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ちょっとネタバレ。
今回で、横島がどんな未来から帰ってきたのかが少しだけわかります。
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第十五話
ファイヤーフォックスとブルーサンダーが生き残ったのは、たぶん魔鈴さんに初歩の魔法を教えてもらったおかげだと思う。
だから正面からお礼を言うと笑われてしまった。
魔鈴さん曰く、「お礼で魔法を教えたのにそれにお礼をされたらいつまでも終わりませんよ?」とのこと。
でも、そんなすてきな縁だったら終わらない方が嬉しい。
美人と仲良く、これが人生の方針だから。
「もう、そうやってナチュラルに女性を口説くんですね」
「え?」
おもわず惚けると、魔鈴さん再び大爆笑。
まぁいいんですがね。
美神さんも実は「魔法箒」回収の依頼を受けていたので、労せず依頼完遂となってご機嫌だったし、良いことばかりだなぁ、と思わず笑っていた。
久しぶりの除霊の仕事。
というか、スライムだよスライム。
あの、一粒でも残っていると痛い目に遭うあいつ。
それを俺が退治できれば全額依頼料をくれるという美神さんだったけど、俺はジト目。
「なによ、依頼料全部あげるって言うの本当よ?」
「・・・スライムがどんなものかぐらい知ってるっすよ」
もちろん、前の時の記憶。
「・・・あはははは、ちゃんと勉強してるのね。関心関心」
「もちろんっすよ、命に関わるっすから」
「「あはははははははは」」
「行きなさい、師匠命令」
「・・・外部協力の許可をください」
「依頼料は上がらないわよ?」
「スライム相手にDクラス認定がオカシいっすよ」
「しょうがないでしょ?ゲームの影響で、むちゃくちゃ弱いイメージがあるんだから」
「協会がそんなイメージで格付けしないでくれ・・・。」
「まぁ、規模によっちゃぁ格付けもねじ込んであげるから。ね、お願い」
ぱん、と手を合わせる美神さん。
確かに道具使いGSには辛い依頼だ。
「わかりました。ただ、格付けあげても依頼料はあげなくて良いですよ?」
「・・・ギク」
やっぱそうか。
差額をせしめようと言うわけね。
あの「時」と同じホテルの同じ現場での作業。
今度はおびき出した後逃げられないように、自分制作の霊符で結界を張った。
入れるところは一点。
出られるところはない。
そんな結界に俺は追い込んだ。
待ちかまえているのは湯上さんと笹倉さん。
結界の維持と恒常的な連続攻撃をファンネルでお願いしている。
俺は俺で結界を維持しないといけないので、結構面倒なのだ。
「これがCクラス依頼? うそでしょ?」
「削っても削っても減らない・・・」
「えーっと計算上、あと30分ほどで一気に消せる大きさになります」
「「やーーーーん」」
本当はタマモと二人でやろうかと思ったんだけど、火力が強すぎるので不許可。
シロも同じ理由なのでだめ。
というわけで、先日知り合った湯上さんと笹倉さんに声をかけたところ、二つ返事でOKがでた。
とても有り難い話だった。
「横島君との仕事が、楽にすむはずがないとは思ってたけど・・・・。」「さすがにきついわ。」
まぁ、それでも都合二時間ほどファンネルを維持できたのは、さすが六女OGと言ったところかな?
そんなこんなでスライムを見事駆逐完了。
一応、見鬼君で精密捜査して、雑霊以外いないことが判明した。
「というわけで、お二人ともご苦労様でした」
「「おつかれ・・・・・」」
倒れそうな二人のためにそのホテルの一室を借りて放り込んでおいた。
もちろん一緒に泊まったりしてませんよ?
