ソチのリンクで観たフィギュアスケート 演技と点数、そして五輪ならではの視点(渡辺佳子) <ソチ五輪コラム>

gooニュース2014年3月16日(日)10:00

○ 女子は難易度の高い連続3回転コンビネーションが決め手

 女子の戦いは、とくにフリーの勝負が、上位陣みな持てる力をギリギリにまで発揮した見応えのある試合でしたね。

 女子の場合、トリプルアクセルを跳べるのは、浅田真央選手しかいませんでしたので、その他の選手は、難易度の高い連続3回転のコンビネーションジャンプでTESを上げるという正攻法をしてきました。ショートの演技が終わって上位に残りメダル争いをすることになった3選手も、やはり3回転コンビネーションでTES得点を伸ばしていたと思います。

 韓国のキム・ヨナ選手は、6分間ウォームアップでは不安気な表情でしたが、演技が始まってみればいつもの飛距離のあるルッツ+トウループの3回転コンビネーションを冒頭で決めていました(基礎点10.10+GOE加点1.50=11.60点獲得)。

 これに対してロシアのアデリナ・ソトニコワ選手は、ショートでは無難策を選んでトウループの連続コンビネーションにしてきました。ですが、このジャンプ、会場で観ていてびっくりするくらいものすごい滞空時間のある高い跳躍で、一瞬ふわっとスローモーションに見えたほど。やはり結果として非常によいGOE加点をもらっていました(基礎点8.20+GOE加点1.60=9.80点獲得)。

 驚いたのはイタリアのカロリーナ・コストナー選手で、トウループ2回のコンビネーションで無難にまとめるかと思いきや、なんと、フリップ+トウループという1本目のジャンプの難度を上げたコンビネーションを跳んできました(基礎点9.40+GOE加点1.50=10.90点獲得)。報道によれば、彼女自身が朝の練習でジャンプ変更を決めたそう。後になって思えば、ここで攻めたことがメダルにつながったと思います。

 若手の中でもフリーを終えて総合成績4位に入ってきたグレイシー・ゴールド選手も、5位のユリア・リプニツカヤ選手も、ともにショートとフリーで、ルッツ+トウループの3回転連続ジャンプを入れ、認定されて加点もついて大きなTESの得点源となっています。村上佳菜子選手のフリーでの3回転トウループ連続のコンビネーションも、勢いがあって私は好きでしたよ。GOE加点+1.00もらっていますね。

 女子のTES上げには、3回転3回転の連続ジャンプが必須。しかもできるだけ難度の高い3回転を含ませて回転不足なく成功させ、なるべく多くの加点をもらうこと。これは今後も変わらないと思います。

 ところでソチ五輪最大のドラマといってよかったのが、女子フリーの浅田選手のフリーでの巻き返し! 冒頭のトリプルアクセルを含め、6種類の3回転ジャンプをすべて入れた上で、合計8つの3回転を跳ぶという、女子としては五輪初の「鬼」プログラムを滑り切りました。ひとつずつ「家族やお世話になった人のことを思って感謝しながら跳んだ」というすべてのジャンプを着氷の乱れなく降りたのは、この4年間取り組んできた技術改革と、何としても五輪で悔いのない演技をという思いの強さの結晶だったと思います。

 ジャッジスコアを見ますとテクニカル判定により、ループとトウループがUR(アンダーローテーション、回転不足)ルッツにはエッジエラーがついたのが残念でした。

 でも記録という即物的なものや、メダル云々という話とは別の次元で、あの「今は何もわからない」と口に出すのが精一杯だったショートから彼女が24時間もたたないうちに、同じリンクに戻って、自分の目標から逃げず正面から戦って勝利した。フィニッシュ時の涙はそれゆえの喜びでしょうし、そこからすっきりとした笑顔になった時、観ている私たちも、ほっと一緒に息を吹き返した気がしました。

 それだけでなく、本人がこだわっていたトリプルアクセルを着氷し、回転も認定された。しかも2大会連続でのトリプルアクセル成功という大記録を残したのですから、本当に快挙だったと思います。

 余談ながら……浅田選手以外の女子選手は誰もトリプルアクセルに挑戦しないのかといえば、そんなことはなく、海外の若手選手は、練習では果敢に挑戦していると聞いています。国内でも、浅田選手の後輩にあたる中京大学附属中京高校在学中の大庭雅(おおば・みやび)選手が、昨年末の全日本フリーで跳んできました。残念ながら転倒でURがつきましたが、ほとんど助走なくポンとトリプルアクセルを跳んできたので、会場がびっくりして「いまのトリプルアクセルだった!?」とささやきあった瞬間でした。

 伊藤みどりさん以来、中野友加里さん、恩田美栄さんがチャレンジし続け、浅田選手が引き継いで跳んできた伝統の日本女子トリプルアクセルは、またも名古屋女子に継がれるのでしょうか。それとも脚力自慢の海外女子が継承者に名乗りを上げるのでしょうか。来季以降の見どころになりそうです!


