【大前研一のニュース時評】原発再稼働の前に必要な事故原因の解明と再発防止策

2014.03.16


福島第一原発【拡大】

 東日本大震災の8日後の2011年3月19日、「大前研一ライブ」の公開収録で、「福島第一原発で何が起こり、今後どんなリスクが想定されるのか」を解説した。あれから3年がたち、原発の周辺はどうなっているのか。振り返ってみる。

 私は当時、「炉心が溶融して、燃料が格納容器の底まで抜け、メルトダウンしている」と主張し、この収録をユーチューブにアップした。これを見た当時の菅直人首相から「原子力安全委員会(当時)の言うこととは全然違う。説明に来てくれ」と頼まれ、官邸に行った。当時のことを覚えているが、やはり菅さんの周りには原子炉のことがわかる人はいなかった。政府は司令塔が不在で、東京電力も機能不全だった。

 5月になって、政府はやっと燃料棒の一部損傷を認めたが、東電が全炉心の溶融を認めたのは12月だった。

 同年6月、「ストレステストの結果次第で、ほかの原発を再稼働させる」と経産省および保安院が主張した。私は「あれだけの事故を経験した国民が、コンピューターの解析だけで賛成するとは考えられない。福島の事故原因とそれから出てくる再発防止策を説明しなければいけない」と、民主党の細野豪志議員に言った。数週間後、細野さんが原発担当大臣になり、「その作業をやってほしい」と頼まれた。

 私の“1人事故調”には、東電の他に原発メーカーの日立、東芝からも人を集めてもらい、福島第一原発事故の検証結果や再発防止策に関する報告書を9月に提出した。この中で私は「どんなことが起きても過酷事故は起こさないという設計思想や指針がなかった。天災ではなく人災だ」と指摘し、原発再稼働への教訓として「いかなる状況でも電源と原子炉の冷却源を確保すること」を求めた。BWR(沸騰水型軽水炉)だけではなく関電などが採用しているPWR(加圧水型軽水炉)の分析も同年12月までにまとめた。480ページに及ぶリポートは全て無料で公開されている。

 2012年の秋になって私は東電の原子力改革監視委員会の委員に任命され、東電のチームと事故の分析をした。

 私のリポートのすべての指摘事項を東電側に検証させ、「間違っている部分があったら指摘してほしい」と言ったのだが、「まったく、このとおり」ということだった。東電はこの検討結果をホームページで公開している。多くの項目に関しては初めから知っていたが、政府も東電も2年間にわたって認めなかった、ということだ。

 この大事故についての関係者の反省の言葉は、今日まで国民の前でなされていない。それなのに、自民党政権は「原子炉再稼働」に前のめりになっている。その前に、国民に何が起こったのか、どういうことをすれば再発防止が可能なのか、という納得のいく説明をしなければならない。特に事故が発生した時の私の提案した「政府側の責任体制、自治体との意思決定のルール作成」などの作業は全く進んでいない。

 かつて私は大阪市の橋下徹市長に対し自分のリポートを送り、「十分に検討して対策を取れば、再稼働は可能」と説得して、関西電力の大飯原発3、4号機(福井・おおい町)を動かすのを手伝った。

 しかし、再稼働の鍵を握る規制委員会が福島の分析をし、それに基づいて安全基準を作成した形跡はない。このまま政府側に何の反省もなく、国民に対しても事故原因の解明と再発防止策の説明もなく、ただ単に「エネルギー問題として原子炉が必要だから」といって再稼働するのは、「反対」と言わざるを得ない。

 ■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。

 

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