さまざまな思いが行き交った時間だったに違いない。

 北朝鮮による拉致事件の被害者・横田めぐみさんの両親が、めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんやその家族と、モンゴルで面会した。

 ウンギョンさんの存在が明らかになってから12年近く。会いたい気持ちと、「北朝鮮で会えば拉致問題の幕引きに利用される」という心配との間で揺れた夫妻の心情を察し、面会実現を喜び合いたい。

 日朝両政府は、19日から再び外務省課長級の協議のテーブルにつく。北朝鮮の真意を見極めつつ、交渉レベルを上げていくことができるかどうか。拉致事件にとどまらず、核・ミサイル問題も含めて粘り強く、したたかな交渉が求められる。

 最近の北朝鮮の対日重視の背景にあるのは何か。もちろん、崩壊した経済の立て直しのために日本から支援を得る狙いがあるのだろう。

 加えて、金正恩(キムジョンウン)政権になってから滞っている中国や米国との関係を改める環境づくりの思惑もあるはずだ。

 正恩氏が権力を継承して2年がたつが、まだ一度も中国を訪問できていない。一方、中国の習近平(シーチンピン)国家主席は数カ月のうちに訪韓し、朴槿恵(パククネ)大統領と会談するとみられている。

 北朝鮮の思惑がどうであろうと、日本はこの機会を逃すべきではない。同時に、留意しなければならない点もある。

 北朝鮮の核開発に関する6者協議は、08年12月に中断したまま再開のめどはたっていない。それを尻目に北朝鮮は昨年2月に3度目の核実験に踏み切り、国連安保理の決議にもとづく制裁を受けている。

 日朝の当局者が水面下で交渉を重ね、首脳会談で故・金正日(キムジョンイル)総書記に拉致を認めさせた02年とは、国際的な環境が決定的に異なるのだ。

 「拉致問題は、私の内閣で解決に向け全力を尽くす」

 安倍首相はこう繰り返している。横田さんはじめ被害者家族の高齢化が進んでいることを考えれば、当然の姿勢だろう。

 同時に、何をもって解決とするのか、核をめぐる6者協議にどうつなげていくのか、難しいかじ取りを迫られる。目先の結果を求めて焦るのは禁物だ。

 この点で、中韓と足並みをそろえられる関係にないのは、つらいところだ。

 日本政府は、24日からオランダで開かれる核保安サミットで日米韓の首脳会談を模索する。北朝鮮問題を話し合う好機である。無駄にする手はない。