サイエンスZERO「緊急SP! STAP細胞の謎に迫れ」書き起こし

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放送日時
2014年3月16日 23時30分~0時00分
再放送日時
予定なし(高校野球中継のため)

書き起こし

南沢奈央:このタイミングで本当にやるの?

中村慶子アナ:そんなお声も、ずいぶんいただいたようですが…。

竹内薫(@):もちろん、やります!「サイエンスZERO」ですから。

(VTR)

ナレーション(N):おととい日本を代表する研究機関、理化学研究所が異例の記者会見を行いました。

理化学研究所 野依良治理事長:世間の多くのみなさまにご迷惑、ご心配をおかけしたことをおわび申し上げたいと思います。

N:ことの発端は、ことし1月。世界的な科学雑誌「nature」に発表されたあの論文です。
STAP細胞
マウスの細胞を酸性の液体につけると体のあらゆる組織の細胞に分化できる多能性細胞になる。
そんな報告が生物学の常識を覆す大発見として世界を驚かせました。
ところが…。
その後、論文に基づいて世界の研究者が実験してもSTAP細胞が作れない。
さらに、論文に証拠として示された画像に疑いが投げかけられるなど問題が続出。
科学の信用に関わる事態とみた日本分子生物学会。
理事長が緊急の声明を発表しました。

(日本分子生物学会 理事長声明:3月11日)…「生データの即時、かつ、全面的な開示、…」

日本分子生物学大隅典子理事長(東北大学大学院教授):いったいどこまでが本当に真実のデータだったのかということのすべてが疑わしくなってしまうので、詳細をきちんと明らかにしていただきたいと。

(VTR終了)

N:大発見から一転。論文の撤回が迫られるまでに至ったSTAP細胞
一体、何が問題とされているのか。
科学の視点できちんと知りたいというあなたのために「サイエンスZERO」が徹底解説します!

タイトル:「緊急スペシャル!“STAP細胞”徹底解説」

南沢:うーん。あんなに大発見と騒がれていたじゃないですか。それが今こんな展開になっていて本当に、びっくりしてます。

竹内:前代未聞ですよね。今回、インターネットでも専門家の意見が飛び交っていてもう展開が目まぐるしくて。

南沢:そうですよね。そして私、専門用語が次々と出てきて今、何がどうなってるのか分からないんですよね。

中村:そこで今夜は緊急スペシャル。「サイエンスZERO」が科学の視点で徹底解説します。

竹内:そもそもSTAP細胞とはなんなのか。まずはこちらをご覧ください。
STAP…Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency。
日本語に訳すと刺激惹起性多能性獲得。

南沢:いや、これは難しそうな言葉ですね。

竹内:これ、意味するところはそんなに難しくないんですよ。
細胞に酸などの刺激を与えます。すると「初期化」されて、細胞があらゆる組織の細胞に変化することができる「多能性」を獲得する。そういった現象を発見したということなんですね。

南沢:初期化と多能性という言葉は、以前iPS細胞をやったときに出てきましたよね。

竹内:やりましたね。

中村:そうですよね。それでは、どういうことなのか改めておさらいしておきましょう。

(VTR)

N:私たちの体はたった一つの受精卵から始まり、それが何度も分裂を繰り返して筋肉や皮膚、血液といった役割の違う細胞になっていきます。これを細胞の「分化」といいます。
このとき、遺伝子レベルでは何が起きているのか。
実は、どんな細胞も本来は全身のあらゆる細胞になれる遺伝情報を持っています。
しかし、例えば皮膚の細胞に分化するときにはそれ以外の細胞になるための遺伝情報にはいわば、ふたがされて働かなくなります。
初期化とはこのふたが外れ、再び、どんな細胞にもなれる受精卵のような状態に戻ること。
初期化が起きて、さまざまな細胞になれる能力を手に入れた細胞を「多能性細胞」。一般には「万能細胞」とも呼んでいるのです。

(VTR終了)

