都心の気温が15度を超え、春の陽気に包まれた3月12日。皇居と東京・丸の内の明治生命館の間を、金ボタンのフロックコートに身を包んだ御者が操る儀装馬車が駆け抜けました。乗り込んだのは、独裁政権崩壊後、混乱が続くリビアから来た新任の大使です。出発する際、見物人が手を振ると、笑顔で振り返していました。

 この馬車について、ご存じの方も多いでしょう。昨年11月に米国のキャロライン・ケネディ駐日大使を送迎したことで、一躍注目を浴びた宮内庁の儀装馬車です。震災被災地や在日米軍が展開する沖縄への訪問など、精力的に活動するケネディ大使の日本デビューが、天皇陛下への信任状奉呈式でした。この行事で一番目を引いたのは、ケネディ大使が皇居と丸の内のオフィス街を馬車列で往復した模様。ケネディ大使が乗った華やかな馬車列を一目見ようと、沿道には数千人が集まり、さながら「パレード」のような状態になりました。

 信任状奉呈式とは、着任した外国大使が、天皇陛下に自国の元首からの「信任状」を奉呈する儀式。このとき、宮内庁は大使を馬車列か車列で皇居まで送迎しています。以前はあらかじめ馬車か車のどちらがよいか、大使側の希望を確認していたと言いますが、ほとんどの大使が馬車を選ぶため、最近では基本的に馬車を使うようにしているそうです。

 宮内庁によると、新任大使の送迎に馬車を用いる国は、イギリスやスペインなど数カ国。ケネディ大使も大変喜んでいたそうで、国際親善の一環としての効果も期待されています。

 平日の昼間、皇居前を馬車列が走るおとぎ話のような光景に、出くわした人らはたいてい携帯電話や手持ちのカメラを向けます。宮内庁では、この光景を観光客らに楽しんでもらおうと、2008年からおおよその運行時間をホームページで事前に公開するようになりました。関係者は「それ以降、沿道の見物人が増えたようです」と教えてくれました。

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 宮内庁は現在、40両余りの馬車を管理、所有しています。実は、儀式や皇室行事に使われる華やかな「儀装車」や「普通車」のほか、訓練用や運搬用まで種類はさまざまだそう。

 儀装馬車は1号から4号まで種類があり、信任状奉呈式で外国大使の送迎に使われるのは4号。昭和初期までに前身の宮内省で作られたもので、長さ約4・5メートル、高さ約2・2メートル、幅約1・9メートル。重さは約1・1トンある2頭引きです。