ごくひとにぎりのサポーターの無分別な行為が、スポーツと多くの人々を傷つけた。

 サッカーのJリーグは浦和レッズに対し、1試合の無観客試合を科す制裁を決めた。リーグ史上初となる重い処分だ。

 スポーツ界が人種差別とどう闘うかが問われる事態だ。処分は妥当な判断であろう。

 今月のリーグ戦で、3人の浦和サポーターが、「JAPANESE ONLY」と書かれた横断幕を掲げた。

 「日本人以外、お断り」と解釈できる内容であり、決して許されるものではない。

 浦和はこの3人と、その所属グループに、無期限の活動停止と入場禁止の処分を決めた。

 大きな問題だったのは、浦和の当日の対応だった。

 報告書によると、試合開始の30分ほど前に警備員が横断幕に気づいていた。だが、結果的に試合終了後まで放置した。

 Jリーグの村井満チェアマンは「放置は、クラブが差別行為に加担したと受け止められても仕方ない」と指摘した。

 浦和の社長ら幹部に問題が報告されたのはその日の深夜になってからだったという。人種差別への意識の低さと、組織としての反応の鈍さは、危機的といっていいだろう。

 サッカーの本場である欧州を中心に、人種差別を撲滅する動きは世界中に広がっている。国際サッカー連盟の要請に応じて、日本でも昨年に明文化したばかりだった。

 差別行為の問題の根深さは、多くの場合で、当事者に悪意の自意識が薄い点にある。完全に防ぐことはむずかしい。

 大切なのは、問題が起きたときにいかに速く、どう対応するかだ。

 浦和の例のように、撤去は当事者との合意の上という慣例は見直すほかあるまい。意図が何であれ、差別と広く受け止められる言動や掲示には、即時対応する原則が欠かせない。

 ただ、今回をきっかけに観客を監視、規制する動きが進むとすれば、それも気掛かりだ。

 差別的な行為は見過ごさない一方で、スポーツを楽しむ自由な空気は守る。そんな節度ある姿勢が求められる。

 それはもはやスポーツ界に限った話ではなく、社会全体で取り組むべき課題であろう。

 人種を理由にした排斥を許す余地は、政治、経済、暮らし、どの領域にもない。差別はその被害者だけでなく、社会全体を息苦しくし、自由をむしばむ。

 今回の問題を機に、そんな問題意識を再確認したい。