湯上さんと私が助手扱いで呼ばれたのは、某ホテルの除霊だった。
依頼主はホテルでメインは美神令子除霊事務所の横島君。
若手一番の彼がなぜ私達を呼んでくれたんだろう、と思ったけれど、直ぐにわかった。
いわゆる対象がスライムのせいだった。
あれは強い力で攻撃すればするほど飛び散って、後々増えるという厄介な性質がある。
ゆえに飛び散らない空間で、チクチクチクチク攻撃しないといけないのだ。
霊力制御に自信がある人間でも結構つらい作業だ。
ではどうすればいいかというと、比較的攻撃力が少ない人間で連続攻撃すれば、飛び散ることなく消滅までいける。
つまり、攻撃力が少ないからと言う理由だったわけだ。
本当だったら屈辱的だったんだけど、逆に私達の強みともいえる「霊力の維持」という能力が、新霊具「ファンネル」との相性と相まって、すばらしい効果を発揮した。
文句を言いつつも維持し続けた二時間ほどで、あの面倒で厄介で嫌われ者の「スライム」を退治しきったのだ。
もちろん、追い込みつつ結界で封鎖しきった横島君の手腕あっての事なんだけど、それでも私達自身の霊能の有効範囲を新たに知ることが出来たことだった。
だから今回の助っ人代全てを使って奢りたかったのに、横島君がつれてきてくれた店は横島君の昵懇らしく、逆に歓迎されてしまい、サービスですってタダにされてしまった。
今回の仕事の収支と報告内容をみんなで検討して夕飯を食べて、なんというか、こう、一つのチームみたいに思えてしまったのはノボセすぎだろうか?
「じゃぁ、今回はオリジナル横島チームなんですか?」
「あははは、こんなガキがパーティーリーダーじゃ、湯上さんも笹倉さんも迷惑ですよ」
魔鈴めぐみさんの質問に、軽く答える横島君だったけど、その辺には異論がある。
ガキとかそういう問題じゃなくて、横島君が独立するなら、絶対に事務所に参加させてほしいと思うし、正所員がだめなら登録所員でも良いから参加させてほしいぐらいだ。
そんなことを私達は熱く語ってしまった。
ビックリした目の横島君と魔鈴さんだったけど、横島君は真っ赤になって視線を逸らし、魔鈴さんはうんうんと頷いて「私も参加したいですねぇ」と笑っていた。
「横島君の裁量なら、私達レベルのGSを5人ぐらい使っていてもおかしくないわよ?」
「そうねぇ、現場もみれるし交渉もできる。人脈も上々、って本当に優良株じゃない」
「事務所資金は六女基金でいけるし・・・。」
「そうね、私達が事務所参加するならOKね。」
「・・・本当に具体化するなら、店のあるビルのテナントが開いてますよ? 一応横島さんなら安くなりますし」
「「・・・ほんとうですかぁ!?」」
着々と具体化する流れを横島君は止めた。
とにかく、最悪でも高校卒業しないと、事務所に専従できません、と。
私達三人は「ああ、そういえば・・・」と思い出す。
そういえば、彼ってまだ高校生だったんだ、と。
思わず三人とも吹き出して笑い出す。
「でもさ、本当に事務所独立するなら声かけてね。」
「そうそう。それにさ、正直に言うと、これだけ気持ちよく仕事できたのはじめてなのよ。」
「あ、わたしも!」
そう、彼の指揮下は気持ちよかった。
疑問も不安もなく、心のままに動いた結果が彼の指示通りなのだ。
曖昧な言葉はなく、明確な指針が常に示される。
迷わず、たゆまなく戦えたのだ。
こんな気持ちは六女を卒業して以来のことかもしれない。
彼とともであれば、そんな風に感じてしまった。
気になっていたけど、杞憂だった。
協会の調査員の話を全面的に信じれば、クラスB+の仕事を、Dクラス助手二人と共に片づけたという。
投入された道具も、自分のファンネルと自作霊符だけというもので、出費も最小だった。
私の手元にきた内容と寸分の狂いもない調査報告書だった。
ふむ、とため息が漏れてしまう。
これじゃぁ、彼が独立を口にしたら反対できない。
ちょっと前までのセクハラ煩悩状態を懐かしく感じるほどの変わりようだった。
外部ながら格下のGSを積極的に使う姿勢も協会から評価されていて、美神事務所自体がこの方針で行かないかという誘いすら書いてある。
そりゃそうだ。