南沢:初期化って言ってみれば、すでに成熟した細胞が赤ちゃんみたいな状況に戻っちゃうってことですよね。

竹内:その通りですね。
人工的に細胞を初期化して作られる多能性細胞としてはiPS細胞が有名ですよね。

南沢:そうですね。

竹内:山中さんが最初にiPS細胞を作ったときには、一度分化した細胞にいくつかの遺伝子を入れました。
そうすると初期化が起きたんですね。
これ、人工的に起こすのはなかなか大変なんですよ。
ところがSTAP細胞は弱い酸性の液に細胞を漬けるだけで初期化が起きてしまうということで、そんな簡単な方法で初期化できちゃうの? と世界中の研究者が当初びっくりしたんですね。

中村:なんですが、ニュースなどでもご存じのとおり、論文発表後国内外のさまざまな研究者が次々と、研究成果に対して疑問を投げかけることになったんです。
そして、ついにおとといの金曜日には論文の著者の多くが所属する理化学研究所が会見を開きました。

(VTR)理化学研究所の会見:今月14日

N:理化学研究所が外部の有識者を加えて作った調査委員会の中間報告。
論文にはほかからコピーされた文章や改ざんされた画像があったことなどを認めました。
ノーベル賞化学者の野依良治理事長をはじめ、理研幹部がこれに対して見解を述べました。

野依:大変ゆゆしき問題だと思っております。
きわめてずさんな取り扱いがあったと。あってはならないことと思っております。

発生・再生科学総合研究センター 竹市雅俊センター長:論文の信頼性を著しく損ねる誤りが発見されました。
研究をやり直すことが最も重要であると私は判断し、論文撤回を著者に勧めました。

川合眞紀理事(研究担当):ちょっと不注意というにはあまりにも多い、ミスリーディングな処理がございましたので、科学者の良識から考えると、少し常道を逸しているなというふうには私は思っております。

(VTR終了)

南沢:論文を撤回する動きもあるんですよね。

竹内:そうですね。ただ、まだ中間報告なのでこれから、どうなるかは分からないんですね。

南沢:だけど、あれだけ大発見と言われていたのに、どうしてこういうことになっちゃったんですかね。

中村:今回の急展開を科学的に理解するのに重要なキーワード2つあります。それが、こちら。
「Oct4」と「TCR再構成」。

南沢:なんですか、それ。ちんぷんかんぷんです。

竹内:そうですよね。ただ、この番組を見終わったら「なるほど!」ってなりますから。

南沢:本当ですか。一体、何なんだろう。

中村:発表から2か月足らずで論文を取り下げようという事態にまで急展開したSTAP細胞。そもそも研究チームは何をどう証明してSTAP細胞を作り出したと発表したのか。
実は、そこに今回の問題を理解する鍵があるんです。

(字幕)NEXT…“STAP細胞”はどう証明された?

(VTR)

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 小保方晴子研究ユニットリーダー:外部刺激によって、もしかしたら分化状態の初期化が起こりうるんじゃないか。

N:細胞を酸につけると初期化が起こる。
そんな驚くべき現象を、研究チームはどうやって証明したというのか。その鍵を握るのが「Oct4」と呼ばれるたんぱく質です。
Oct4は、iPS細胞など多能性を備える細胞にとって重要なたんぱく質。これがあるからこそ、細胞は初期化された状態を維持できると考えられています。
まさに多能性細胞の目印ともいえるたんぱく質なんです。
ということは、もし酸に漬けた細胞が初期化されれば、目印であるOct4が現れるはず。
そう考えた研究チームはまず、Oct4が細胞内に現れると緑色に光るようにした特殊なマウスを用意。マウスから血液細胞を取り出し、酸につけました。
その細胞を培養しているときの様子を撮影した映像です。
培養を始めて2日目。一部の細胞が緑色に光り始めました。酸につけた細胞から多能性の目印、Oct4が現れた。これをもって研究チームは「初期化が起きた」と考えました。
このSTAP細胞は本当に、あらゆる細胞に分化できるのか。それを確かめるため、研究チームはSTAP細胞をマウスの皮膚に注入しました。
するとSTAP細胞が増殖し、腫瘍が作られました。
この腫瘍の中を調べたところ、皮膚、筋肉、腸など、STAP細胞から分化したとみられるさまざまな組織の細胞が見つかったといいます。
Oct4の出現。そして、さまざまな細胞への分化。
これらの結果から研究チームは「多能性細胞ができた」と結論づけたのです。

