ級でも世界の頂点に君臨し続けるレスリング女王の舞台裏秘話を公開――。
悲しみを心の奥底にしまい、勝負師に変わった吉田が完勝だ。第1ピリオド、グロワを横から崩してコントロール。ニアフォールのポジションに持っていき4―0とリードすると、第2ピリオドもパワーとスピードで圧倒した。5分33秒、テクニカルフォールで勝利。大歓声の中、スタンドで声援を送る母・幸代さん(59)に手を振ると、マット際で見守っていた父の遺影を両手で抱きしめるように触った。「父に『やったよ』『勝ったよ』って言いました。お父さんも一緒に戦っていた。吉田家のレスリングができて良かった」と笑顔がこぼれた。
つらく、苦しい6日間を超人的な精神力で乗り切った。11日に変わり果てた父と対面したが、涙が止まらず、崩れ落ちるように泣き続けた。食事もろくに取らず、父の傍らを離れず悲しみに打ちひしがれた。13日の通夜を前に、訃報を知ったたくさんの教え子や親戚、知人が自宅を訪れた。教え子たちが「吉田先生!」と泣き叫ぶたびに、吉田の目にも涙があふれ出た。
それでも、試合に出ることが吉田家の教えだ。何よりレスリングを優先してきた栄勝さんが「何をやっているんだ! 試合に出ろ!」と言うことは分かっていた。試合前日の14日、告別式を終え三重から東京に移動。チームに合流し、わずか40分間だけ仲間と練習を行った。3日以上、体を動かしていない。本来なら試合前日は体調を最高の状態に整えなければならないが、息はすぐに上がり、練習後も足がむくんでパンパンに腫れ上がった。「ノドから血が出そうだった」(吉田)。これまでにない最悪の状態でも圧勝できたのは、父が後押ししてくれたからに違いない。
舞台裏ではこんなことがあった。今大会、吉田は栄勝さんの遺影を携えていたが、父の形見の品を東京に持ってくることはなかった。栄勝さんは教え子がたくさんおり、人望も厚かった。愛用していたTシャツや練習着、ベルトといったものは、タンスの中から教え子たちが形見分けで片っ端から持っていき、吉田は何も手にしなかったという。
それでも女王は納得している。その理由は――。「いいんですよ。あの子はタックルをもらいましたから。タックルが形見です」(母の幸代さん)。タックルさえあればいい。父直伝の必殺技が最高の形見分けだ。
初の53キロ級でも、父の教えである攻めるレスリングを貫いた。中量級から軽量級に変わり、ライバルはひと回りもふた回りも小さく、よりスピードやキレが求められる。栄和人監督(53)は「本当ならもっと速く動けるし、パワーもあった。練習での動きを比べれば今日の出来としてはまだまだです」と分析。心身ともに条件が揃えば女王はさらに強くなるという。
吉田自身も「もっと上にいけるのかなと思う。リオ五輪に向けて頑張りたい」と気合を入れ直した。体にしみこんだ父の教え、そして形見のタックルを生かし、新たな舞台でも世界の頂点に立ち続ける。
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