- 2014年1月7日(火)〜3月23日(日)
近代日本を代表する陶芸家、板谷波山(1872〜1963)の作品約280件を所蔵する出光コレクションから、厳選された代表作 約180件が一堂に会します。ファン待望の人気作品が勢揃いするのはもちろん、初期から晩年までを網羅する本展は、初めての方にも、波山の世界を深く知る絶好の機会となるでしょう。かつてない規模で、波山芸術を多面的に堪能し尽くしていただく展覧会です。お見逃しなく!
葆光彩磁鸚鵡唐草彫篏模様花瓶 板谷波山 大正13年(1914)
出光美術館蔵
波山芸術の〈原型〉は、明治時代末期から大正時代に誕生しました。波山が光をあらわす〈葆光彩(ほこうさい)〉を開始した頃、5歳年上の夏目漱石は小説『それから』(明治43年/1910)を発表します。封建制の遺風から脱し、人間の自然な感情と生理を肯定する、生命賛美の思潮が芸術と社会に広くゆきわたってゆくこの時代は、生命主義の時代とも呼ばれます。このコーナーでは、「葆光彩磁鸚鵡唐草彫篏模様花瓶(ほこうさいじおうむからくさちょうかんもようかびん)」「葆光彩磁細口菊花帯模様花瓶(ほこうさいじほそくちきくかおびもようかびん)」など、生命感と官能性を漂わせる初期の代表作を、同時代芸術に充ちる、生命主義の響き合いの中に位置づけ、波山芸術の誕生期を探ります。
棕櫚葉彫文花瓶 板谷波山 大正3年(1914)
出光美術館蔵
波山の代表的な技法の一つに、文様を浮彫する〈薄肉彫(うすにくぼり)〉があります。東京美術学校彫刻科で学んだ技を生かした、その端正な彫刻文は、文様に〈背景〉と〈光〉をもたらしました。このコーナーでは「菊絵手付鉢(きくえてつきはち)」など初期の〈彫らない波山〉から、いかにして薄肉彫の〈彫る波山〉へ進んだか、そこでどのような表現が見いだされたのかを探ります。「棕櫚葉彫文花瓶(しゅろはちょうもんかびん)」の構築的な多層の彫り、「葆光彩磁瑞花鳳凰紋様花瓶(ほこうさいじずいかほうおうもんようかびん)」の、光を奏でる彫りと染めの重奏を、じっくりとご覧ください。
彩磁月桂樹撫子文花瓶 板谷波山 大正2年(1913)
出光美術館蔵
うつろいゆく青、紅、黒、茶。波山は、和音を聴きとるように、色彩の微細な差異にも鋭敏な感性を向けました。宮沢賢治の童話など、清新な色彩語が登場する時代、中国・清朝の磁器に学ぶ形をとりながら、単色釉は波山にとって色彩研究の舞台でした。「白磁」「氷華磁(ひょうかじ)」「葆光白磁(ほこうはくじ)」「凝霜磁(ぎょうそうじ)」など、白のちがいを呼びわける美しい名は、自己の創作について多くを語らなかった波山の、雄弁な詩語といえるでしょう。さらに「葆光彩磁紅禽唐草小花瓶(ほこうさいじこうきんからくさしょうかびん)」「彩磁月桂樹撫子文花瓶(さいじげっけいじゅなでしこもんかびん)」などにみられる光の表現に注目し、波山が〈色彩・白・光〉という近代芸術共通のテーマに、いかに挑んだのかを探ります。
朝陽磁鶴首花瓶 板谷波山 昭和13年(1938)
京都国立近代美術館蔵
波山の豊穣な意匠は、同時代の芸術や科学のもたらした新しい美と共に育ちます。「渦紋結晶釉花瓶(うずもんけっしょうゆうかびん)」は、当時の芸術にあらわれた、結晶や鉱物への美的関心の発露としてとらえられ、「朝陽磁鶴首花瓶(ちょうようじつるくびかびん)」は短歌雑誌『明星』などにも共通する、近代天文学が啓(ひら)いた天体への憧れを映すかのようです。古典意匠をふまえた「彩磁呉州絵香炉(さいじごすえこうろ)」の見つめ合う動物たちは、キリスト教や讃美歌の広がりと共に、明治時代末期からアンデルセン童話や泉鏡花の小説にあらわれる〈友愛〉の精神に、愛らしい形を与えたものではないでしょうか。「葆光彩磁草花文花瓶(ほこうさいじくさばなもんかびん)」などの花々は、多角的に研究、変奏され、優美な姿を競い合います。生命を愛し、生命に魅了された波山の意匠世界をご堪能ください。