(VTR終了)

南沢:酸に漬けただけでiPS細胞みたいな万能細胞ができたんだとしたら確かにすごいですけどね。

竹内:いや、実はね、この段階ではまだiPS細胞みたいな万能細胞ができたわけじゃないんですよ。

南沢:え、どういうことですか。

竹内:ちょっと、こちらを見てください。
これは彼らの研究の流れを図示したものなんですが、細胞を酸に漬けてできたといわれるSTAP細胞。これはですね、実はそのまま放っておくと自分の力では増殖することができずに死んでしまうんですね。

南沢:あれ? だってマウスの体に入れたら増えて、いろんな細胞に変化したんじゃないんですか。

竹内:そうなんですよ。生体の中では元気に増える細胞も試験管の中では増えることができないっていうことはよくあるんです。

南沢:ああ、そうなんですか。

竹内:でも全然増えない万能細胞では医療とか実験に使うときに実用的じゃありません。そこで研究チームはですね、あるホルモンを加えたりしてこのSTAP細胞を培養してみたんですね。すると、このSTAP細胞がぐんぐん増えるようになった。
この増殖能力を獲得したSTAP細胞を彼らは、「STAP幹細胞」と名付けたんですね。

南沢:STAP幹細胞。

竹内:はい。こうやってiPS細胞のような万能細胞が誕生したということで大ニュースになったんですよ。

中村:こうした一連の成果を世界的な科学雑誌「nature」に論文として発表したのが今年の1月。ところがそれ以降、論文と同じように試してみても“STAP細胞”を作れないという指摘が、国内外の研究者から相次いだんです。

竹内:これ、「再現性がない」というんですね。ちょっと、こちらを見てください。
これ、科学の新発見がですね、どうやって科学の世界で受け入れられるかを示しているんですが。

(図)

科学の“新発見”定着までの流れ
[研究]→[論文発表]→[追試]→[再現性の確認]→[評価の定着]

竹内:研究が終わると、データとかを全部集めて論文として発表します。そうすると世界中の研究者がそれを再現しようとして追試を始めるんですね。
そして、この再現性がどんどん確認されていってみんなが認めて、初めて評価が定着するという。

南沢:論文が発表されたからってその成果が確かなものだと決まったわけではなかったんですね。

竹内:ではないんですよ。

中村:こちらをご覧ください。これは、アメリカの研究者がいろいろな追試の結果報告をまとめているウェブサイトです。

中村:現段階でSTAP細胞の追試に成功したという報告は見当たりません。ここに報告を挙げた日本の研究者の名前があるんです。

南沢:本当だ。

中村:論文発表後すぐからSTAP細胞の再現実験を試みていた、その研究者を取材しました。

(字幕)NEXT…“STAP細胞”が再現できない?

(VTR)

N:関西学院大学の関由行さんです。

(字幕)関由行専任講師(関西学院大学

N:細胞の中で初期化がどのように起きるかを研究しています。
酸につけるだけで初期化が起きるという発表に興味を持ち、マウスの皮膚の細胞からSTAP細胞を作ってみることにしました。
というのも論文には、血液細胞だけでなくさまざまな細胞からSTAP細胞ができたと書かれていたからです。

STAP細胞の論文の拡大…「brain, skin, muscle, fat, bone…」:「脳、皮膚、筋肉、脂肪、骨髄…」)

関:いろんな組織の細胞から同じようにできたということが論文に書かれていたので、けっこうあっさりできるかなと思っていました。

N:論文にある通り、pH5.7の酸性の液体に細胞をつけ、培養しました。
ところが、これまで3回行った実験のいずれも失敗。酸で処理した細胞はすべて死んでしまったのです。

(VTR終了)

