ビジネスモデルを設計するうえで重要なことは何か。圧倒的な成功を収めている会社の発想はどこが違うのか――。注目のダントツ企業を題材にして、ビジネスを創造・発展させるポイントを解説した書籍『事業創造のロジック』は、そのとっかかりとして、電子書籍の勝者アマゾン・ドット・コムのビジネスモデルを分析している。
同書の発売直後、アマゾンに圧倒されたソニーが北米における電子書籍事業からの撤退を発表した。電子書籍の先駆者だったソニーの敗因はどこにあるのか。アマゾンの勝利は何を教えるのか。また、ソニーの逆襲はあるのか。『事業創造のロジック』の著者、根来龍之・早稲田大学ビジネススクール教授に聞いた。
米国でも日本と同じモデルを続けてしまった
ソニーは北米の電子書籍ストア「リーダーストア」を閉鎖し、その事業を楽天グループに売却することを決めました。ビジネスモデル論の観点から見ると、ソニーの敗因はどこにあるのでしょうか?
根来:ソニーは電子書籍の先駆者です。電子書籍の歴史は、ソニーが1990年に発売した電子ブックプレーヤー「データディスクマンDD-1」から始まったと私は思っています。
しかし日本では期待したようには事業が立ち上がらず、米国を中心に事業を続けてきた。日本より米国のほうが電子書籍のコンテンツを集めやすいと判断したからです。ところが、その北米でも、アマゾンのKindle(キンドル)に圧倒されて、太刀打ちできなくなってしまいました。
ソニーの敗因は、「日本ではうまくいかなかったけれど、米国なら同じビジネスモデルで事業が成立する」という発想になっていたことでしょう。日本より米国のほうが電子書籍事業を立ち上げやすいという判断は正しかったかもしれませんが、だからといって日本と同じビジネスモデルを続ければいいというわけではない。米国に行くなら、別のモデルを考えるべきだったかもしれません。
アマゾンとの「戦略的提携」という発想があれば…
例えば、コンテンツ販売はアマゾンに任せてしまって、ソニーはアマゾンにハードを提供するという選択もあり得たでしょう。つまり「戦略的な提携」をするのです。『事業創造のロジック』でも触れましたが、アマゾンはキンドルを開発するときに、ソニーの電子書籍端末「リブリエ」を模倣したと言われています。ソニーがアマゾンに対して「電子書籍をやるなら、ハードはうちに任せてくれ」という提携を持ちかけたら、それが実現したかもしれません。
あるいは、アマゾンの対抗勢力になり得た米国最大の書店チェーン、バーンズ・アンド・ノーブルと提携するという発想もできたはずです。バーンズ・アンド・ノーブルに対して、「いずれアマゾンが電子書籍をやるだろうから、先手を打ちましょうよ」と持ちかけてみる。仮にその提携が実現していたら、歴史はひっくり返って、バーンズ・アンド・ノーブルとソニーの日米連合がアマゾンに勝っていたかもしれません。