○ 観客にも選手にも厳しかった競技日程

 選手たちは言い訳を口にしていないと思いますが、今回の競技日程の問題について少し。先ほども書きましたが、競技スタートは現地19時、最終競技者の終了時間は22時過ぎ。そしてショートの後、休みなく翌日がすぐフリーで、しかも公式練習が朝というのは、体力的に厳しかったのではないでしょうか(バンクーバー五輪ではショートとフリーの間に中1日の休みがあったと聞いています)。

 上位選手になればなるほどショートの滑走順は夜遅くなりますし、試合後も記者会見やらマスコミ対応やらがあったと思うので、部屋に戻れたのは恐らく25時くらいではないかと想像します。個人的な話で恐縮ですが、私も毎日それくらいのホテル帰還でした。リンクのある場所は五輪パーク駅から徒歩しか手段がなく、30分ほどもかかるのです。駅からホテル最寄りの駅まで専用電車に乗って、そこでバスを待ってホテルまで。観客は翌日ゆっくりしてまた夜の観戦に備えればよいですが、選手はもう翌朝に公式練習。滑走が早いグループの選手から順なので、滑走が早い場合は早朝からのスタートです。夜中過ぎてから部屋に戻ったのに、午前中にもうリンクに出てジャンプの練習をしなければならないのは、ちょっとキツい日程だったと思います。若い10代の選手なら回復も早いでしょうし多少の無理もきくでしょうが、ベテラン勢には「寝たと思ったらもう練習、疲れが取れていない」という気持ちがあったのではないでしょうか。実際、朝の練習を見に行った人たちから「選手の中には目の下にクマを作っていた人もいた」と聞きました。

 もうひとつ選手たちに厳しかったのではないかと思うのは、今回の五輪で初めて行われた団体戦が、個人戦の前に組まれたこと。これもピークを調整する意味でも、体力的な意味でも、選手には難しいことだったと思います。

 そんな背景があったので、結果的に男女とも10代の選手が金メダルというのは、体力勝負・回復力勝負という側面が少し影響したかもしれないなと思うのですよね。もちろん団体戦でも個人戦でも、好パフォーマンスができたベテランのコストナー選手のような例もありますから、一概に日程のせいだけにはできません。でも、選手は、ライバルの上を行くために自分の技術のギリギリに挑戦すべく要素を組み込んでいます。男子の4回転や、女子の3回転連続ジャンプ、浅田選手の男子並みのトリプルアクセル。こういう技術的に最高難度のものは、体調や集中力を最もいい状態においてこそ精度があがるものだと思うのです。

 長年スケート界に貢献してきた年上世代の選手たちにとっては、それぞれが集大成と考えて臨んできた大会でもあったので、もう少し、選手たちがベストのコンディションで競い合えるようにスケジュールの配慮をしてもらえていたらなと、その点は残念に思いました。


○ 五輪用の音楽は難しい

 五輪の音楽選びは難しいと以前から聞いていましたが、今回それを五輪の現場で、本当に実感しました。

 各国選手権を経て選ばれた代表が競う各シーズンの総括決戦は、通常であれば世界選手権です。そして、4年に一度さらに「総括・オブ・ザ・総括」の五輪がその上に君臨する……私の中での五輪はそのような位置づけでした。

 でも、競技を待ち受ける観客の様子という点でいうと、五輪の雰囲気は明らかに他の大会とは違っているのですね。通常の(とくに日本開催の)競技会は、スケートが好きでずっと試合を観ている層が多いため、誰がどんなプログラムを滑るのかは周知の事実。どこでどういう要素を入れて勝負してくるかもみんなが知っている。音楽についても、フィギュアスケートでよく使われるクラシックは最初から耳なじみがあり、シーズン最終ともなれば使用楽曲は聞きすぎるほど聞いていて、どの音で何の要素が入るかまで把握したうえでその日の演技をウォッチするという準備態勢ができあがっています。

 ところがソチの一般客席で一緒になったのは、どちらかというと観光気分の人たち。国旗グッズを持って集まったグループやカップル、女友達同士や、小さな子ども連れのファミリーといった感じで、スケートに関してはあまり詳しくないようで、それより、隙あらば「ロ・シ・ア!」のコールをみんなでして盛り上がろうしている気配が濃厚。今シーズンの曲には、ロシア開催ということで、意識してロシアの大作曲家のクラシックを選んだ選手もいたわけです。でもこういうごく一般の人たちがそれで盛り上がったかというと、個人的な観察の範囲ですが、ちょっと空振り感があったかなと思います。盛り上がったロシア関係の曲といえば、「黒い瞳」や「コロブチカ」の民衆的な歌のメロディのほうでした。

 また、どんなクラシックの名曲であろうと、誰もが知っているポピュラー音楽であろうと、音が繊細すぎたり静かすぎたりするとあまり響かない様子。演技が素晴らしければじっと見守っていましたが、それ以上の盛り上がりを起こすのは難しかったなと思います。逆に受けていたのは、最初から強いビートでノリがよく、ずっと手拍子ができる曲。つまり簡単に参加しやすい曲。趣味の良さや洗練より、音の派手さや押しの強さが、あのリンクでは選手の助けになっていた気がします。


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