南沢:えー…専門家の方が何度も試してるのにうまくいかないって、これは普通のことなんですかね。

中村:気になりますよね。ここからはですね、幹細胞に詳しい専門家と一緒に見ていきましょう。京都大学iPS細胞研究所特定准教授の八代嘉美さんです。よろしくお願いします。

八代嘉美(@):よろしくお願いします。

南沢:論文通りまねしてもうまくできないっていうのは、これはよくあることなんですか。

八代:そうですね。やっぱり細かい条件がいくつかあると。
やっぱり人によって手の動かし方が違うっていうレベルのところもありますし、それから細胞の培養に使う培養液だったり、加える、いろいろな細かい成分があるんですけど、そういうものもそのメーカーが違ってたりだとか。
当初は、そうした理由もあってなかなか再現実験ができないんじゃないかというふうに考える専門家も多かったということですね。

中村:で、きちんと再現できるような詳しい実験の手順を公開してほしいという要望が高まって、今月5日、理化学研究所は論文には書かれていなかった詳しい手順書をホームページで公開しました。その手順書が、こちらです。

STAP細胞作製に関する実験手技解説…今月5日」

竹内:この手順書の公開によって騒ぎが沈静化するかと思いきやですね、ここに書かれていた一文がですね、ちょっと大変なことで。
研究者たちがですね、STAP細胞なんて本当にあったの? と首をかしげてしまったんですよ。

南沢:ええっ、どんな一文があったんですか?

中村:それが、こちら。「STAP幹細胞にはTCR再構成がなかった」と書いてあるんです。

南沢:きっと重要な一文なんでしょうけど、ちょっと意味が分からないですね。だけどこのTCR再構成っていうのは、最初に出てきたキーワードのうちの1つですよね。

竹内:そうですね。このTCR(字幕:「T Cell Receptor」)の「T」はこれ、T細胞といってですね。STAP細胞を作るときに細胞を酸につけたわけですが、そこにあったリンパ球の一種なんですね。

南沢:T細胞。

竹内:このTCR再構成というのは、このT細胞だけに起きるある現象のことを指すんですよ。

(字幕)NEXT:重要キーワード TCR再構成とは?

(VTR)

N:T細胞は、病原体などから体を守ってくれる重要な細胞です。病原体に対抗する武器を細胞の表面に持っています。
攻撃すべき病原体は実にさまざま。それに合わせてたくさんの種類の武器を用意する必要があります。
その多様な武器を生み出すため実は、DNAが変化します。
一部が切り捨てられ、DNAの配列が変わるのです。これがT細胞だけに起きる「TCR再構成」。
そもそも、1つの受精卵から分化してできる全身の細胞は基本的に同じDNAを持っています。しかし、T細胞になった細胞はDNAが変化する。
つまり、TCR再構成はT細胞になったという証しなんです。

(VTR終了)

南沢:なるほど。TCRの再構成がT細胞の目印だってことは分かったんですけど、それがSTAP細胞とどういう関係なんですかね。

中村:STAP細胞の大事な点は、酸に漬けたことによって一度分化した細胞が初期化される、ということなんです。
もう一度、こちらの図をご覧ください。
この酸につけたマウスの細胞は実は1種類ではないんですね。いくつかの種類の細胞が集まったものなんです。
その中にT細胞も含まれています。
これらの細胞を酸につけてできたSTAP細胞のDNAを調べたら、そこにT細胞の目印、TCR再構成があったと論文には書いてあるんです。

竹内:つまり、STAP細胞を調べてTCR再構成があったということは、そいつはもともとはT細胞だった。それが初期化したんだよっていうその証拠だってことですね。

南沢:あれ、でも、さっき出た手順書には「TCR再構成はなかった」って書いてありましたよね。

竹内:いいことに気付きましたね。実はあの手順書に書いてあった「TCR再構成がなかった」っていうのは、STAP細胞ではなく、どんどん増えるようになったSTAP幹細胞のほうなんですよ。