器物図集 巻三1329 明治35年(1902) 出光美術館蔵〈1/7-2/2展示〉
陶磁器の形に花や動物の姿を重ねた図案「器物図集(きぶつずしゅう)」、身近な植物をしなやかに写したスケッチ「花果粉本(かかふんぽん)」、甘美な色彩が躍る「模様集」、勤勉な学びを伝える古典模写。波山の膨大な素描は、陶芸創作の舞台裏をまざまざと伝えます。端正な陶芸からは想像もつかない試行錯誤の苦みをおびた図案は、時に野太い線を重ね、花の生命を器に融合させようと、飽かずに問い続けた軌跡です。波山の思考、憧れ、美意識、悩み。あふれだす波山の夢の痕跡を、素描にご覧ください。
素描を約120件! ―創作の舞台裏、たっぷりお見せします
花果粉本 1152 昭和33年(1958) 出光美術館蔵〈1/7-2/2展示〉
波山の素描は図案・写生・模写と多岐にわたり、今なお甘美な色彩と繊細な美感を湛えています。そこには清書された、いわばよそゆきの素描の他に、創作の現場と思考の先端を伝える、もう一つの素描があり、波山の理想とする美しい陶芸への執念を、まざまざと見せてくれるものです。約120件の素描(※3期にわたって展示替あり)によって、波山の思考、息づかいと情熱とを感じてください。
椿文茶碗 板谷波山 昭和38年(1963) 出光美術館蔵
見る者を至福の世界に包み込む、波山の陶芸。それは「淡黄磁扶桑延壽文花瓶(たんおうじふそうえんじゅもんかびん)」にみるような誠実な彫刻文様や、「葆光彩磁桃文花瓶(ほこうさいじもももんかびん)」の柔らかな光、「彩磁延壽文花瓶(さいじえんじゅもんかびん)」の桃の莟(つぼみ)・花・実が共存する生命への讃嘆によって、一歩一歩築かれたものです。時代の変化の中、変わらぬ姿勢で美しいもの無垢なものを夢みつづけた波山は、91歳の絶作「椿文茶碗」において、これから花開いてゆく、生まれたばかりの生命、莟を大きくあらわしました。世を去ってから半世紀のいま、波山が私たちにそっと手渡す、夢みる力を感じてください。
夢みる力とは? ―波山から50年後の日本人へ
文化勲章まで受けた巨匠波山ですが、豪快さを好む桃山陶芸ブームの頃には、表面的な美しさに過ぎないなどの批判を受ける場面もありました。しかし波山は作風を変えることなく、若き日の理想を終生つらぬき通します。近代陶芸の大きな一角をほとんど一人で占めることになった、波山の陶芸。その至福ともいえる世界は、数度の戦争や震災を乗りこえ、美しいもの無垢なものを夢みつづけた軌跡そのものです。波山が世を去って半世紀のいま、夢みる力、幸福を求める力とはなにか、その陶芸は静かに語りだそうとしています。
開館時間- 午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
会期・開館時間等は都合により変更することがあります。最新情報は当ウェブサイトまたはハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。
- 休館日
- 毎週月曜日 ※ただし1月13日は開館します
- 入館料
- 一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上 各200円引)
中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要です)
※障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です
- 電話番号
- ハローダイヤル
03-5777-8600(展覧会案内)