格安の物件を、一流の事務所が請け負って、さらには格下のGSを教育してくれる。
協会にしてみればこんなにおいしい話があるわけがないけど、そんなボランティアをうちがするはずないのだ。
たまたま横島君の成長具合を試すのに丁度良いものだったので受けたけど、私がメインでする仕事ではあり得ないたぐいものだ。
霊能の違いで私は「道具使い」。
高価な霊具を最大効率で使用するのがスタイルだ。
霊具分の依頼料すら下回るような依頼を受けるわけにはいかないのだ。
逆に横島君は霊具を購入する必要のない霊能者なので、きわめて効率がいいが、自己の霊力頼りなので、危険も多い。
それを補助できる「ファンネル」で、結界や攻撃の一反を維持させているのだから、あれは良い発明だ。
しかし、そのファンネルも実践使用しなければ、その効果と意味はつかめないだろう。
そういう意味では、横島君のような霊能で、人を使うことができるGSが事務所を開くと、C〜DのGS就職が行われ、極めて効率的に仕事が行われることは間違いない。
この話を帰ってきた横島君にいうといやな顔をされた。
どうやら今回一緒に仕事をした人たちにも言われたそうだ。
「あら、独立の足がかりよ? うれしくないの?」
「・・・美神さんは俺を追い出したいんっすか?」
「まさか。ここまで使えるようになったんだから、これを機に稼がせてほしいけどね・・・。」
「ほしいけど?」
「・・・協会の方がどうもきな臭いのよ。」
優秀有能なGSとして協会がバックアップする代わりに、協会の汚れ仕事を回してしまおうとしているようなのだ。
そんな風に言うと、横島君は苦笑い。
「俺も男ですから、いつまでも美神さんの傘に隠れているわけにはいかないっすけど・・・。」
「けど?」
「せめて高校卒業まで時間をください。さすがに学生のまま独立は無謀っす」
「・・・ふふふ、そうね。」
つまり私にも一年ちょっとのモラトリアムが与えられたようなものだ。
いや、横島君の優秀さは既に業界に広がっている。
美神令子の弟子というばかりではなく、六道の秘密兵器としても、あの新興氏族「横島」の次期当主としても、そして妙神山の直弟子としても。
そんな彼を一年ちょっとの間簡単に確保できるとは思っていない。
私自身を使ってでも鎖をつけたい気持ちすらあるぐらいだった。
「ま、その気があるなら、「私」に永久就職って手もあるわよ?」
ウインク一つの私に、真っ赤になって笑う横島君。
まんざら脈がないわけでもないみたいね?
美神さんの胸の内は半分ぐらいは理解しているつもりだ。
まえの「時」でもちゃんとそのへんを告白されているから。
加えて、いまの「時」は前以上に好感度が高い。
慰留以上の感情があることは理解できる。
そうLikeを超えている、そんな感情。
でもなぁ、なんつうか、前のときってテンパッテ暴走してその上で聞けた本音だったから、本気でのめり込んじゃったんだけど、今回は、そう、今だ抜けないとげが復活した所為で身動きがとりにくい。
タマモは「自分のしたいようにすれあいいんじゃない?」なんて気楽に言ってくれるけど、俺にとって見れば美神さんは「あの末に」たどり着いたという印象がある。
まぁ、感覚的な話で「至高の先にある女」、そんな感じ。
もちろん、美神さんが唯の普通の女であることは否定しない。
抱きしめた腕の中の感触も、はにかんだ朝の笑顔も忘れていないから。
でも、逆に、俺が思っている、想っていた、そんな姿をいまだ幻視してしまう。
あからさまに酷い話だということはわかってる。
後々の禍根になることもわかっている。
でも、いまはその夢を見続けたいと想うのは子供過ぎるだろうか?
いや、まるで老人のような感傷なのかもしれない。
これから行う「彼女」の救済を考えれば、今の段階で心を許してしまえば、後がつらすぎるから。
歯を食いしばろう、そう心に決めた。
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2012/04/04 OTR移転版 + 小修正
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