南沢:え、途中まであったT細胞の目印が消えちゃったっていうことですか。

八代:彼らが説明上しているところでは、TCRSTAP細胞ではあったんだと。しかし、それがSTAP幹細胞に変わるときにTCRを持っている、TCRの再構成をされた遺伝子を持っている細胞というのは生存が不利になる。それの結果細胞がいなくなるんだ。そういうことを言っているんですね。

南沢:そんなこと本当にあるんですか。

中村:不思議ですよね。さらに、おととい理化学研究所が行った会見の中で問題となったのが、STAP幹細胞ではなくてさらにその前のSTAP細胞にも、本当にTCR再構成があったのかということなんです。
こちらの画像をご覧ください。

(VTR)

N:これは、STAP細胞TCR再構成があった証拠として論文に載った画像です。

(字幕)遺伝子解析結果

N:まず、真ん中の列がT細胞の遺伝子を調べた結果です。このしま模様がTCR再構成を示しています。
そして、隣の2列が酸に漬けてできたSTAP細胞の遺伝子です。T細胞と同じくしま模様が見えます。
これをもって研究チームは、STAP細胞はT細胞が初期化されてできたものだと主張しました。
しかし、画像をよく見ると真ん中の列だけ背景の色が濃くなっています。実はこの部分、別の実験データから切り貼りされたものであることを理化学研究所が認めたのです。

(VTR終了)

南沢:切り貼りか…。じゃあ、STAP細胞ができたっていう証拠を信用できなくなっちゃったってことですかね。

八代:その信用性が揺らいでいるというのは事実でしょうね。
じゃあ、その細胞はどこからきたんだろうと。そうしたことを考えると、いくつか、やっぱり可能性ができてしまうんですね。
1つは彼らが主張しているように、きちんと、なんらかの細胞が初期化をされていると。ただし、その初期化をされている細胞というのがなんだかよく分からない。
もう1つ考えられるのは、酸で処理をするということによってもともと体の中にいた多能性幹細胞を選び出しているのではないかという可能性があるということですね。

(図)

  • 可能性1:何らかの細胞が初期化された
  • 可能性2:もともとあった多能性細胞が選ばれた

中村:実は、研究成果に対して生じている疑いというのはこれにとどまりません。おとといの会見で理化学研究所がもう一つ、論文の根幹を揺るがす問題を認めたんです。

(VTR)

N:STAP細胞に多能性があることを確かめる大事な実験、覚えていますか。
マウスの皮膚にSTAP細胞を注入したら、細胞が増えて腫瘍ができたと論文では言っていましたよね。
その中の細胞を顕微鏡で捉えたという、この画像。
STAP細胞が分化してできたとされる皮膚、筋肉、腸といった異なる組織の細胞が映し出されています。
ところが。STAP細胞の多能性を示すこの重要な画像が実は、別の論文の画像と同じであることが分かりました。
それは、研究チームの中心である小保方さんが3年前に書いた博士論文です。
問題の画像が、こちら。
今回のSTAP細胞とは別の骨髄から取り出した細胞をマウスに注入し得られたものです。
STAP細胞の画像と重ねてみます。

(字幕)今月14日 会見

説明者:学位論文に使われている画像と酷似している。我々が見る限り、同じものであるということがわかりました。

N:重要な証拠であるはずの画像が別の研究で撮られた画像だった。そのことは、論文の共同著者にも大きな衝撃を与えました。

論文の共同著者 山梨大学 生命環境学部 若山照彦教授:STAP細胞がいろんな臓器に分化できるということを示した大事な写真なのに、それが違うものだった。最後の一線を越してしまった。

N:若山さんは、自分が参加した実験にさえ疑いを抱くようになったといいます。
その実験の映像です。中央に映っているのは、若山さんが小保方さんからSTAP細胞として渡された細胞の塊です。若山さんはこれを切り分け、マウスの初期胚の中に入れました。
すると、その細胞が全身のさまざまな細胞に分化し、一匹のマウスができたのです。これはSTAP細胞の多能性を示す決定的な証拠のはずでした。

