原発再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査が、新たな段階に入った。

 九州電力の川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)に関する検討を優先し、審査書案をまとめることにした。新規制基準に照らして、現時点で適合に最も近いと判断したからだ。他の原発の審査からも職員を回して、集中的に作業する方針だ。

 しかし「規制委の規制は最小限の要求」(田中俊一委員長)である。国際原子力機関(IAEA)が求める多重防護によって、大量の放射性物質をまき散らす過酷事故が起きても周辺住民を守れるようになったか。その点検が欠かせない。

 川内原発は立地条件が他原発より有利だった。敷地内に問題となる断層がなく、周辺に大きな活断層は少ない。敷地は標高13メートルで、津波の心配も小さい。

 九電は耐震設計の基になる基準地震動を2度にわたって引き上げた。福島第一原発の事故を踏まえ、事業者に自ら安全性を高める姿勢を求めている規制委のメガネにかなった面もある。想定地震の見直しを拒み続け、昨年9月まで動いていた大飯原発が優先審査に入らなかった関西電力と対照的である。

 優先審査では、火山噴火の影響や、見直した基準地震動に照らした耐震性、過酷事故時の事業者の対応などを詳しく厳格に検討することが期待される。

 だがそれだけでは不十分だ。

 日本の原発規制は事故の前、「厳格な対策で、過酷事故が現実に起こるとは考えられない」と慢心していた。

 IAEAが掲げる5層の多重防護のうち、外側の二つ、つまり第4層の「事故の進展防止と過酷事故の影響緩和」は事業者任せ、住民の避難計画など第5層の「放射性物質の放出による放射線影響の緩和」も名ばかりだった。

 新基準で事業者の過酷事故対応は審査に組み込まれたが、事業者の枠を超える第4層と、第5層に対する規制委の取り組みは依然弱い。

 朝日新聞の首長アンケートによると、川内原発30キロ圏の9市町はすべて避難計画をつくったという。だが、ほとんどの首長が「要援護者の避難支援策」や「地震、津波など複合災害時の対策」「避難時の渋滞対策」「安定ヨウ素剤の配布」などを課題に挙げている。

 米原子力規制委員会のヤツコ前委員長は「避難計画が不十分ならば、米国では原発停止を指示するだろう」という。

 使える避難計画をつくることは事故の最低限の教訓である。