若山:もらったSTAP細胞については何もぼくにはわからなかったことなんです。ぼくがもらったSTAP細胞は何だったのかが一番、今知りたいことなんですよ。

(VTR終了)

南沢:えー…研究に関わった人までも今や、もう疑いを持っているんですね。本当のとこはどうなんですかね。

中村:若山さんは実験に使ったSTAP幹細胞を第三者機関に預けて、詳しく調べてもらうことにしています。
でも、どうしてこういった論文が世に出てしまったんですかね。

八代:現在の生物科学というのは、さまざまなエキスパートが一緒になって研究をしているというのが現状ですよね。今回の論文の中を見てみても、例えば受精卵の中に細胞を入れる、そういう操作が非常に熟練をしている人。あるいは、遺伝子ゲノムの解析をする、そういうものに熟達をしている人。そういう形で、非常に高度な専門性を持った人たちが何人も名前を連ねている。
そういうこともあって、ほかの分野の独立した立場の研究者が「こういうデータです」と持ってきたものについて、あからさまに疑うということはなかなかないですよね。基本的にはやはり性善説で成り立っている世界ではあります。

竹内:今回、専門家だけじゃなくて、インターネットで一般の方も議論に大勢参加しましたよね。

八代:そうですね。やはり、SNSとかブログっていうものをハブにして、いろいろな人が参加をしていたというのが印象ですよね。
仮に書き込んでいらっしゃる方が分子生物学だったり細胞生物学だったりと、そういう知識が例えばなかったとしても、画像の操作があるかどうかを見る画像の検索能力が高い、あるいは文章同士を比較してこれが本当にどこか、ほかに原典がないのかということを調べたりっていうことができるようになった。ある意味科学研究者だけではできない、新査読システムということを見せてくれた。言うなれば「査読のクラウド化」という言い方もできるかもしれないですけども。

竹内:ずばり、現時点でSTAP細胞っていうのは存在するんですか、しないんですか。

八代:あるというふうには信じたいというのは、もちろん僕も科学のそばにいる人間ですので思いますけれども、現状の論文の錯誤があったり、不適切な使用があったりというところを見ると、なかなか「ああ、そうですか。じゃあ、あるんですね」というふうに言うのは難しい状況ですね。

南沢:じゃあ、今回のような、刺激を与えるだけで万能細胞ができるっていうのは、やっぱりそれはありえないことなんですかね。

八代:そうですね。人間の体の中にそういう多能性を持った細胞が全くいないっていうふうに断言することっていうのはなかなか難しいと思うんですね。

中村:ちょっと、こちらをご覧ください。
こちらは、シクラメン。その茎を切るという物理的な刺激を与えてみます。すると、切り口の細胞がこんなふうに、もこもこした塊になるんです。

南沢:本当だ。

中村:これが「カルス」といって初期化した細胞の塊なんです。このカルスを培養するとそこから、また根や葉などすべての種類の細胞が出てきます。

南沢:えー、本当だ。植物にあるなら確かに、人間にあってもおかしくないって考えてもいいですよね。

八代:そうですね、植物と人間、比較すればいっぱい違うところはあるんですけども、だからといって植物にできて人間にできないっていうふうに決めつけてしまうっていうのは、やっぱり研究科学の可能性を狭めてしまうということになりますよね。ですから、やっぱりいろいろな可能性があるということは心の中にはとどめておきたいなというふうには思います。

竹内:とはいえですね、やっぱり今回は論文自体にいろいろと切り貼りとかですね、画像が間違ってたとかですね、いろんな問題があったと思うんですね。日本の科学に対する信頼みたいなものが揺らいできたような気がしてきて悲しいような感じですか。そういう感情が僕の中にあるんですね。
やっぱり、これ真相をちゃんと究明して、STAP細胞が本当はどうなのかというところをやっぱり、きちっと説明というか決着をつけてほしいなと思いますね。

八代:そうですね。きちんとまた情報は伝えていかないといけないんじゃないかなと思います。

中村:八代さん、今夜はありがとうございました。

八代:ありがとうございました。

(終わり)